鈴木伸之、世代を超えて続く矢島金太郎の魅力を語る「共通点は無いが、憧れる部分は多い」
シリーズ累計発行部数3000万部を突破した本宮ひろ志の人気マンガ「サラリーマン金太郎」が、連載開始から30年の時を経て新たに映画化。前後編2部作となり、新たな金太郎の誕生を告げる「サラリーマン金太郎【暁】編」は1月10日(金)より、金太郎が日本を牛耳る巨大利権に立ち向かう「サラリーマン金太郎【魁】編」は2月7日(金)より公開される。
本作は、破天荒な元ヤンサラリーマン・矢島金太郎が、膠着した令和の日本に、そして混沌とした世界に新風を巻き起こす模様を描く。平成の世を駆け抜けた伝説のサラリーマンが、令和の日本に帰って来る。原作マンガとは時代が変わり、多くの価値観が刷新され、コンプライアンスが厳しくなった今、元暴走族のヘッドでマグロ漁師からサラリーマンの世界に飛び込んだ金太郎は、昔ながらの行動力や腕っぷしを武器に信念を貫き通すことができるのか。譲れないものは絶対に譲らない勇猛さは変わらないが、時の流れに沿ってアップデートを重ねたフレッシュな金太郎が誕生した。WEBザテレビジョンでは、主演を務める鈴木伸之にインタビュー。本作の撮影の裏側から2025年でデビュー15年目となる自身のことまでたっぷりと語ってもらった。
矢島金太郎を演じて…「これ以上ないぐらい毎日叫んでいた」
ーーまずは原作を読んだ感想を教えてください。
エンターテインメント作品なので、非現実的な部分も多々あるのですが、昨今言いたいことがなかなか言えない時代に、金太郎がさまざまなことを代弁してくれているので、老若男女関係なくすっきりする、爽快感がある作品だなと思いました。
ーーそんな長く愛され続けている作品で主演に抜擢された率直な思いを教えてください。
僕は今、32歳なのですが、 僕以上の年齢の方々は「サラリーマン金太郎」という作品はほとんどが聞いたことがあるのではないかと言うぐらい、ものすごく偉大な作品です。「サラリーマン金太郎」に馴染みがない10〜20代の世代の方々も含めて皆さんに、令和の新しい金太郎を見ていただけたらなと思います。主演に決まったときは、アツい作品なので、大変な撮影になるだろうなと想像していました。 同時に、今のこの少し閉鎖的な日本社会で、自分の気持ちを真っ直ぐに吠えられる人物でもあるので、金太郎役が楽しみだなと感じたのを覚えています。
ーー実際に撮影してみて大変でしたか?
矢継ぎ早に次から次へと撮影して、気付いたら残りあと2〜3日とかになっていたので、終わってみればあっという間に過ぎていった感じですが、大変は大変でした。これ以上ないぐらい毎日叫んでいたので喉もすごく枯れて声がガスガスになりましたね。アクションが多かったので、肉体的にもハードでした。
ーー特にボウリング場でのアクションシーンは圧巻でした。
アクションをしていると足元が見えないので、ガターと隣のレーンのガターの間のちょっともりあがった部分などが、今思えば危なかったなと。でも、怪我がなく終えることができたのでよかったです。
海のシーンでは体力の限界を超えて100メートル泳ぎ続けた
ーーアクション以外で大変だったシーンはありますか?
海のシーンは大変でした。船首から飛び降りて海を泳ぎ続けるのですが、それを遠くから別の船のカメラで撮っていたので、「カット」が聞こえなかったんです。50メートルぐらい泳いでいるけど、まだ撮るのかな?と思いながら、結局100メートルぐらいまで泳ぎ続けて…。それでも「カット」が聞こえなくて、単純に「カット」って言えるスタッフが周りにいなかったんですけどね(笑)。最後は体力の限界を迎えて泳ぐのをやめたのですが、手を挙げたら、船がバーって迎えに来てくれました。海で遭難して助けられるときの気持ちってこんな感じなのかなと。海の広大さを改めて感じましたね。
ーーでは、あのシーンは一発OKだったのでしょうか?
