藤森雅也監督らが明かす、良い演出＆良い絵コンテの定義「すごく巧みに計算されている」＜劇場版忍たま乱太郎＞

2025.02.07 16:32

現在公開されている「劇場版忍たま乱太郎ドクタケ忍者隊最強の軍師」のイベント「第一回スタッフトーク」が、1月30日に新宿ピカデリー・スクリーン1にて開催され、メガホンをとった藤森雅也監督、絵コンテ・演出の村野佑太氏、同じく絵コンテ・演出そして動画検査を務めた小池瞳子氏が登壇した。

普段の「忍たま」とはひと味違ったシリアスな展開を描く

朝日小学生新聞で1986年より連載を開始した尼子騒兵衛による「落第忍者乱太郎」を1993年にテレビアニメ化した人気シリーズ「忍たま乱太郎」。本作では、「小説落第忍者乱太郎ドクタケ忍者隊最強の軍師」を映像化し、普段の「忍たま」とはひと味違ったシリアスな展開を描く。

監督は初代キャラクターデザインを務め、前作「劇場版アニメ忍たま乱太郎忍術学園全員出動！の段」(2011年)でもメガホンをとった藤森雅也。脚本は「小説落第忍者乱太郎ドクタケ忍者隊最強の軍師」の著者であり、テレビシリーズも手掛けてきた阪口和久が務める。

また、テレビシリーズに引き続き、制作をアニメーション亜細亜堂が担当し、声優として高山みなみ(乱太郎役)、田中真弓(きり丸役)、一龍斎貞友(しんべヱ役)、関俊彦(土井半助役)らが出演する。

「(藤森監督は)キャラクターとカメラの距離感をものすごく大事にされる」(以下、本編のネタバレを含む)

このたび実施された第一回スタッフトークは、本作の監督を務めた藤森雅也氏、絵コンテ・演出の村野佑太氏、同じく絵コンテ・演出そして動画検査を務めた小池瞳子氏のスタッフ3人が登壇。

まず“絵コンテ”について聞かれると、藤森監督はスクリーンに映し出された絵コンテを例に「映画の設計図みたいなものです」と説明。“演出”の役割については村野氏が「アニメーターに動きや芝居を指示し、芝居の密度やカットの解釈が監督の意図と食い違うことなく、最終的に目標としていた映像に寄せていく作業」と解説した。

絵コンテ・演出として、小池氏は“愛と正義のドクタケ忍者隊ダンスシーン”を、村野氏は中盤のきり丸が早朝長屋に戻ってきては組のみんなに相談するシーンからしんべヱと八方斎が身長比べをするあたりまでと、エンディングを担当したと明かす。

小池氏は自身が担当する動画検査の仕事について、「原画の指示に従い、動きを作る動画をチェックすること」と話し、具体的には「原画の指示通りの中割りになっていること」や「そのカットの演出を損なわない品質になっていること」に気を配り、間違った動きや絵があれば修正することとして、時には4枚の原画に対して中割りを入れることで20枚にもなる動画を1枚ずつチェックし、場合によっては1ミリ単位で絵を調整しているとコメント。

また「そのカットの雰囲気を壊さないように、綺麗な動画でないと演出意図通りの仕上がりにならない」と、クオリティ向上への思いを力強く語った。これに対し、藤森監督と村野は「本当に丁寧な仕事をしてくれていると思います」と口を揃えて絶賛。特に、天鬼が苦しむ表情をアップで描いたカットが印象に残っていると話した小池氏は、「髪の毛先の線の抜き方や、手を当てている頬のシワの具合、天鬼の表情に寄った時の細かいニュアンスがすごく出ているカット」と評し、「締切を伸ばしてもらってまで綺麗に仕上げようと頑張りました。本当にこだわってよかった」と思い入れを口にした。

観客からも笑いと興奮の声が鳴り止まない“ドクタケ忍者隊ダンスシーン”については、小池氏がもともと演出志望であることを知っていた藤森監督から、「音楽シーンをやってみる気はある？」と声をかけられたことが、このシーンを担当するきっかけだったと明かす。小池氏は当初、「エンディングなら」と引き受けたものの、実際にはダンスシーンだったことに戸惑ったと告白。藤森監督は「ここはアニメーターとしての小池さんの、資質が一番濃く出てくると思っていて、やりたいようにやらせようと思っていたんです。ダンスシーンは感性勝負と考えていたので自由にやってもらって、その弾け方を楽しませてもらおうと思っていました」と期待を込めて依頼したことを振り返った。

また、村野氏が担当するきり丸が鬱々と悩んでいるシーンの演出について、藤森監督は「同じ場面の見せ方でも引きで撮ったカットではきり丸が影の中にいることが印象的だが、次にきり丸のアップのカットになるとその影の奥に明かりが見える。きり丸は今そういう精神状態なのだと、2つのカットの積み重ねや画面の明暗の構成できり丸の心情をきっちり表現している」と絶賛。

さらに、ドクタケの軍師の正体が土井先生だと知って動揺する利吉のカットについて、藤森監督は「膝の間からアオリで表情を見せる、非常にパーソナルな空間から次のカットはいきなり平明な構図にして利吉の気持ちの切り替えを表現する。こういうところが見事に計算されている」と、その絵コンテの素晴らしさを評価した。

また、エンディングの打ち合わせをした際、藤森監督から「例えば福笑いの見た目で学園の日常を描くとか…」とリクエストがあったと笑って話す村野氏。「ものすごく頭を悩ませましたが福笑いでどう日常を描けばいいのか思いつかず、ギブアップ宣言をしたところ『じゃあ、ミニキャラでお願い』と今のものになりました」と振り返り、会場の笑いを誘った。

藤森監督のコンテについて小池は「お客さんの期待を煽るような絵コンテを書かれるのがすごい」と褒め称え、村野は「キャラクターとカメラの距離感をものすごく大事にされるんですよ。でもシーンによってはその距離感をあえて詰めるような“いやらしさ“も必要で。要所要所でそういう悪意を取り入れないと良い映画にならないと思うんです。今回は“いやらしい“位置にカメラを置くなどの思い切りのある絵コンテで僕は好きです」と愛いっぱいに語る。

その後も冒頭の土井先生VS諸泉尊奈門シーンについて語りたいという村野氏が「良い演出、良い絵コンテっていうのは、本来書かなきゃいけない物語の本筋を追いつつも、カットの積み方に複合的な意味を持たせていろんなみせ方をしてくのがいるものなんですよね。このシーンはそういった意味ですごく巧みに計算されていまして、今日は『忍たま乱太郎藤森雅也と月の呪い』と銘打って話をさせてください」と切り出して熱弁するなど、盛り上がりをみせた本イベント。最後にスタッフ陣が観客に向けてメッセージを贈り、温かい拍手に包まれながら幕を閉じた。