高スペックイケメンと付き合っても幸せになれない理由 30歳明日香が性格診断で気付いた自分の魅力5つ【恋愛小説】
2018.09.20 22:30
心に正体不明のモヤモヤを抱えながら、大手文房具メーカーの営業として数字に追われる毎日を送る明日香。無難な人生を歩んできた明日香が、30歳の年に気付いた本当の自分とは。偽り続けてきた自分から抜け出す一歩は、意外と小さなことがキッカケになるのかもしれない。
提供元:株式会社リクルートキャリア
仕事に追われる毎日の繰り返し
もうすぐ今日が終わってしまうというのに、私はまだ最寄り駅にも着いていない。5日連続の終電?誰にも自慢できない記録を更新してしまった。スマートフォンを見れば『今日もコンビニのお弁当なの?たまにはお姉ちゃんの手料理がたべたいなぁ』なんて妹の由麻(26)から愛のあるメッセージが届いている。私と同じ立場になっても同じことが言えるのか聞いてみたいものだ。
「ただいま」
「おかえりー。今日も遅いねぇ」
由麻が転職を機に私の家へ転がり込んできて1年、今はほぼ2人暮らし状態。新卒で入社したアパレル会社でデザイナーとして働くが、自分の感情に素直な由麻は上司と喧嘩し退社。今は違う会社のデザイナーとしてなんとか頑張って働いているみたいだが。
「由麻、また上司と喧嘩したの?」
「だって私のデザインが意味不明って言ったんだよ!周りと同じものを作ってたら、いつまで経ったって新しいモノはできっこないんだから」
「分かるけど少しは我慢しなさいよ」
「私はお姉ちゃんみたいに我慢強くないの」
由麻は、嫌なことは嫌とはっきり言う。堅実な私とは正反対で、姉としては心配な部分がある一方、年上に対しても歯に衣着せぬ物言いができる姿に憧れているのも本音だったりする。
「お姉ちゃん、返事したの?池崎さんに」
「まだだけど、OKしようとは思ってる」
「えー、イケメンなのは認めるけど私は反対だなぁ」
「人のこと気にしてる場合じゃないでしょう。あんただって彼氏いないんだから」
妹が何に反対しているかと言うと、同期・池崎くん(30)からの告白を私が受けるか否かということ。池崎くんは同期の中でも一番仕事ができ、将来も有望。
アメリカと日本のハーフである池崎くんは顔も性格もイケメンとして有名。彫刻のような綺麗な顔立ちは現実味がなく、恋愛対象として意識したことが無かった。それでも告白されて嫌な気持ちは無かったし、きっと私のことも大切にしてくれる。なんだかモヤモヤする後ろめたい気持ちはあったけれども。
「だってお姉ちゃん高橋さんが好きって言ってたのに」
「それは別に気になっているだけで好きなわけじゃないから」
「同じじゃん」
「高橋さんは得意先のお客さんだから付き合うとかそういうのは考えてないの。私の決断はあんたに理解できないほど複雑なのよ」
「好きなら好きでいいじゃん。なんで複雑にするの?」
「…」
至極まっとうな妹の疑問を無視して私はお風呂場へ急いだ。決して逃げたわけではなく、明日の仕事に備えるために。ただ妹の言葉は夕飯に食べたチーズタッカルビ弁当より胸焼けする。みぞおちがにぶく痛い。
ふと思い出す昔の「夢」
池崎くんの告白をOKしてから1ヶ月。同期だから仕事にも理解があって、忙しい私の立場を何より優先してくれている。やっぱり池崎くんと付き合って、私は正解だと思った。「来週の土日、もし明日香の都合が合えば旅行にでも行かない?いい温泉宿の予約が取れそうなんだ」
「ごめん。来週もまだ忙しくて」
「そっか…。じゃあもう少し落ち着いたら、気晴らしにどこか出かけようよ」
「うん、ありがとう」
メーカーの営業はやっぱり数字が大切。今期からチームのリーダーを任された私にとって、今大切なのは与えられた目標をクリアすること。自分の時間よりも。池崎くんとの時間は…まぁ大切だけど、今は仕事を頑張る時期だって池崎くんも分かってくれている。
正直、仕事が楽しいと思えることはほとんど無いけど、大好きな子どもに少しでも関わりのある業界に携わっている点では満足している。それに取引先の高橋さん(34)に会えるのは私の唯一の楽しみになっており、今日も週1回の定例だ。――
