アントワープのMoMuで「The Antwerp Six」展が開幕(若月美奈)

2026.04.09 06:00
提供:繊研plus

90年代初頭にパリ・コレクションに相次ぎ登場してベルギー旋風を巻き起こしたアントワープ出身のデザイナーたち。1986年3月、6人の若手デザイナーがグループを組んでロンドンで展示会に参加し、ジャーナリストたちが彼らを「アントワープ・シックス」と名付けた。そこを起点に40周年を記念した展覧会がベルギー・アントワープのファッションミュージアムMoMuで開催されている。

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アン・ドゥムルメステール、ダーク・ビッケンバーグ、ドリス・ヴァン・ノッテン、ダーク・ヴァン・セーヌ、ウォルター・ヴァン・ベイレンドンク、マリナ・イーの6人。それぞれ全く違った作風でありながらも、誰もがとてもアントワープな彼らの活躍ぶりは広く知られている。展覧会の冒頭では、貴重な写真や映像、資料とともに、彼らが登場する経緯が時系列的に紹介され、6人それぞれのコーナーではアーカイブ作品とともにブランドの世界観が堪能できる。

そのあたりは、さまざまな媒体やSNSで紹介されているので、ここでは写真とともにさらりと紹介するにとどめ、他ではあまり知られていない繊研新聞とアントワープ・シックスの関係について触れてみたい。

上の写真は、展覧会で紹介されている繊研新聞1984年4月17日付の紙面。アントワープ・シックスにマルタン・マルジェラが加わった7人が、来日して大阪で合同ショーを行った時の記事である。ベルギー政府は当時、繊維産業の近代化と輸出拡大を目指し、若手デザイナーを対象にしたコンテスト「ゴールデン・スピンドル(金の糸巻き)」賞を開催していたのだが、7人は2年目の最終審査に残った駆け出しのデザイナーたち。初めて外国で行ったショーの資料として展示されている。ちなみにこの年の大賞はダーク・ヴァン・セーヌが射止めた。

その時、大阪の前に訪れた東京ではコムデギャルソンのショーを見学した。その会場でマルタンが、客席にいた山本耀司に大阪で開催する自分たちのショーに来て欲しいと話しかける写真が掲載された現地の新聞記事も展示されている。観光を楽しむプライベート写真もたくさんある。

展示は、フラマン語、英語、フランス語の3か国語で丁寧に解説されているのだが、足元から天井近くまでぎっしりと並ぶ資料に記された文字はとても読みきれない。こちらは展覧会カタログでゆっくりおさらいしたい。70ユーロ(約1万3000円)するがその価値は十分あり。

では、6人のコーナーを写真で追ってみよう。

最初に登場するのはダーク・ビッケンバーグ。メンズウエアを中心にスポーティーな服や実際にスポーツとの関係がある作品、キャンペーン写真などが展示されている。

次はぐっとカラフルでプレイフルなウォルター・ヴァン・ベイレンドンク。6人の中で唯一今なおパリでショーを披露している現役のウォルターは、自らがキャラクターとなって登場するなど楽しいコレクションを発表し続けている。展示は、中央のマネキンの顔がモニターになってウォルターが話しているというユニークなもの。

ダーク・ヴァン・セーヌは動く展示。マネキンがぐるぐる回るキャットウォークを、顔が描かれた紙袋や段ボール箱などを被った観客が見ている。クチュール的なものづくりやトロンプルイユなどウィットに富んだデザインを得意とし、現在はアーティストとしても活躍するダークらしいコーナーとなっている。

ドリス・ヴァン・ノッテンはとても饒舌な空間。オリエンタルやテーラード、カラフルでありながらも落ち着いた色使いなど、彼らしい作品が展示とたくさんの映像で紹介されている。


そして、ある意味1番の見どころとも言えるのが、自宅のアトリエを再現した部屋を窓の外から覗く形のマリナ・イーのコーナーかもしれない。他の5人が相次ぎパリデビューしてブランドを成長させていく中、ファッションから身を引いて舞台衣装やカフェ経営、インテリアなどの仕事をしていたマリナ。そのミステリアスな存在の彼女はここ数年ファッション界にカムバックして、クラフトタッチのテーラードや折り返した裾がほつれたアーティスティックなジーンズなどをデザインしていた。ところが、これからといった矢先の昨年11月1日にこの世を去った。ジーンとくるコーナーである。


そして最後が真っ黒なアン・ドゥムルメステール。シルエットやディテール、素材感を前面に、詩的でロマンティック、退廃的なムードを漂わせるアンの世界が繰り広げられている。

その後展示は、テリー&パトリシア・ジョーンズ、ラフ・シモンズ、スティーブン・ジョーンズなど、アントワープファッションの証言者であるキーパーソンが、アントワープ・シックスについて語る映像の部屋へ。ユナイテッドアローズの栗野宏文さんもその1人としてそれぞれのデザイナーのインディビジュアリティーなどについて語っている。さらに、インビテーションカードなどの貴重なアーカイブのコーナーを経て展覧会終了。

というわけなのだが、アントワープ・シックスと繊研新聞の素敵な関係は、ミュージアムショップへと続く。展覧会カタログの隣に置かれた「Belgian Wind: Antwerp Fashion 1980 -2001」という小冊子のような書籍である。


実はこれ、1993年に日本人として初めて王立アントワープ芸術学院のファッション学部を取材した私が記した繊研新聞の連載「ベルギーの風」の翻訳本。1993年の9回連載、1998年の5回連載、それに装苑2001年10月号に寄稿した「アントワープ・ファッションの変遷」のオリジナルの紙面の画像と英文翻訳、当時撮影された写真で構成されている。

繊研新聞が有する1988年3月にロンドンで行った「アントワープ・シックス」のショー写真や、93年に開催されたファッション学部30周年展で私が撮影したマルタンやマリナなどの卒業作品の展示など、未公開写真も掲載されている。

現在の社会情勢のなか、アントワープへ気軽に行くことは難しいかもしれないけれど、パリから列車で2時間。機会があれば是非訪れて欲しい。来年1月17日までの開催。


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あっと気がつけば、ロンドン在住が人生の半分を超してしまった。もっとも、まだ知らなかった昔ながらの英国、突如登場した新しい英国との出会いに、驚きや共感、失望を繰り返す日々は30ウン年前の来英時と変らない。そんな新米気分の発見をランダムに紹介します。繊研新聞ロンドン通信員

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