「あの人、いつも公園で一人で座ってるよね」と警戒した住民→声をかけた日に分かったこと
「あの人、いつも公園で1人で座ってるよね」
最初に気づいたのは、ママ友のひとりでした。「あの人、いつも公園で1人で座ってるよね」と、声を潜めて言ったのです。奥のベンチに座るスーツ姿の中年男性がいました。
言われてみれば、私もここ数週間その人を見かけていました。いつも夕方の平日に現れて、ベンチに座ったまま動かない。スマホを眺めたり、缶コーヒーを飲んだり。家路につく子どもたちが通り過ぎる時間帯です。
ママ友グループでは、その話で持ちきりになりました。「ちょっと不審じゃない?」「うちの子が公園で遊んでるそばに、ずっといるのは怖いよね」。誰かが警察に相談したほうがいい、という声も上がり始めました。
通報の前に、と思い直した夜
正直、私自身もその男性への不安は日に日に強くなっていました。娘と公園のそばを通るたび、ついベンチに目をやってしまいます。同じ場所、同じ時間、同じ服装。あまりに規則的すぎることが、かえって不気味に感じられました。
ある日、ママ友のひとりが「警察に電話しようと思う」と言い出しました。私もうなずきかけて、ふと言葉を飲み込みました。もし事情のある人だったら、通報という形が残ってしまうのは申し訳ないと思ったのです。
その夜、夫に相談しました。少し考えてから「一度、ちゃんと声をかけてみたら?それで違和感が残るなら、通報しても遅くない」と言いました。翌日の夕方、夫に娘を預けて、私はひとりで公園に向かったのです。
「娘が、来なくていいって言うので」
ベンチに近づくと、男性は私の足音に気づいて顔を上げました。意外なほど穏やかな表情でした。「あの……いつもこちらにいらっしゃいますね。お子さんのお迎えですか?」。できる限り柔らかい声で、そう尋ねました。
男性は申し訳なさそうに頭を下げました。「あ、はい。すみません、不審に見えますよね」。少し笑って、「娘が近くの塾に通っていて、待ち時間に……」と続けたのです。
「中3で受験生なんですが、『お父さんは来なくていい』って言うので、近くで待っているんです」。塾の前で待つと娘が嫌がる。でも家まで往復するには時間が微妙。だから公園のベンチで2時間、過ごしているのだと。私の中で組み立てられていた物語が崩れていきました。
そして...
別れ際、男性は「声をかけていただいて、本当はホッとしました」と言いました。住民に変な目で見られている感覚はずっとあった、と。私は「いえ、こちらこそ……勝手な見方をしてしまっていて」と頭を下げるのが精一杯でした。
家に帰ってから、ママ友グループのチャットに事情を伝えました。「警察に」と言っていたママ友も、しばらくして「私たち、決めつけてたね」と返してきました。
それから数週間後、娘を抱いて公園を通ると、男性はベンチでスマホを見ていました。「こんばんは」と声をかけると、嬉しそうに「先日はありがとうございました」と返してくれました。あれから、別のママ友も挨拶を交わすようになったそうです。見た目だけで誰かを判断しない毎日が、少しずつ戻ってきた気がしました。
(30代女性・主婦)
本記事は、ハウコレ読者への独自アンケートに寄せられた実体験をもとに制作していますが、個人が特定されないよう、一部設定を変更しています。
(ハウコレ編集部)
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