「弊社の商品を取り入れていただき1年になりますが、不便な点や困ったことはありませんか?」
「十分すぎるぐらいです。私達みたいに学習塾の数も少ない小さな会社に毎週明日香さんが来てくださるだけで、ありがたい限りです。前にも言ったように、これ以上学習塾は増えないと思いますけど…」
「やっぱり今後も増やす予定はないんですか?すごく人気なのに」
「私自身、塾に通っている生徒一人ひとりの最後をきっちりと見届けたいんです。希望する学校に行けたのか、行けなかったならどうすればよかったのか。それは私にとって売上よりも大切なことなんです」
「素敵な考え方ですね」
「単純に好きなことを好きなようにやってるだけですから」
学習塾を展開する会社の代表である高橋さん。決して数が多いわけじゃないけど、高橋さんが展開している学習塾はすごく人気で、希望しても入れない子どもがいるほど。高橋さんと話していると保育専門学校に通っていた頃の「いつか保育園の園長になる」という夢を思い出す。
物静かだけれど、自分の仕事がすごく好きなんだなって感じるし、自分の気持ちにも素直な高橋さんは私にとって憧れの存在だ。
認めたくないけれど、どこか妹とかぶる部分があるんだよなぁ。
妹の言葉が人生を変えるヒントに
池崎くんと付き合い始めて2ヶ月が経った頃、私の気付かないところで小さな揺らぎは大きな歪みに変わってしまっていたらしい。普段だったら決してしないような単純な入力ミスで、池崎くんは取引先に損害を与えてしまった。次の年度末に本社から名古屋営業所への異動も決定。いわゆる左遷っていうやつだと同期の美紀(通称:ミキポン)に教えてもらった。
この話を聞いた時、悲しいのか悔しいのか自分の感情が分からない始末だった。自分の気持ちも整理しないまま池崎くんと話すべきでは無かった。情けない。
「どうして教えてくれなかったの?」
「…明日香は自分の仕事が忙しいだろう?変に不安にさせて仕事に影響が出たら困ると思って黙ってたんだ。ごめん」
「付き合ってるんだから、一言でも相談してくれたら良かったのに」
「そうだよね、…付き合ってるんだよね」
「当たり前じゃない」
「いつの間にか振られたんじゃないかって勝手に勘違いしてたよ」
あんなに元気のない池崎くんを見るのは初めての事だった。妙な胸騒ぎがしてミキポンに聞いてみると、デートにも行けないし、連絡してもなかなか返信がないことに「本当に付き合っているんだろうか?」と池崎くんは悩んでいたと教えてくれた。
実際のところ、私が池崎くんを不安にさせて仕事に影響を与えていたんだと思う。私に対しては何の文句も言わずに。何も知らず池崎くんを問い詰め、ミキポンに教えてもらうまで池崎くんの気持ちに気付けなかったことが、とにかく情けない。
「それはお姉ちゃんが悪いね。よっぽど猫のほうが愛想いいよ」
「…でも仕事が忙しかったから、しょうがないじゃん。どうするのが正解だったかなんて後からいくらでも言えるわよ」
「ふ~ん、後からねぇ。…そうだ、これやってみれば?」
「なにこれ?」
「お姉ちゃんってさぁ、自分が何したいのか分かってないでしょう?てか、何事も中途半端すぎ。ちっとも自分のこと分かってないんだから、これ試してみなよ」
「なんなの?18種類の中からあなたの強みを5つ診断?」
「転職する時に試してみたんだけど、とりあえず百聞は一見に如かず!ほらポチッと」
由麻に半ば無理やり性格診断をさせられることになった。どうせ無料の診断だろうと正直それほど期待はしていなかったけど、今回に関しては妹に感謝しなければいけない。「お姉ちゃんってそういう所あるよねー」と、横からのおちょくりにイライラしたことも許そうと思う。
「結果、なんて出た?」
「えーっと、『たとえ困難な課題に直面しても粘り強く続けることができます』って出てる」
「当たってるじゃん。まさに真面目なお姉ちゃんって感じ。他には?」
「『あなたのそばにいると自分も穏やかでいられると感じる人もいるでしょう』だって。これ当たってるの?」
「やっぱり気付いてないんだ。池崎さんがなんでお姉ちゃんが好きになったか聞いてみたら分かるかもよ。あとは?」