飛び込むシーンは2回撮らせていただきました。飛び込む場所が結構高くて、僕はこれまでに飛び込みをしたこともないですし、高所恐怖症でもあるので…。一回目を確認したら、ちょっとくの字になって飛び込んでいたんですよね。このシーンが映画の冒頭に使われる予定だったので、もう少し綺麗なフォームで飛び込んでおきたいなと。そこだけ唯一、自分から「もう一回やらせてもらってもいいですか?」とお願いしました。
ーー盃のお酒を一気飲みするシーンも大変そうだなと思いました。
あれも一発ではできなかったです。「とりあえず軽く一気飲みしてほしい」くらいの感じのオーダーだったのですが、実際に盃を目にしたら大きすぎて、500ミリぐらい入れても全然溜まってなかったんですよ。 多分1〜1.2リットルぐらい入っていたと思います。それを長回しで、約3〜4分ぐらいかけて飲み干しました。溺れるかと思いました(笑)。
ーーでは、金太郎を演じること自体で大変な部分はありましたか?
普段出さない感情を表に出さなければいけないところです。昨今はさまざまなことを自分の中で消化する時代なのかなと勝手に思っていて。 あまり人に意見したり、自分の気持ちを押し付けたりせずに、協調性や共感性みたいなものが求められる時代になっている気がしています。個人の尊厳みたいなものを大切にする世の中と言いますか。金太郎はたとえ他人でも曲がったことは指摘していく、時代に逆行したキャラクターでもあるので、日頃なかなかすることがない言動が常でした。 だから、苦労しつつも開放的な気分になれたので、気持ちよくもありましたね。
ーー役作りで準備したことはありますか?
筋トレをしたり、アクションの練習をしたりしました。今回は令和版ということですが、どの時代でも人の根幹みたいな部分は同じなのかなと思っていたので、僕は令和の現代社会に寄せるという意識はあまりしていませんでした。原作の、ありのままの金太郎を演じられるようにという思いが強かったです。ただ、吠えるシーンが多かったので、それがわんわん鳴いているように見えてしまったら、金太郎らしさが伝わらないなと。そこの塩梅が難しかったですね。かっこよく吠えると言いますか、意味があって言っているんだよということを表現しなければならない。金太郎の根底には自分の中の正義があって、それを金太郎スタイルで伝えているので、その意図みたいなものが映画をご覧になる方々にも伝わって、応援してもらえたらうれしいです。そんな愛されるキャラクターを目指す必要があったので、少し役作りは大変でしたね。
金太郎との共通点は「ない」が、憧れる部分は多い
ーー金太郎は人たらしで、人の懐にスッと入っていきますが、 鈴木さん自身は人とコミュニケーションを取るときに心がけてることや距離を縮めるために意識していることなどはありますか?
僕は人見知りであまり自分からグイグイ行くことはないので、金太郎とはどちらかというと真逆の人間ですね。自分が相手の邪魔にならないようにするにはどうしたらいいかみたいなことを考えてしまうので、それが協調性に繋がっていたらいいなとは思います。でも、歳を重ねるにつれて、金太郎みたいに人の懐に入れる人間になりたいという思いも強くなってきているので、まずは勇気を振り絞って自分から声をかけてみようかなと。
ーーでは、今回は座長ということもあり、現場で自分から声をかけていたのでしょうか?
それがあまりできていなくて…。榎木孝明さんや浅野温子さんをはじめ大御所の方がたくさんいらっしゃったので、皆さんの方から歩み寄ってきてくださったんです。そのおかげで、 すごく円滑に撮影させていただきました。
ーー鈴木さん自身は金太郎と共通点はありますか?
思い浮かばないですね。金太郎に憧れている部分は多いです。たとえば、常に真っ直ぐで誰に対しても物怖じせずに自分の意見をズバッと言っていく感じの性格は羨ましいなと。僕はたとえ何かを思ってもそのまま流してしまうタイプなので、あんなに真正面から突っ込んでいけたら、自分自身も周囲も気持ちいいだろうなと思います。
四代目・五代目と…時代と役者が変わっても愛され続ける作品になってほしい
ーー鈴木さんはこれまでも腕力的に“強い男”を演じる機会が多かったと思いますが、今回の金太郎役でそれが活きた部分はありましたか?
この金太郎役も然り、僕にとってアクションはどの作品に出させていただいてもセットのように付いてくるので、これまでの作品で得た知識や経験が毎回次の役でもすごく生かされているなと思います。
ーー原作以外にも初代・高橋克典さん、二代目・永井大さんと矢島金太郎が存在し、鈴木さんは三代目となります。今作の金太郎はどのような人物だと解釈していますか?
