映画「タイタニック」レオナルド・ディカプリオ“ジャック”&ケイト・ウィンスレット“ローズ”

レオナルド・ディカプリオ「タイタニック」四半世紀を経ても“猛烈に引き込まれる”理由は?

2024.02.18 07:10
映画「タイタニック」レオナルド・ディカプリオ“ジャック”&ケイト・ウィンスレット“ローズ”

1912年に実際に起きたタイタニック号沈没事件をベースに、新天地アメリカを目指す画家志望の青年ジャックと上流階級の娘ローズの愛の物語を描いた不朽の名作「タイタニック」(1997年)。同作はジェームズ・キャメロン監督による迫力あふれる映像と、運命的な出会いを果たした身分違いの2人による胸を打つストーリーが人気を博し、「アカデミー賞」作品賞を含む歴代最多タイとなる11部門で受賞した。日本では興行収入277.7億円(※興行通信社調べ)を記録し、公開から25年以上、洋画歴代興行収入1位の座を守り続けている。2023年には「タイタニック:ジェームズ・キャメロン25周年3Dリマスター」として劇場公開。公開前からチケットが売り切れとなる映画館も続出し、公開後は上映回数も限られている中で、公開週末動員ランキング第5位を獲得した。そしてこのほど、4Kリマスター版が配信。ジャック(レオナルド・ディカプリオ)とローズ(ケイト・ウィンスレット)の船首での象徴的なシーンなどが、26年の時を経て色鮮やかによみがえった。そこで今回、幅広いエンタメに精通するフリージャーナリスト・原田和典氏があらためて「タイタニック」を視聴し、独自の視点で見どころを紹介する。(以下、ネタバレを含みます)

本編3時間超の大作

ベストセラーは必ずしもロングセラーではなく、時代を彩った大ヒット作が普遍の価値を持つとは限らない。加えて物事には、「ちょうどいいバランス」というものがある。映画でもワンマンライブでも、それは120分程度が一つの目安だろうなと私は考えている。本編2時間、ライブや上映の会場への移動が往復各1時間。そこに映画なら「予告編の時間」、ライブなら「開場から開演までの時間」が加わるから、いざガッツリ映画やライブに向き合おうとなれば、はっきりいって1日に起きている間のかなりの時間が費やされる。それで言うと「タイタニック」(1997年)の上映時間が約3時間15分というのは、なかなかのボリューム感だ。

主演はレオナルド・ディカプリオとケイト・ウィンスレット、といっても、収録当時の彼らはまだ押しも押されもせぬオーラで圧倒するような大スターではなかったはず。人気上昇中の、とても将来が楽しみな気鋭俳優、といった感じ。しかもモチーフとなる「タイタニック号」は、処女航海の途中で沈んでしまった、つまり乗客や荷物をA地点からB地点に送り届けるという、船の役割的なものを、一度もなしとげないまま逝った乗り物なのである。どうせ沈むと分かっている、あまりにも有名な悲劇的結論を導き出した物語を、誰が3時間もかけて見たいだろう?

が、これが大ヒットした。今回の4Kリマスター版をきっかけにこの映画と本当に久しぶりに再会したが、20代の頃に見た時と変わらず猛烈に引き込まれ、しかも今は仕事柄、研究グセがついているので、見終わった後にタイタニック号の悲劇について調べまくったのは言うまでもない。

壮大なスケールの「愛の物語」

なぜヒットしたか、今見ても心をつかむのか。これに関しての答えは「愛」。「そこに愛はあるんか?」と大女優が決めゼリフを叫ぶCMをよく見るが、「タイタニック」には愛があるのだ。実際にあった悲劇的な事故に、創作ラブストーリーを掛け合わせて、さらに身分や階級の差という要素もちりばめて、極めてドラマティックな内容に仕立て上げた。「愛」を、作品の太い背骨にした。実際、「ジャックはローズと一緒にドアに乗って助かることもできたのでは?」という議論に、キャメロン監督は「ジャックは死ぬ必要があった。『ロミオとジュリエット』のようなもの。『タイタニック』は愛と犠牲、死についての映画で、愛は犠牲によって図られる」とも語っているとか。さすがトップランナーだ。