「…あとは『仕事でもプライベートでも自身が納得できるかを重視します』って」
「ずーっと数字を追っかけるだけでお姉ちゃんは納得してるんだ」
「別にそういうわけじゃないけど」
「お姉ちゃん、保育園の園長になりたいって言ってたじゃん。恋も仕事も中途半端なことをしてるから、自分だけじゃなくて周りにも迷惑をかけてるんじゃない?」
妹の言葉はやっぱり胸焼けする。どうやら私は自分のことは自分が一番分かっていると勘違いしていたのかもしれない。私は池崎くんを傷つけて、自分自身にも嘘を付いていた。
自分の中にあるモヤモヤは、自分の気持ちに嘘を付いていたからなんだ。そう気付くのに随分と時間がかかってしまった。
大きな決断と思いがけず出た言葉
「ごめんね。中途半端な気持ちで池崎くんを傷付けちゃって…」「いや、いいんだ。実を言うと、僕も告白をOKしてくれるとは思ってなくて」
「そうなの?」
「だって明日香、取引先に好きな人いるだろう?同期はみんな知ってるよ」
「え!ほんとに?」
「ああ。好きな人の話や好きなことをしている時の自分の顔って見えないからね。気付かないかもしれない」
「…」
「もし、失恋したら僕のところに戻っておいで。そんなことは無いと思うけど」
別れ際もとにかく池崎くんはイケメンだった。自分にはもったいないなんて言い訳はしないけれど、池崎くんがその気になれば異動先で素敵な彼女はすぐできると思う。
私はとりあえず自分にもっと素直になろうと決めた。自分の性格やら強みやらを少しは信じてみようと決めた。好きなことを好きでいようって決めた。――
「…では、高橋さんからいただいた内容は社内で共有させていただきます。これからも弊社の商品をお願いします」
「なんだか、雰囲気変わりましたね」
「そうですか…?」
「ええ、なんだか寂しそうだけどワクワクしてるというか。なんて言えばいいんだろう」
「…実は今月で退職することにしたんです。自分のやりたいことをやろうって決めて」
「素敵じゃないですか。応援します!」
「あ!でも引き継ぎはしっかりするので、サービスの心配はしないでくださいね」
「今までありがとうございました。…でも少し、寂しくなりますね。どんなに忙しい時でも明日香さんが来ると穏やかな気持ちになれたので」
「あの…、個人的に連絡してもいいですか?」
自分でも何故このタイミングでこんなことを言ったのかは分からない。言った途端に恥ずかしくなって高橋さんの顔を見ることができず、メモ帳に意味のない数字を書いていた。一つ分かるのは、妹が言っていたように私はやっぱり高橋さんが好きなんだってこと。
好きなことを素直に好きと言える
会社を辞めて3ヶ月。私は地元にある保育園で小さな怪獣たちに追いかけられる日々を過ごしている。毎日筋肉痛だし、生傷も絶えない。それでも毎日が楽しくてしょうがない。心配事といえば妹が上司と喧嘩し、いつ仕事を辞めると言い出すかヒヤヒヤしているくらいだろう。しかし妹本人はあっけらかんとしている。噂をすれば。
『私のデザイン、初めて採用されたよ!お祝いに今週末どっか連れてってよ!』
自分の夢に一歩近づけたのは妹のおかげなのは否めない。どこかへ連れて行ってあげたい気持ちはものすごーくあるのだが、どうしても外せない用事があるから仕方がない。
『おめでとう!でも今週は予定あるから来週ね』
池崎くんといえばやっぱり名古屋でもモテモテのよう。営業所に寄ったミキポンが、3人からのアプローチに四苦八苦している様子をたまたま目撃してしまったらしい。仕事も順調そうだと教えてもらった。
新しい一歩を踏み出すのはやっぱり勇気が必要だし、体力も使う。それに正直面倒くさい。それでも今の生活のほうが、好きなことを素直に好きって言える気がする。妹からメッセージが返ってきた。
『また高橋さんとデート?今度はどこ行くの?私も連れてってよ』
まったく人の色恋に首を突っ込みたがる妹だ。(modelpress編集部)[PR]提供元:株式会社リクルートキャリア
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