過去の作品もすべて拝見したのですが、 金太郎というキャラクターが濃いので、 どの時代にやっても、おそらくみんな似たような金太郎像を持っているのかなと思いました。僕も今回、普段は表に出さないような心の内側の感情みたいなものを全面的に出しながら、 今まで実写化してきた中で一番観客の心を掴んで愛していただけるような金太郎になれたらという思いで臨ませていただきました。
ーー「サラリーマン金太郎」という作品自体は連載開始から2024年でちょうど30年経っています。金太郎は登場人物たちが持つさまざまな既存の価値観に新しい風を吹かせましたが、鈴木さん自身は、三代目・金太郎としてこの30年歴史がある作品にどういう新しい風を入れられたなと思いますか?
同じ役という前例がありますし、参考の資料もたくさんあるので、絶対に今一番面白い金太郎と思わせるようなキャラクターに仕上げないといけないなと。過去にあった作品に寄せる必要はないと思っているので、今の僕が感じた金太郎を令和版として反映できればいいのかなと思いながら臨みました。今の10代、20代の方々がこれから四代目、五代目…となって、役者が変わっても愛される作品として上手く継承していけたらという思いです。
ーーそんな今回の三代目・金太郎には、再生可能エネルギーや再開発問題など今の社会問題も詰め込まれていましたね。
金太郎という人物は、利益や損得とかは一切関係なく請け負う人物なので、対話一つで大きい物事や大きい企業相手に立ち向かっていって、その真っ直ぐさで相手を納得させてしまいます。今回すごく感じたのは、たとえ大きい問題があったとしても、対話が大事なのかなと。金太郎のように生きていければたとえ何か問題に直面しても、必ず解決していけるのではないかと感じました。
俳優として、人間としての浅野温子に衝撃を受けた「金太郎みたいな方」
ーー本作で鈴木さんは金太郎役として、他の登場人物ほぼ全員と絡んでいますが、特に印象的な共演者はいますか?
浅野温子さんは初めましてだったのですが、今「一番尊敬している人は誰ですか?」と聞かれたら「浅野温子さん」と答えるぐらい、衝撃を受けました。僕は浅野さんが月9で大活躍されていた時期よりも少しあとの世代なので当時はそこまで詳しくないのですが、とにかくものすごくお芝居が魅力的で。また誰に対しても優しくて人柄も素晴らしいんです。とにかくすべてが完璧で、こんな人になりたいなと思わせてくれる、本当にすごい俳優さんです。
ーー具体的に浅野さんの芝居のどこに魅力を感じましたか?
豪快さと力強さですかね。迷う様子が一切なく、本当に加代さんという人物にしか見えなかったです。あと浅野さんはすごく長くて難しいセリフが多かったのですが、全部完璧に覚えていらっしゃって。間違えたところを一度も見たことがないです。恐ろしいぐらいすごい方でした。また違う作品でも絶対にご一緒したいなと思っています。
ーー鈴木さんから見て浅野さんはどんな人物なのでしょうか?
まさに金太郎みたいな方ですね。すっごく大きな声で豪快に笑いますし、楽しそうに喋ってくださいますし、裏表もない。堂々とされていてかっこ良くて人として信頼ができるんです。老若男女関係なく、みんなが好きになっちゃうんだろうなと思わされる方です。
未来の鈴木伸之は…?50歳でやってみたい役とは
ーー映画が公開される2025年は、鈴木さんにとってデビュー15年目のアニバーサリーイヤーですね。新年の意気込みや今後の目標を教えてください。
新年だから気合いを入れ直そうみたいな考えがあまりなくて。求められる作品やいただいた役にただ真摯に向き合っていけたらなと思っています。作品一つひとつに対して、自分自身がとても達成感を得られるような過ごし方をしていきたいですね。計算しすぎず、先を考えすぎず、目の前のことをただ一生懸命にやっていくのが大事なのかなと思っています。
ーー挑戦してみたい役柄はありますか?
10年以上言い続けているのですが、「海猿」(※海上保安官、海難救助)みたいな役をやってみたいです。まだ叶ってないので、50歳ぐらいで叶えばいいかなと思っています。
ーーなぜ50歳なのでしょうか?
50歳で酸素ボンベを担いで海に入ることってなかなかないと思うので、需要があるかなと。ちょうど金太郎が八代目ぐらいをやっているときに、僕は50歳で海猿になるというのが一番理想ですね(笑)。
構成・取材・文=戸塚安友奈
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