夫が隣人に「妻は体の調子がよくないもので」と話した夜、私は初めて声を出して泣いた
誰にも言わない、と決めていた
難病の診断が出たのは、このマンションに越してきてしばらく後のことです。長時間立っていることが難しくなり、台所に立てない日が増えた。夫は何も言わずに料理を引き受けてくれました。「俺のほうが料理うまいし」と笑いながら。
近所への説明は、私が決めるまで待ってくれた。「隣の奥さんたちが噂してるみたいよ」と一度だけ伝えたとき、夫は「ほっとけ」と短く返しました。その一言が、妙に胸に沁みたことを覚えています。
「話した」と言った夜
ある日曜の夜、買い物袋を提げて帰ってきた夫が、荷物を置くなり「今日、隣の人に少し話したよ」と言いました。エレベーターで乗り合わせたのだと。「いつもお料理されてるんですね」と声をかけられたから、と。
「なんて言ったの」と聞くと、夫は少し照れたように答えました。「妻は体の調子がよくないもので。美味しいものを食べさせてあげたくてって」。それだけ言って、台所に立ちました。私はしばらく、何も言えないでいました。
「食べさせてあげたくて」という言葉
その言葉が、夜の間ずっと頭の中にありました。不満としてでも重荷としてでもなく、ただそう言える人が隣にいる。「体が弱くて」でも「仕方なく」でもなく、「食べさせてあげたくて」。私の事情を、そういう言葉に変えてしまえる人が、この人だった。
その夜、久しぶりに声を出して泣きました。もどかしさとか申し訳なさとか、長い間張り詰めていたものが一度にほどけるような感覚でした。夫は「なんで泣いてんの」と言いながら、隣に来て座ってくれました。
そして...
翌朝、廊下で隣の奥さんとすれ違いました。「おはようございます」と声をかけてもらいました。いつもと変わらない挨拶なのに、少しだけ温度が違う気がした。私も微笑んで返しました。
説明してよかったのかどうか、今でもわかりません。ただ、夫が選んだ言葉は、ずっと忘れないと思います。「美味しいものを食べさせてあげたくて」。その一言がどれほど私を救ったか、きっと夫には伝えられないままです。
(30代女性・専業主婦)
本記事は、ハウコレ読者への独自アンケートに寄せられた実体験をもとに制作していますが、個人が特定されないよう、一部設定を変更しています。
(ハウコレ編集部)
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