田中圭、再共演の高橋文哉に希望を抱く「すごく前向きで、俳優としてとてもピュア」<あの人が消えた>
「次々と人が消える」という噂があるいわくつきのマンションを舞台に繰り広げられる完全オリジナル脚本による“先読み不可能”ミステリー・エンターテインメント映画『あの人が消えた』。本作で、高橋文哉演じる配達員・丸子の先輩配達員として独特なリズム感を出す演技をしているのが田中圭だ。過去に共演経験があり「文哉くんが主演を務める作品なら」と出演を快諾したという田中が、現場での立ち振る舞いや、高橋への思いを語った。
荒川はどんな解釈もできる難しいキャラクター
本作は、高い評価を受けたテレビドラマ「ブラッシュアップライフ」を手掛けた水野格監督が完全オリジナル脚本で描くミステリー。次々に人が消えていくという謎めいたマンションを舞台に、配達員の青年・丸子(高橋)が、小説家志望の職場の先輩・荒川(田中)と共に、怪しいマンションの住人たちを調べていくなか、とんでもない事件に巻き込まれていく姿が描かれる。
――とても複雑な伏線が張られた作品ですが、脚本を読んだときはどんな印象を受けましたか?
すごく計算されているなと思いました。裏切りがあり、どんでん返しの仕掛けがいくつも入っていて盛りだくさんです。決して悪い意味ではないのですが、とても詰め込まれていて「あまり余白がない」という印象を受けました。これをどうやって映像にするのだろうという難しさを感じ、水野監督はこの脚本をどのように仕上げるのだろうという興味が湧きました。
――実際の現場はいかがでしたか?
まず監督の鬼才感がすごいです(笑)。雰囲気がすごくある方で、まず僕はこれがすごく面白いなと感じました。非常にこだわって妥協しない。とてもついていきやすい方だなと思いました。ドラマを多く撮っている監督という印象もあったので、このペースでドラマ撮っているんだ…という驚きもありました。
――そんなぎっしりの台本のなか、現場はどんな感じだったのでしょうか?
僕自身、基本的に現場ではあまりお芝居について監督と話しません。特に今回は余白をどう活かすか…というようなものではなかったので、とにかく水野監督の鬼才感に浸ってみようかなと思っていました。
――田中さんが演じた荒川は、なかなかつかみどころのない役でしたが、どうやってアプローチしていったのでしょうか?
正直、荒川の大事にするポイントが結構難しかったです。変な先輩としても、面白くて頼りになる先輩としても演じられる。どのような解釈も出来て、真面目さや冗談なところもどっちも入っているキャラクターです。
脚本を読んだときは、結構コメディ要素が強いのかなと思っていたのですが、現場に入ると「あれ、思っていたよりコメディじゃないな」と感じました(笑)。シュールというか、絶妙なバランスで笑いを取ろうとしているのかなとも思いました。あとは僕が撮影後半に現場に入ったので、文哉くんの雰囲気などに合わせていきました。
――高橋さんとのセッションで、ああいった荒川になっていったんですね。
脚本を読んだイメージだと、結構はっちゃけている現場なのかなと思っていたんです。僕自身もコメディー要素あるドラマ現場の後の撮影だったので、もっと大げさに演じてもいいのかなという感覚だったのですが、意外と現場はそうではなくて。大げさにやってもリアリティを失わないという自信もあったので、最初は「このテンションでいいの?」と思うこともありました。
――それでも結構荒川には笑わせてもらいました。
それは良かったです(笑)。本当にどんなさじ加減にでもできる役だったので、現場に入ってから、丸子とのお芝居において対になるように…ということは意識しました。あとは水野監督がどんなところを求めているのかも探りながらでした。文哉くんと水野監督と僕の三者を見ながら、バランスを考えてやった結果があの荒川になりました。
高橋文哉は「ものすごくいい子」
――田中さんは「文哉くんが主演だから出演を決めた」と発言されていましたが、今回ご一緒していかがでしたか?
文哉くんは、ものすごくいい子なんです。ジムが一緒でたまに会うのですが、本当に真面目で一生懸命。そういう前提があるなかで、今回彼と一緒にお芝居をして、「文哉くんはまだまだ成長していくんだろうな」とすごく希望を感じました。
おそらく文哉くんは1番テイクを重ねていたと思うんです。僕だったら、途中で集中力を切らしてしまうと思うのですが、文哉くんは全く腐らず、心も折れず、何なら「今度はこうしてみよう」とすごく前向きでした。俳優としてとてもピュア。作品を重ねてすごく人気んも出てきて、お芝居に向き合う姿勢が全く変わらない。とても希望があるなと。そんな文哉くんを見ることができてうれしかったです。
――高橋さんとご一緒して、想像を超えてきたなと感じたシーンはありましたか?
丸子がトラックのなかで携帯小説を読んで笑うシーンがあるんです。あのシーンは本当に不気味(笑)。完成した作品を観たとき「すごいじゃん!」と感心しました。自分のなかの文哉くんにはない顔をしていたので「うぉー」とうれしくなりました。
――すごく微笑ましい感じで高橋さんを見つめている印象なのですが、親心的な目線なんですかね?
親とまではいかないですが、やっぱり兄なのか先輩なのか…そんな気持ちが入っているのかもしれません。もちろんお芝居中は共演者なのですが、前回(ドラマ『先生を消す方程式。』[テレビ朝日系]での共演)があっての今回なので、応援モードは強いですね。
でもその関係性はずっと続くかというと、そういうわけではないと思うんです。次あったらバチバチになっているかもしれませんし(笑)。ただ、いまのタイミングでは、本人が変わらずいい子だったし、よりお芝居が好きになっていると感じたので、そういう視点になったんだと思います。
40歳になり「そこにいる意味を考えるようになりました」
――田中さんは今年40歳になりましたが、現場での役割みたいなものは年々変わってきましたか?
そうですね。自分がそこにいる意味みたいなものは考えるようになりました。でも現場によって全然立ち位置は変わってくるので、そこは臨機応変に。今回はしっかり文哉くんが中心にいてくれたので、僕の出る幕なんて全くなかったです(笑)。悪目立ちしないで馴染むぞ…という気持ちでした。
――主演のときはまた違う感じで?
それも時と場合によります。自分が主演でやらせてもらっているときも、現場で空気を作ってくださる方がいれば、自分はあえて前に立ちません。どちらかというと、キャストの方よりもスタッフさんをどう巻き込んでいくかというのを意識します。
キャストは、3カ月ぐらい撮影があると一緒にいる時間が長いので話す機会が多く、放っておいても仲良くなるんです。ただ、現場を作ってくださっているスタッフさんとは、限られた時間のなかで過ごすことが多いので、しっかりコミュニケーションを取ろうということは大切にしています。
――作品作りにおいてスタッフさんはとても大切ですよね。
そうですね。もちろんキャストも大事ですが、僕らがしんどいときは、それ以上にスタッフさんもしんどいはずなんです。本当に好きだからこそできる仕事だと思っているので、少しでも現場が楽しいと思えることが大切ですよね。そのためにはできる限りのことはしたいと思います。毎回成功するわけではないのが難しいところですが。
――「次々と人が消える」という不可思議なマンションが舞台でしたが、これまで田中さんの身に起きた奇妙な体験はありますか?
最初に1人暮らしをした家が、洗面所がブルーで、風呂場がピンク、リビングが異様なまでの白い照明だったんです。内見に行ったときは昼だったので気づかなかったのですが、すごく怖かったので、すぐに照明を変えました(笑)。あれはなかなかの部屋でした。
取材・文/磯部正和
撮影/梁瀬玉実
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