ウエスタン映画の傑作「荒野の七人」に見る西部劇というロマン、ガンマンたちの個性が現れるガンファイトの魅力

2025.05.16 18:30

1950年代から1960年代、本家アメリカではもちろん、日本でも一大ブームを巻き起こしたウエスタン映画(西部劇)。その中でも傑作と名高いのが、1960年にアメリカで公開された「荒野の七人」だ。BS12 トゥエルビ(BS222ch※全国無料放送)では5月17日(土)、夜7時より本作を放送。80年以上経った今でも色あせない名作の世界を視聴前の予習として伝えていく。

“世界のクロサワ”の「七人の侍」を西部劇にリメイク

「荒野の七人」を手掛けたのは映画界屈指の名作「大脱走」(1963)でも有名なジョン・スタージェス監督だ。本作はその3年前に公開された映画になる。“世界のクロサワ”こと黒澤明監督の名作「七人の侍」(1954)を西部劇にリメイクした作品として知られ、原作の偉大さに加え、アメリカ的な価値観や西部劇ならではの演出が融合することで、新たな魅力を持つ映画となった。

主演はアメリカ映画界のスター俳優だったユル・ブリンナー。さらにスティーブ・マックイーン、チャールズ・ブロンソン、ジェームズ・コバーンら、時代を象徴するスターが本作から育っていったことでも知られている。

舞台はアメリカの西部開拓時代。国境付近のメキシコの農村に銃を持った無法者、カルベラ一味がやってくる。彼らは毎年収穫時期になると村へ略奪をしにくる盗賊団だった。絶えかねる村の状況に、長老は自分たちも銃を手に入れ、カルベラと戦うことを決断する。村を出た若者が国境の町で見つけた凄腕のガンマン、クリス(ユル・ブリンナー)に銃の入手と使い方を懇願するが、クリスは銃を買うよりガンマンを雇った方が安いと教え、義侠心から用心棒を引き受ける。しかし、40人のカルベラ一味と戦うには少なくともあと6人の仲間が必要だった。

昔なじみや町で見つけた腕利きのガンマンらに声を掛け、仲間を増やしていくクリス。集まったのは、クリスの人柄に惹かれた早撃ちのヴィン(スティーブ・マックイーン)。アイルランドとメキシコの混血という自分のルーツと村の農民を重ね、力を貸すベルナルド(チャールズ・ブロンソン)。凄腕の賞金稼ぎだが、内面にトラウマを抱えるリー(ロバート・ヴォーン)。裏に大金があると勘繰るハリー(ブラッド・デクスター)。寡黙で危険を楽しむナイフと早撃ちの達人、ブリット(ジェームズ・コバーン)。元農民で、強い男に憧れて無理やり付いてくる若者、チコ(ホルスト・ブッフホルツ)。

彼ら7人のガンマンは、わずか20ドルという報酬ながら村を守るために盗賊団との戦いに挑む。

物語の大筋はオリジナルの「七人の侍」を踏襲しているが、秀逸なのが翻案による置き換えだ。「農民たちを助ける7人の用心棒と無法者集団の対決」という構図はそのままに、「ガンマンの対決」という西部劇の文法がじつにハマっている。

7人のガンマンは一癖も二癖もあるアウトローではあるが、正義感や誇り、強さへの憧れ、心に抱える過去の傷など、それぞれに複雑な事情を抱えた人物たち。オリジナルの「七人の侍」のキャラクター性を生かしながら、日本的な泥臭さが濃かった侍をアメリカナイズされたヒーローに変えている。

日本では「七人の侍」より「荒野の七人」の方が好きという声も多いが、それはきっと侍が海外の人の目にファンタスティックと映ったように、日本人には西部のガンマンがロマンの塊のように見えたというのも要因にあるだろう。

キャラクター性と直結するガンファイト

西部劇の醍醐味と言えば、ガンマン同士のガンファイト。コインの落下を合図に銃を抜く決闘、馬で荒野を疾走しながらの銃撃戦、カウボーイが集まる酒場などでの撃ち合い。そうしたものは誰もが思い浮かべるシーンだろう。もちろん、本作でもガンファイトは一番の見どころだ。しかし、「荒野の七人」がステレオタイプの“カッコいいガンマン映画”と違うのは、「七人の侍」から取り込んだ個々のキャラクター性がガンファイトにもよく現れている点にある。

たとえば、リーダーのクリス。冷静沈着な彼は無駄のない動きで的確に敵を仕留め、所作や構えにも風格が宿る。自らの名誉や金ではなく、義侠心から村を守る西部劇における“プロフェッショナル・ガンマン”の理想像という男。対照的に、相棒のヴィンは軽妙な洒落た男で、それを表現するような早撃ちが最高に格好いい。女性に見惚れるシーンもあり、アメリカ的アウトローの代表格。他にも寡黙でクールなブリットはその戦い方もまた静かで無駄がなく、一発必中の狙撃が彼の性格をよく物語っている。

他それぞれにもガンファイトで描き出されるテーマがあり、西部劇ならではの“対峙”の美学、アクションの快感にとどまらず、キャラクターの個性と直結しているのがじつに秀逸だ。

起伏に富んだ物語、有名すぎるメインテーマ曲

起伏に富んだ物語は約2時間。仲間を集め、一度はカルベラ一味を撃退するクリスたちだが、その一度の戦いが村人たちにある変化を生むことになる。この中盤あたりから「七人の侍」と展開の違いが大きくなってきて、同作を知っている人ほど終盤突入時の予想外な出来事には驚かされることだろう。

また、「七人の侍」ではアクションシーンは後半に集約されていたが、エンタメに寄った本作ではガンマンたちのドラマと併せ、随所にガンファイトが設けられているのも楽しく見られるポイントだ。

さらに、音楽。エルマー・バーンスタインによる名スコアで、特に壮大で希望に満ちたメインテーマ曲は、映画史に残る名曲として今も高く評価されている。劇伴のバリエーションも富んでおり、ギターを駆使した高揚感と切なさが交錯する豊かな表現は、作品全体の雰囲気を一層深め、まるで壮大なウエスタンコンサートを聴いているようでもある。

現代劇以外ではSFやファンタジーが主流となった現在、西部劇はめっきり見かけなくなってしまったが、本作を観れば魅力にあふれたジャンルであることが再認識できるだろう。ちなみに7人の中の1人、ブリットは「ルパン三世」の次元大介のモデルになったとも言われるキャラクター。そういう面でも気になる方はぜひ観てみるといい作品だ。

なお、ヒットに恵まれた本作はその後シリーズ化されており、BS12 トゥエルビ「土曜洋画劇場」ではこれを3週連続で放送。5月17日(土)に「荒野の七人」、5月24日(土)に「続・荒野の七人」、5月31日(土)に「新・荒野の七人」／馬上の決闘」がそれぞれ夜7時より放送される。

◆文＝鈴木康道