私の名前を呼ぶ直前、彼のボイスメッセージには3秒の無音があった
何度聞いても、一秒は埋まらなかった
机にスマホを置いて、スピーカーから流し直しました。
「今度の休み、空けておいてほしい」
用件はそれだけで、録音は十秒に満たないものでした。それなのに、耳に残るのは言葉より手前の部分です。言いかけた何かを、引っ込めたような間でした。ここしばらくの彼は返事が短く、前回の約束もひとことで延期されたままです。その流れの先にあの3秒があったようで、気づけば同じ録音を十回以上聞いていました。
増えていく想像と、短くした返事
想像は勝手に膨らみました。転勤が決まったのかもしれません。改まって伝えたい、よくない話があるのかもしれません。
聞きたいことを文字にしては、送らずに消しました。3秒の間を問いただす自分が、ひどく小さく見えたからです。結局、返したのはひとことだけです。
「わかった。空けておく」
いつもなら絵文字のひとつも足すところを、句点で終わらせました。それが私なりの、ささやかな仕返しでした。
質問の答えは、紙の上にあった
約束の日に向かったのは、彼の最寄り駅でした。改札の向こうの彼は、鞄を体の前に抱えていました。駅前の公園まで歩き、ベンチに腰を下ろしたところで、ためていた質問を口にしました。
「あのメッセージ、名前の前に間があったよね」
彼はスマホを出して、その録音をその場で再生しました。あの3秒は、外で聞くといっそう長く響きます。録音が止まると、彼は言いました。
「大事な話があるんだ、って最初に言うつもりだった」
続けて鞄から出てきたのは、四つ折りの間取り図です。
「ふたりで住める部屋、ずっと探してた」
返事が短かったことも、約束を延ばしたことも、仕事帰りに一人で内見を回っていたからでした。全部そろえてから渡したかったのだと、彼は紙の折り目を伸ばしながら話します。条件の欄の、二人入居可の文字だけが、ペンで丸く囲ってありました。
「その部屋、今から見に行ける?」
そう言ってから、声が弾んでいたことに気づきました。
そして...
あのボイスメッセージは、消さずに残されています。同じ3秒なのに、今では、切り出す前の深呼吸にしか思えません。疑う側にいた数日の私のことは、隣を歩く本人に、まだ話せていません。
(20代女性・医療事務)
本人記事は、ハウコレ読者への独自アンケートに寄せられた実体験をもとに制作していますが、個人が特定されないよう、一部設定を変更しています。
(ハウコレ編集部)
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