もう来ないと決めたベンチに戻った→打っては消して、結局一言も送れず画面を閉じた
半年ぶりのベンチ
彼女と関係を終えてから、あの公園の前を通ることを避けていました。近道だと分かっていても、仕事帰りには別の道を選びました。そこに行けば、終わらせたはずの時間がまだ残っているような気がしたからです。
別れる前、俺は最後まで理由をはっきり言えませんでした。忙しいとか、今は余裕がないとか、当たり障りのない言葉でごまかしました。彼女を傷つけたくないと言いながら、本当は自分が悪者になるのを避けていたのだと思います。
彼女から「もう終わりにしよう」と言われたときも、俺は「分かった」とだけ返しました。引き止める資格がないことは分かっていました。でも、その短さでさらに彼女を傷つけたことにも、後から気づきました。
共有アルバムに足した写真
その日、公園の前を通ったのは偶然でした。けれどベンチが見えた瞬間、足を止めました。付き合い始めた頃、彼女とよく座っていた場所です。缶コーヒーを2本並べて、仕事の愚痴や週末の予定を話していました。
ベンチは何も変わっていませんでした。変わったのは、そこに彼女がいないことだけでした。俺はスマホを取り出し、写真を撮りました。誰に見せるつもりだったのか、自分でも分かっていませんでした。
気づくと、消していなかった共有アルバムを開いていました。そこには、彼女と行った場所の写真がまだ残っていました。俺は撮ったばかりのベンチの写真を追加しました。通知が彼女に届くかもしれないと分かっていたのに、止めませんでした。
送れなかった言葉
写真を追加したあと、彼女にメッセージを送ろうとしました。「元気?」と入れて、すぐ消しました。「あの場所に来た」と入れて、それも消しました。どの言葉も、今さら自分だけ楽になろうとしているように見えました。
別れる前も、俺は彼女にちゃんと向き合いませんでした。だから今さら懐かしさだけを送るのは違うと思いました。謝るなら、何に対して謝るのかまで言わなければいけない。けれど、それを言葉にする覚悟もまだ足りませんでした。
画面には、何も書かれていない吹き出しだけが残りました。送るつもりはありませんでした。それなのに、触れた場所が悪かったのか、空のまま送信されてしまいました。取り消すこともできたはずなのに、俺はそれすらしませんでした。
そして...
彼女から返信は来ませんでした。来ないことに、どこかで安心している自分もいました。返ってきたら、今度こそ何かを言わなければならないからです。そこまで考えて、俺はまた逃げようとしているのだと分かりました。
共有アルバムに写真を足したことも、空のメッセージを送ったことも、彼女にとっては迷惑だったかもしれません。懐かしさを口実に、終わった時間へ勝手に手を伸ばしただけだったのかもしれません。
それでも、あのベンチで言えなかった後悔だけは残っています。彼女に届いた空白は、間違いではなく、俺が最後まで言葉にできなかった未熟さそのものだったのだと思います。
(20代男性・飲食店勤務)
本記事は、読者アンケートに寄せられた実体験をもとにした本人視点の記事を参考に、相手側の心情を想定して制作しています。実際の相手本人への取材ではなく、編集部による解釈を含みます。
(ハウコレ編集部)
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