「お母様によろしく」しか言えなかった私が、3本の空き瓶を返した理由
最初のお正月の返事
息子夫婦は定期的に家へ来てくれていました。訪問の日どりは、息子の妻とメッセージで決めています。
実家のお母様が漬けた梅干しを、毎回手土産として持ってきてくれました。私は瓶を戸棚へ入れ、帰り際に「お母様に、よろしく伝えてね」と言うだけでした。
きっかけは、結婚後最初のお正月です。
「ご実家では、お正月はどう過ごされるの?」
そう聞くと、息子の妻は返事を選ぶように間を置き、「普通に過ごします」と答えました。そこで、私は実家の話へ踏み込まれたくないのだと決めつけてしまったのです。
聞かないことで広がった距離
本当は、聞きたいことがいくつもありました。梅干しは誰から教わったのか、お母様は元気にしているのか、実家ではどのように過ごしているのか。
けれど、また困らせるのが怖くて質問できませんでした。嫌われたくない気持ちを、配慮だと思うことにしていたのです。
息子夫婦が帰ると、私は戸棚から瓶を出し、台所で梅干しを食べました。味の違いに気づいても、その感想を息子の妻へ伝えませんでした。「おいしい」と言えば、そこからお母様の話が始まってしまうと思ったからです。
ある訪問の日、息子の妻が「母が、また梅干しを漬けたそうです」と話してくれました。私は短く礼を言い、別の話題へ移りました。その日を境に、お母様の話が出なくなりました。
空き瓶と書き終えた手紙
息子の妻も、私が実家の話を避けていると受け取ったのだと気づきました。相手を困らせないつもりで何も聞かず、私のほうから距離を作っていたのです。
私は空になった瓶を洗い、途中まで書いていた手紙を最後まで仕上げました。梅干しの味や食感について書き、今度漬け方を教えてほしいと添えました。
3本の瓶と封筒を紙袋へ入れ、帰り際に渡しました。
「これ、お母様に。瓶をお返しするのと、お手紙。今まで何も聞かなくて、ごめんなさいね」
息子の妻は、「母、喜びます」と答えて紙袋を受け取ってくれました。
そして...
次の訪問の日、息子の妻は梅干しの瓶と一緒に、お母様が漬け方を書いたメモを持ってきてくれました。
私は瓶を戸棚へ運ばず、その場で蓋を開けました。梅干しを1つ食べ、息子の妻へ「おいしい」と伝えました。
知りたいと思いながら、聞かないことを選んできた3年間でした。息子の妻が何でも話してくれるようになったわけではなく、私も質問の仕方にはまだ迷います。
ただ、次の梅干しを受け取ったときは、戸棚へしまう前に感想を伝えるつもりです。
(60代女性・主婦)
本記事は、読者アンケートに寄せられた実体験をもとにした本人視点の記事を参考に、相手側の心情を想定して制作しています。実際の相手本人への取材ではなく、編集部による解釈を含みます。
(ハウコレ編集部)
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