誕生日に開いたアルバムで動けなくなった俺。「目の前を楽しめばいいのに」と切り捨てた俺への返事だった
俺の中で募っていた苛立ち
旅行先のホテルの窓辺、夜景がきれいなレストラン、料理が運ばれてきた瞬間、犬と歩いた帰り道。彼女はどこに行ってもスマホを取り出して、シャッターを切っていました。
最初の頃は「またか」と笑って待っていられました。けれど数カ月前から、待っている時間がだんだん長く感じるようになっていったのです。
「ね、ちょっとだけ撮ってもいい?」と聞いてくる彼女に「いいよ」と答えながら、心の中では「いま俺、隣にいるんだけどな」と思うようになっていました。「スマホばかり見て」とこぼした回数は、数えきれません。
目の前を楽しめばいいのに
ある夜、2人で出かけたレストランで、決定的な発言をしてしまいました。窓越しの夜景に彼女がスマホを向けたのを見て、つい口に出したのです。
「目の前を楽しめばいいのに」。ため息と一緒に。続けて「写真ばっか撮ってないでさ」とも言いました。
彼女は「うん、ごめん」とだけ言ってスマホをしまいました。それからの彼女は、俺の前ではほとんどカメラを出さなくなったのです。
「これでよかった」と思った日もあれば、「言いすぎたかも」と思った日もありました。けれど話を蒸し返すのも気まずくて、そのままにしていたのです。
誕生日のアルバム
俺の誕生日の夜、ケーキを食べたあと、彼女が「ちょっと地味なんだけど」と言ってアルバムを差し出してきました。
表紙をめくると、2年分の写真がぎっしり並んでいました。海辺の波、駅前のイルミネーション、犬と歩いた帰り道、知らない街のカフェの小皿。そのほとんどに、俺自身が小さく写り込んでいたのです。
ページの端には、彼女の細い字でコメントが添えてありました。「機嫌悪そうな顔。でもなんか好き」「寝起きの後ろ姿」「私の知らない方を見てる」。
俺が「またか」と思っていた数百のシャッターは、ぜんぶ俺たちのものとして、ここに残されていました。
そして...
「これ、ずっと撮ってたやつ?」と聞くと、彼女は「うん。スマホばかり見てたのは、ちゃんと残したかったから」と答えたのです。
俺はページから顔を上げられませんでした。あの夜、俺が「目の前を楽しめばいいのに」と言った夜の写真も、ちゃんと一枚入っていたのです。窓越しの夜景の手前に、ちょっと困ったような顔をした俺が映っていました。
スマホ越しに彼女が見ていたのは、ずっと俺だったのです。「何も知らずに文句だけ言ってごめん」と、ようやく声が出ました。自分でも情けないほど小さい声だったのを覚えています。
それから俺はもう一度ページの最初に戻って、1枚ずつゆっくり見直しました。彼女が選んだ写真と、添えられたコメントを。最後のページを閉じたとき、彼女をまっすぐ見て「ありがとう。今までで1番嬉しい誕生日だ」と言いました。気づくと、隣にある彼女の手を握っていました。
これまで何百回も隣にいたはずなのに、本当に隣にいることの意味を、俺はこの夜にようやく知ったのです。
(20代男性・会社員)
本記事は、ハウコレ読者への独自アンケートに寄せられた実体験をもとに制作していますが、個人が特定されないよう、一部設定を変更しています。
(ハウコレ編集部)
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