なぜ「理不尽なクレーム」を繰り返す? クレーマーの脳で起きている意外なこと【脳科学者が解説】

2024.05.12 20:45
提供:All About

「クレーマーの心理」は多くの人には理解しがたいものでしょう。脳科学的に考えれば、理不尽なクレームを繰り返すのは「依存症の一種」だといえます。根本的な対処法や解決法はあるのかも含め、わかりやすく解説します。

Q. クレーマーはなぜ理不尽なクレームを繰り返すのでしょうか?

Q. 「クレーマーはなぜ理不尽なクレームを繰り返すのでしょうか? 金銭的な目的の人もいるようですが、特にそういった目的もなく、店員さんに強く当たっている人を見るとうんざりしますし、店員さんも気の毒です。対処法や、根本的な解決法はないのでしょうか?」

A. 脳科学的には、「脳内報酬系」が悪く働いた「依存症の一種」です

回答の前に、まず「クレーム」の意味から触れたいと思います。普段使われている「クレーム」には、本来は別の意味もあるからです。

今の日本語で使われる「クレーム」は、英語の“claim”に由来したものと思われますが、もとの英語のclaimは「(正当に)主張する」という意味です。筆者自身が研究論文を執筆するときには、実験結果に基づいて考察をして自分の仮説の正当性を述べる場面で、I claim……という表現を使うことがあります。

ですので、筆者にとっての「クレーム」は、「言いたいことを、根拠に基づいてしっかり主張する」といういい意味でしかありませんでした。

ところが、1999年頃に起きたある会社の問題に対して、事実無根のごり押しや言いがかりのような要求をつきつける人々が現れ、その内容を「クレーム」、そうした理不尽な主張をする人が「クレーマー」と表現されるようになりました。

この言葉が次々と報道などでも使われたことで、現在のネガティブな意味の「クレーム」「クレーマー」という言葉が定着したようです。

最近では、企業やその従業員に対する、顧客からの不当な要求や迷惑行為を「カスタマーハラスメント(略してカスハラ)」ともいいますので、いわゆる「クレーマー」が、企業にとって頭の痛い存在であることは、間違いなさそうです。

日本には「文句を言わない」ことを美徳とする精神文化もありますが、自分が実際に損害を被っているのなら、黙っている必要はないと思います。本来の意味の「クレーム」で、正当な主張はすべきでしょう。しかし、意味もなく理不尽な言いがかりをつけるのは、良くありませんね。

ご質問にあるような悪い意味での「クレーマー」は、どうして「クレーム」をやめないのでしょうか。

脳科学的に考えてみると、クレームはずばり「依存症の一種」とみなすことができます。

私たちの脳には、もともと「他者に勝ちたい」「より優れていると評価されたい」という本能的欲求が備わっています。

この欲求を満たすために、自ら努力して高きをめざし、うまく成功したときには、脳の中で「脳内報酬系」というしくみが働き、特定の神経細胞からドーパミンという物質が放出されて、「ご褒美(報酬)がもらえた」かのような達成感を覚えます。

すると、さらにやる気がわいて頑張って努力するようになり、結果的にまた良い評価がもらえ、どんどん活躍の場が広がっていきます。このように「報酬系」という脳のしくみのおかげで、「やる気のサイクル」がうまく回ると、実にすばらしい効果をもたらしてくれます。これが報酬系の本来あるべき形です。

しかし、私たちの努力というものは、常に報われ、欲求が満たされるわけではありません。そんなときにどうするかは人それぞれです。そしてなかには、「他人を落とすことによって優越感を味わう」という選択をしてしまう人がいます。

たとえば、接客業においては、店の従業員と客ですと、「お客様は神様です」というフレーズが知られるように、一般的には客の方が立場的に優位になりがちです。そうすると、とくに自分が何かしなくても「優越感」を味わえてしまう気になる人もいるのかもしれません。

すべてではないでしょうが、悪い意味での「クレーム」をつける人の多くは、家庭や会社で日常的に欲求が満たされず、どうしようもない閉塞感を抱えているのではないかと推察されます。強く物を言えない立場の人に対して、無理難題を押しつけ、受け入れられた経験をすることで、一時的に欲求が満たされた気になるのでしょう。

しかし、現実には自分が抱えている日常的な欲求不満や閉塞感は解決されませんから、その状況から逃れるためには、再びクレームをつけるという行為で、嫌な気持ちを一時的に解消することを繰り返すようになってしまいます。まさに「クレーム依存症」とでもいうべき状態です。

アルコール依存症になってしまった男性からこんな話を聞いたことがあります。

「自分は普段はあまり目立たない存在だったが、お酒が強く、飲んでいるときは、みんなに『顔色一つ変えずにそんなに飲んで、すごいなあ』と言われて、そこが唯一、人に注目される、自分の輝ける場所だと感じてしまった。気が付くと、いつもお酒を飲むことで頭がいっぱいになっていた」。

また、買い物依存症になってしまった女性で、「普段は人から注目されない自分でも、デパートで次々と商品を買い上げると、そのたびに店員が丁寧に接してくれるので、買い物がやめられなくなった」と語る人もいます。

いずれの依存症も、「何によって欲求不満を解消しようとするか」の違いだけで、成り立ちは基本的に同じです。

接客上のクレーマー対処法や接し方のコツのようなものはあるのかもしれませんが、脳のしくみから考えれば、クレーマー自身が「心の問題」を解決しない限り、残念ながら根本的な解決は難しく、クレームは繰り返され、おさまらないと考えた方がよさそうです。

もし身近な方が「クレーマー」化していると感じたら、その言動自体ではなく、本人の心の問題や悩みに寄り添っていくことが、長期的に見て根本的な解決につながるかもしれません。

阿部 和穂プロフィール

薬学博士・大学薬学部教授。東京大学薬学部卒業後、同大学院薬学系研究科修士課程修了。東京大学薬学部助手、米国ソーク研究所博士研究員等を経て、現在は武蔵野大学薬学部教授として教鞭をとる。専門である脳科学・医薬分野に関し、新聞・雑誌への寄稿、生涯学習講座や市民大学での講演などを通じ、幅広く情報発信を行っている。


執筆者:阿部 和穂(脳科学者・医薬研究者)

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