完成報告が並ぶたび、編みかけを箱に戻していた私が、スタンプしか押せなかった理由
開くのが遅れる通知
手芸店の編み物講座で知り合った5人のグループチャットで、私は歴だけがいちばん長い立場でした。誰かの完成報告には、まず私が感想を書き、ほかのメンバーがそれに続いて話が広がる。いつからか、それがこのグループの流れになっていました。ただ、講座で隣の席だった年下の子の投稿だけは、通知を見ても開くのが遅れました。彼女の靴下の写真が上がった日も、別のメンバーの帽子には色の質問を書きながら、その写真は開かないまま画面を閉じました。翌日になって、拍手のスタンプを1つだけ押しました。
箱の中のカーディガン
理由は分かっていました。ほかのメンバーの作品には、糸の始末や模様の選び方など、まだ私から教えられることがありました。彼女だけは違いました。始めて1年も経たないのに、編み目は私のより揃っていて、開くたびに、袖を1本編んだきり箱にしまったカーディガンを思い出すことになるのです。だから彼女の投稿だけ開くのを後回しにして、開いてしまった分にはスタンプで済ませていました。私が口火を切らない写真には、誰も続きません。それを知っていながら、無関心のふりという、いちばん楽な逃げ方を選んでいました。
届いたメッセージ
彼女から個別のチャットが届いたのは、そんなころです。
「私の投稿、載せないほうがいいですか」
既読を付けたまま、私は台所とスマホの間を何往復もしました。ごまかしの文はいくつも浮かびましたが、彼女に投稿をやめさせてしまったら取り返しがつきません。私は長い返信を、謝ることから書き始めました。
「ごめんなさい。あなたの写真だけ、返事をかけませんでした」
「私、編みかけのまま、編み物をやめようとしていたんです」
彼女の編み目に及ばない自分のことも、箱のカーディガンのことも、そのまま書きました。
そして...
送ったあと、私はクローゼットから箱を下ろしました。袖が片方だけのカーディガンを写真に撮り、グループに載せます。最初に返ってきたのは、彼女の一言でした。
「続き、一緒に編みませんか」
片方だけだった袖は、次の集まりまでに両方になりました。感想の口火を切る役に戻るより先に、載せる側に戻れた気がしています。
(40代女性・パート)
本記事は、読者アンケートに寄せられた実体験をもとにした本人視点の記事を参考に、相手側の心情を想定して制作しています。実際の相手本人への取材ではなく、編集部による解釈を含みます。
(ハウコレ編集部)
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