山田裕貴

俳優・山田裕貴がジョーカーに魅了される理由

2024.10.26 20:00
山田裕貴

2019年に公開され、世界中を震撼させたホアキン・フェニックス主演映画「ジョーカー」の続編「ジョーカー フォリ・ア・ドゥ」が公開を迎える。理不尽な世の中の代弁者として時代の寵児となったジョーカーのその後を描いた本作。俳優の山田裕貴は、前作公開時からジョーカーに魅せられ、その思いを熱弁していたが、最新作ではジョーカーを法廷で追い詰めるハービー検事の日本語吹替版キャストとして作品に参加する。本作を見て、さらにジョーカーを自分に照らし合わせ思いが募ったという山田が、なぜそこまでジョーカーに強く感情移入してしまうのかを語った。

うっ屈した思いを抱いていた20代

前作公開時から作品への熱い思いを語っていた山田。なぜジョーカーを好きになったかという理由について改めて問うと、インタビュー開始から熱い思いを吐露する。

「(ジョーカーとなった)アーサーの人間として当たり前の、愛されたいという感情。それをお母さんが認めてくれた。『あなたは笑っているのがすてき』と。そんな中、誰かを笑わせる仕事がしたいとコメディアンを志し、スーパースターになる自分を想像する――。それって僕が俳優を始めて、皆に愛されるいい俳優になりたいと思っていたことと一緒なんです」。

もちろんアーサーと山田は置かれている環境は違う。山田自身も「彼の方がもっとずっと恵まれない環境」と前置きするが「今でこそ山田裕貴と認識してくださる方は増えてきました。最初のころからずっと応援してくださっていた方にはめちゃくちゃ感謝していますが、20代最初から28歳ぐらいまでは、もっとたくさんの方に知ってもらわないと、自分の存在意義すら否定してしまいそうなぐらいうっ屈した思いを抱いていました」と胸の内を明かす。

さらに、「今でこそ、熱くて明るくて…みたいな印象を持ってくださる方もいますが、本当は全然そんなんじゃない」とつぶやくと「僕自身アーサーのようにピエロのメークを被って表に出ているような思いだった。だからこそ、アーサーと重なって、思い切り感情移入してしまったんです」と、なぜジョーカーに深く感情移入してしまうのかを語る。

パブリックイメージを守るために頑張ることをやめた

本作では、ジョーカーとして数々の人を殺めてしまったアーサーが法廷に立つ。さらにジョーカーを信奉する謎の女性・リー(レディ・ガガ)が彼に大きな影響を与える。

物語の詳細には触れられないが、山田はリーや群衆がジョーカーを神格化し祭り上げる状況にも自身を重ね合わせてしまったという。「あそこまでカリスマではないですし、単純に自分に置き換えてしまった…というだけなのですが」とここでも前置きをすると「やっぱりどこかで『山田裕貴ってこういう人だよね』と思っている方っていると思うんです。でも、『実際はそんな人間じゃないんだよ』と。そうすると、『じゃあ、興味ないんだけど』と思われてしまうかもしれないんですけどね」と語る。

芸能の仕事で表に出る人間には、望む、望まないにかかわらずパブリックイメージというものがついて回る。そして、そのイメージと違うことが起きると「裏切られた」と思う人もいるのが事実だ。

山田は「僕は、ある日からイメージを守るために頑張るということはやめようと決めていたんです」と語ると「自分に正直でいようと。以前は、その時の状況を考えて『こういう場だったら、こういうことを言った方がいいかな』という考え方をしていたのですが、今はしんどいときはしんどいと言えばいいし、ピエロメークをどれだけ外して生活するかということを大切にしています」と変化を述べる。

とことん役と向き合う姿勢の一途さと怖さ

アーサーを演じたホアキン・フェニックスの演技にも脱帽したという山田。

「もちろん台本をしっかりと読んで考えて演じていると思うのですが、何も考えずにやっているような感覚を受けました。ただアーサーとして生きているというか。たばこを吸うシーンでも『このぐらい長い時間かけて吸おう』なんて思っていない。ただそのとき、その瞬間そうしたいからしている。ずっとそれが連続しているんだと思います」。

山田は「お芝居ではなく、もうアーサーという人間としてそこにいるんだと思う」と自身が感じたことを述べると「もちろん監督の演出はあるとは思いますが、ホアキン・フェニックスさんという俳優さんが、アーサーという人間を生きたらこうなりました…ということが提示されているんだと思います」と解釈を述べていた。

そんなアプローチ方法は、山田にとって理想だという。一方で、例えば不安定な役柄として生きる場合、リスクも生じる。

山田は「究極の表現を取るか、人間性を取るかの問題だと思う」と語ると「僕はこれまでとことんその役に入り込むというやり方をしていたんです」とこれまでを振り返る。自分を守ることを全部捨てて役と向き合ってきたというのだ。

「寝る時間も惜しんでその役として生きていました。マネジャーさんからも『あの役のときは嫌いだった』と言われたこともありました」。

そんな役への向き合い方は「やっぱり良くないですよね」と苦笑いを浮かべた山田。「もちろんホアキンさんが役に対してどうアプローチしているのかは分かりませんが、僕はそういうスタンスだと少し怖いと思うんです。変な意味ではないですが、どこまででも突き詰めてしまいそうなので…」。

やりたいが、やらない方がいい――。さまざまな葛藤の中、山田は「人生において出会う選択肢一つとっても、何を選ぶかで大きく違ってくるんだと思うんですよね」と語っていた。

◆取材・文=磯部正和

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