「考えすぎて頭が疲れた!」 脳の疲労回復に、糖分は必要?【薬学部教授が解説】

2024.08.14 20:45
提供:All About

難しい勉強や仕事を集中して行った後は、「頭が疲れた」「脳が疲れた」と感じるかもしれません。脳のはたらきには糖分が必要だから、糖分を摂った方が脳の疲労回復につながるのでしょうか? わかりやすく解説します。

Q. 脳の疲れを取るためには、糖分が必要なのでしょうか?

Q. 「集中して難しい仕事をした後は、脳の疲れを感じます。たくさん脳を使った後は、糖分が不足するから、脳の疲労回復のためには糖分を補給した方がいいと聞きました。どれくらいの量の糖分を摂ると効果的なのか、知りたいです」

A. 不要です。脳の消費エネルギーは、思考中もぼんやりしていても実は同じだからです

私たち大人の脳の重さは1200~1500gで、体重のおよそ2%くらいに過ぎませんが、1日で350~450kcalに相当する糖分(主に単糖のグルコース)を消費しています。これは体全体の消費カロリーの20~25%を占めています。

「脳が働くためには、糖分が必要」と言われるのはこのためでしょう。脳は、生命活動を支えるために常に活動していて、エネルギーを消費しているのです。

特に、とても頭(脳)を使うような勉強や仕事を集中して行った後は、「頭(脳)が疲れたなあ」という感じになりますね。「脳がエネルギー不足になったのだろうから、糖分を補えば回復するだろう」というアイデアは、まっとうに思えるかもしれません。しかし実は、これは勘違いです。

脳全体のエネルギー消費は、ものすごく集中して何かを思考しているときと、休んで眠っているときで、ほとんど同じなのです。

少し専門的になりますが、脳に届けられる糖分から得られるエネルギーの多くは、神経細胞の興奮に伴って細胞内に流入したナトリウムイオンを、再び細胞外に汲み出す「ナトリウムポンプ」を動かすために消費されます。

そしてこのプロセスは、たとえ私たちが眠っている間であっても、呼吸をしたり各臓器の機能を維持したりするために絶えず行われているのです。そのため、意識的に何もしていない間も、脳全体として大量のカロリーを消費していることになります。

意識的に頭をフル回転させているときは、脳の中で主に「前頭前野」と呼ばれる限られた部分を使っていますが、そこで糖分が消費されたとしても、その量は脳全体に比べると微々たるものです。

また、前頭前野の神経活動に必要なエネルギーをカバーするために、脳の中では、前頭前野にたくさん血液を流すように調整することで、他の脳の部分での消費を減らしてバランスをとる仕組みも備わっています。つまり、集中や思考をしてもしなくても、全体のカロリー消費は一定になるように、脳はできているのです。

ですから、意識的に頭を使った後に糖分を補うとか、集中力を要する仕事や勉強をする前に糖分を補うというアイデアは、残念ながら、正しくありません。

とは言いながらも、実際に糖分を補うと、疲れを感じなくなるとか、集中力が増す気がするという経験をお持ちの方もいることでしょう。なぜでしょうか。3つの理由が考えられます。

一つには、明らかに空腹で、血糖値が下がっているような状態であれば、糖分を含めてちゃんと食事を摂ることで、体調を回復させることは理にかなった対応と言えるでしょう。これは当然行うべきです。

二つめには、ストレスが生じているときには、脳以外の臓器でのカロリー消費が増えますが、それを糖分補給によってカバーできる可能性があるからです。私たちが緊張しているときには、心臓の鼓動や呼吸が早くなり、体の筋肉を動かすこともあるため、自ずと消費カロリーは増えます。

糖分補給した場合には、それが脳に作用するというよりは、肉体的な緊張に伴う消費カロリーをカバーするという意味があるでしょう。

もう一つには、「お守り」のような効果です。大学受験等を目前に控えた子どもに「お守り」を持たせるのは、それが学力を上げる直接的な効果をもつからではなく、不安解消に役立つからですね。

それと同じように、疲れているときに、チョコレートなど自分の好きなお菓子を食べると、精神的な支えができて、やる気がわくという効果が現れる可能性もあることでしょう。

なお、糖分補給を行うときには、摂り過ぎに注意しましょう。「脳に効くから」と勘違いして、糖分を大量に摂取すると、急激に血糖値が上昇し、それに伴って膵臓からインスリンというホルモンが分泌されて糖分の消費を促そうとしますので、逆効果になることもあります。

またインスリンの分泌に伴って強い眠気が生じることもあります。せっかく集中しようと思って糖分補給をしたのに、眠たくなって仕事や勉強がはかどらなかったら、意味ないですね。

阿部 和穂プロフィール

薬学博士・大学薬学部教授。東京大学薬学部卒業後、同大学院薬学系研究科修士課程修了。東京大学薬学部助手、米国ソーク研究所博士研究員等を経て、現在は武蔵野大学薬学部教授として教鞭をとる。専門である脳科学・医薬分野に関し、新聞・雑誌への寄稿、生涯学習講座や市民大学での講演などを通じ、幅広く情報発信を行っている。


執筆者:阿部 和穂(脳科学者・医薬研究者)

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