

戦後日本を支えた映画監督・野村芳太郎…没後20年の節目に振り返るひたむきで情熱あふれる“職人”ぶり

黒澤明の助監督を務め、「砂の器」や「八つ墓村」など数々の名作を世に送り出してきたことでも知られている映画監督・野村芳太郎。2005年4月にこの世を去り、2025年には没後20年という節目を迎える。戦後日本を生きる国民の背を押し続けた野村芳太郎の生涯や人物像、そして彼が手掛けてきた作品の魅力や特徴について深掘りしていく。
映画とともに歩んだ野村芳太郎の生涯
野村芳太郎は日本の映画監督として、戦後の日本映画文化を支えた名匠の一人だ。父の芳亭も大正末期から映画監督として活躍しており、喜劇映画や時代劇といった日本映画の礎を作った人物でもある。
そんな父を持つ野村の幼少期は撮影所が遊び場であったといい、物心ついた頃から映画が身近な存在だったという。そして彼の映画監督人生は、15歳のときに父・芳亭が亡くなったところから本格的に動き出した。
松竹大船撮影所へ入社したあと、兵士として招集されたものの太平洋戦争を生き延びた野村。松竹大船撮影所に復職したあとは黒澤明監督のもとで助監督として学び、「日本一の助監督」と評されるほどの仕事ぶりを発揮した。
映画監督としてのデビューは1952年の「鳩」で、その後33年間にわたって合計80作品以上を手掛けていく。また監督としてだけでなく映画の脚本や脚色、製作として携わった作品も数多く、野村にとって最後の作品となった1992年の「復活の朝」という作品では製作総指揮を務めた。
そうした長年にわたる活躍と日本映画界への貢献が認められ、1985年に紫綬褒章、1995年には勲四等旭日小綬章を受章。2005年4月、85歳の生涯に幕を閉じた。文字通り、誰もが認める日本映画界を牽引してきた重鎮そのものなのだ。
しかしそんな野村の人物像は、“昭和の名監督”という言葉のイメージとは裏腹なものだった。
サスペンスからコメディ映画まで多彩なジャンルの作品を手掛けた”職人監督”
昭和の名優や名監督といえば、型破りで破天荒な人物像を思い描く方も多いのではないだろうか。アーティストとして自分の内観を映画に映し出し、芸術的なカット割りと他に類を見ない撮影手法で評論家を圧倒する…そんな人物像だ。だが野村の映画づくりは、そんな“昭和の名監督”像とは正反対とも言える。
映画づくりにおいて極めて真摯な姿勢で取り組むことでも知られた野村。野村作品といえば「砂の器」や「事件」など社会派の作品が印象的だが、若手の時代は喜劇や時代劇、オカルトからホームドラマまであらゆるジャンルの作品を手掛けていたことは意外と知られていない。
そうした仕事ぶりを見るにつけ、感じるのは「頼まれた仕事は断らない」という“職人魂”だ。「自分の映画とはこういうもの」という確固たる芯を持つ映画監督とはまた違う、大衆に寄り添って娯楽に徹する監督像。「わかる人にはわかる」作品ではなく、多くの人が映画館で見て、楽しんで、笑ってもらうことを主義としていたことがわかる。
しかし一方で、こだわりなく言われるがまま作品を撮る人物かといえば決してそうではない。たとえば「砂の器」に出演した森田健作と島田陽子が映画情報サイトのインタビューで語ったところによれば、野村は「背景の山にある雲が気に入らない」といって3日間も本番撮影がなかったということもあったそうだ。
しかもこれにはリハーサルだけして本番を撮影しないことによって「自分の演技の何がダメなのか」と森田を焦らせ、“半ばやけっぱち状態の刑事”を演じるに相応しいイライラ感を表現するのにも役立ったという。
特殊な技や派手な仕込み、誰もが驚く仕掛けを施すわけではない。それでいて作品作りには本気で、妥協なく取り組むさまはまさに職人と言えるだろう。
現代もリメイクされる野村作品の特徴とは
野村の作品は、緻密な脚本とリアルな人間描写、そして社会的なテーマを巧みに織り交ぜた作風が大きな特徴だ。特に松本清張の小説を映画化した「張込み」「ゼロの焦点」「砂の器」などの作品は、ミステリー要素を持ちながらも人間の内面や社会の暗部に鋭く切り込む作品として高く評価されている。
さらに、叙情的な映像美と精緻な演出が観る者の心を掴む作品も少なくない。特に「砂の器」では、四季を通じて変わる風景とともに登場人物の心情を巧みに表現し、壮大なスケールで物語を展開させた。現代においても同作はドラマなどでリメイクされており、戦後日本を代表するエンタメ作品と言ってよい。
松本清張以外にも小説原作タイトルは多く、結城昌治原作の「昭和枯れすすき」では高橋英樹と秋吉久美子を主軸に愛憎劇を描いた。孤児同然で寄り添って暮らしていたはずの兄弟だったが、兄はいつのまにかヤクザな女になっていた妹の事情を知り…という作品で、昭和の街並みや風俗が色濃く出ている。
同作は男女の愛憎とサスペンス要素をしっかり取り込みつつ、タイトルは世間で流行していたさくらと一郎による同名曲。作中でも同楽曲が流れるなど、大衆向け娯楽としてのポイントを外さないバランス感覚を感じさせる。
野村は80本以上の作品を手掛けてきたが、なかにはこれまでテレビであまり放送されてこなかった作品も。CS放送「衛星劇場」では4月に「野村芳太郎 没後20年 芳太郎&芳亭 親子鷹」特集を実施し、監督デビュー作である「鳩」(12日(土)午前9:25ほか)のほか「ねずみ小僧怪盗伝」(10日(木)午前10:40ほか)、「昭和枯れすすき」(9日(水)午前8:30ほか)などを放送。なお父・芳亭が監督を務めたテレビ初放送の「天竜下れば」(12日(土)午前8:00ほか)や、「婦系図」(10日(木)深夜1:00ほか)といった名作も放映予定だ。
昨今はSNSの発展によって作品に関する考察・分析に触れる機会が多くなった。だが逆に「過去の名作といえば玄人向け」という“わかる人しか楽しめない”敷居の高さを感じる人も増えてきたように思い。だが「映画は娯楽」という主義に徹してきた野村は、『キネマの天地』劇場用パンフレットにて「物を作る人間にとっていちばんの喜びは、多くの批評家に称賛を受けることではない。その作品がヒットして、大勢の人が劇場に集まり、ワイワイ見ている様子を同じ劇場の片隅で味わうことが、作り手の至上の喜びではないかと思っている」と記している。
趣深い昭和の空気感や街並み、演じるキャストの豪華さ、ストレートながら深みのあるストーリーライン、見やすさと迫力を両立したカット割り。映画黎明期の息遣いと現代にも通じる撮影技術を堪能できる野村監督の名作を、いま改めて味わってみて欲しいものだ。
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