彼女の相談だけ、俺はいつも答えを後回しにしていた
誰にでも返せるのに、その人にだけ
同僚や友達からの相談には、スラスラと言葉が出てきます。とりあえず思いきって行ってみなよ、やってみたら見える景色もあるよ。正解じゃなくても、相手が前に進める一言を返せばいい。そう思ってやってきました。
彼女にも、これまではそうしてきたつもりです。バイトの愚痴も、友達のもめごとも、明るく返せば彼女はほっとした顔をしてくれました。
それなのに、今回の相談だけは、何度も書いては消してを繰り返して、返事を返せませんでした。彼女から届いていたのは、「前から考えてた一年間の留学、思いきって行こうか迷ってる」という一文でした。
背中を押す返事だけが、書けなかった
一年離れた場所で暮らす彼女を想像するたびに、入力欄の文字を打ち直して、結局ぜんぶ消していました。応援したい気持ちと、行かないでほしい気持ちが、どうしてもひとつにまとまらなかったのです。
彼女はきっと、いつもみたいに俺が笑って「行ってきなよ」と返してくれると思っていたはずです。それがわかっていたから、なおさら適当な返事ができませんでした。
答えを出せないまま、俺は彼女の相談を「相談 保留メモ」というメモアプリに書きとめておきました。彼女の名前と、最後に届いた一文だけを残して、あとで返すと自分に言い訳をしながら、ずっと開いたままにしていたのです。
見せるつもりのなかったメモ
その日は休みが重なって、俺たちは久しぶりにふたりでカフェにいました。話がふと止まったとき、俺は手元のスマホを取り出して、なんとなく保留メモをもう一度のぞいていたのです。「ちょっと」と席を立ったとき、画面をつけたまま、テーブルの真ん中にスマホを置いてしまいました。
戻ってきたとき、彼女は笑ってうなずいてくれただけでした。気づかれずに済んだ。そう思い込んでいた俺に、後日、彼女のほうから切り出されたのです。
「私の相談だけ、保留に入ってたよね」
そして...
ごまかすこともできました。でも俺は、コーヒーのカップをテーブルに戻して、打ち明けました。
「君にだけは、行ってほしくなかったんだ」
保留にしていたのは、どうでもよかったからではありません。むしろ逆で、彼女に行ってほしくなかったから、背中を押すことも、引きとめることもできずに、ずっと答えを置いたままにしていたのです。いつも明るく返してきた俺の沈黙が、彼女を不安にさせていたことには、あとから気づきました。
(20代男性・大学生)
本記事は、読者アンケートに寄せられた実体験をもとにした本人視点の記事を参考に、相手側の心情を想定して制作しています。実際の相手本人への取材ではなく、編集部による解釈を含みます。
(ハウコレ編集部)
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