「タイタニック」は、いわゆるセレブが多く乗船する超高級船。ウィンスレット扮(ふん)するローズもセレブと言えばセレブだが、実のところは家の経済状態が傾いていて、そのために金だけはうなるほどある、しかし異様にセコい男と愛のない婚約生活を送っている。船では「一等エリア」に立派な部屋を持つ。一方、ディカプリオ扮するジャックは芽の出ない画家で、ぜひ新天地アメリカで成功したいと、半ば偶然に船に乗り込んだ。「三等エリア」にブロイラーのように詰め込まれた多数の中の一人で、行動も口調もいささか荒っぽい。

通常ならすれ違うこともなさそうなこの二人がいかに出会ったか、このあたりの描写も実に細かいのだが、とにかくローズは、感じたままに生きるようなジャックに大変なスリルを感じ、ジャックは、俺ともあろう者がこんな上流の美女と知り合えるなんてとテンションを上げる。そうなると面白くないのがローズの婚約者だが、この男、ヤボを煎じ詰めたようなキャラで、芸術に関しても、ローズとは正反対に全くといっていいほど理解を示さない。「アート? それで腹が膨れるのか? いくら儲かるんだ?」とは言っていなかったけれど、そんなセリフが彼の表情から私には聞こえてきた。

今なお語り継がれる最大のロマンスシーン

1912年4月10日に出発したこの船が、氷山とぶつかったのは14日の深夜とされている。したがってそれまでの本当に豪勢で恵まれた数日間も、映画では丁寧に描かれている。作品を見たことがない人にも知られているであろうシーンはやはり、まだ船が順調に動いていた頃、その先端でジャックとローズがしているあのポーズであろう。

が、私が最も印象に残った場面の一つは、追っ手をまくために、二人が手をつなぎながらボイラー室を通り抜けるところだ。タイタニックはとんでもない大型船で、当時の常としてプロペラ駆動。必要とする石炭の分量も並外れていた。そのため数百人の労働者が、入れ代わり立ち代わり、24時間態勢で数百トンもの石炭を燃やし続けたという。恵まれた境遇にある乗客の「ロマンス」や「社交」の裏で、すさまじい熱さの中、汗みどろの男たちが、命懸けで石炭をくべていたわけだ。その情景が、ほんの少々とはいえ映画に挿入されたところに、私は監督のディレクターシップを見る。上級たちがうまいものを食い、飲んでいたであろうことは想像するまでもないが、労働者がどのような食事を得ていたのか、そこは知りたいと思った。

水を含んだ巨大船がどんどん傾いていく中、最初に助けの手が伸びたのは「一等」の人々に向けてである。女性と子どもが優先されたのは当然だろうが、どうしても、狭いスペースに密集していた「三等」の人々への救援は遅れてしまう。ローズは女性なので優先的に助けを受けることができたが、結果的に、生命の危機にさらされながらも、ジャックと一緒に時を過ごすことを選ぶ。出会って4日間という短期間で、恋とは、ここまで燃え上がるものなのだろうか…燃え上がるものなのだろう、この二人にとっては。

「生存者を物語に登場させる」リアリティ

が、この映画、単なる「タイタニック乗船で始まった二人の恋が、沈没によって云々」という物語ではない。この4日間はいわば、とても長大な回想シーンという扱いで、前後にすっかり年を重ねた、本当に数少ない生存者になってしまったローズの登場場面がある。これが、のりまきでいえば「のり」の部分。酢飯や具材にあたるのが、「1912年のタイタニック事件を描いたパート」である。先にも触れたが、映画が初上映されたのは1997年のこと。まだ、「生存者を物語に登場させる」リアリティが、かろうじて成立した。

それから歳月は流れ、今は2024年。112年前のことを体験した人などもうこの世にはいないし、公開当時はいかにも最先鋭であったろうブラウン管モニター登場の箇所も、今ではほほ笑みが漏れそうになるほどレトロだ。

それでも、あらためて視聴した「タイタニック」はどうしようもなくヴィヴィッドであった。船を突き破る水の音、90度の斜面を滑り落ちる人々の悲鳴、高速で弾き飛ばされた末に物にぶつかる体、人生最後の音楽を奏でる演奏家たちの表情(当時最新のアメリカン・ヒット・ソングであろう「アレキサンダーズ・ラグタイム・バンド」も演奏)、ローズが残りの力を絞り出すように吹くホイッスルの音色などなど、どれもこれもが、心に刺さるのだ。

映画「タイタニック」は、ディズニープラスで配信中。

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