「退院はいつできますか?」両足切断を告げられた16歳少女の第一声…“車いす”モデル葦原海と語る”障がいのリアル”
2年前に原因不明の病気で自宅で意識不明となり、その後、半年の植物状態、1年のリハビリを経て、車いすで社会復帰したカメラマン・関根いおん氏が車いすの先輩の写真を撮り、話を聞く連載がスタート。
第一回目のゲストは、16歳のときに事故で両足を失い、車いすユーザーとなった葦原海(あしはら・みゅう)さん。東京2020パラリンピック閉会式やミラノファッションウィークへの出演で世界的に注目を集める彼女と、両足を失った当時の心境やバリアフリーの実情、「障がいは個性なのか」という問いまでを語り合ってもらった。当事者同士だからこそ語れた、飾らない“車いすのリアル”――。(前後編の前編)
* * *
――本日はご出演いただき、ありがとうございます。
みゅう こちらこそ、呼んでいただきありがとうございます。
関根 まずは葦原海(以下、みゅう)さんのお話からお聞きできると。みゅうさんが事故に遭ったのは16歳のときとお聞きしました。
みゅう 事故当日の記憶はほとんどなくて。両親が話し合って、当日中に切断手術を決断したんです。私は数日後に目覚めたんですけど、最初に見えたのが母の泣き顔で。呼吸器を付けていたからうなずくことしかできなくて、1分も起きていられないまままた眠ってしまいました。
関根 足がないと知ったのはいつだったんでしょう。
みゅう しばらく知らされていなかったんです。骨盤にひびが入っていたから「動かないで」と言われていたし、シーツがかかっていたんですが、幻肢(げんし)といって足がある感覚もあって。今もそうなんですが、車いすのペダルに足がくっついてる感覚があるんです。当時はそれがより強く残っていたんです。
そんなとき、たまたまベッドのシーツが捲れたときがあって、上は病院着を着ているけど下は病院着を着てないということに気づいたんです。それで手を伸ばして触ってみたらビニールみたいな素材感で。包帯を巻いてその上からビニールを巻いている感じだったんです。
ただ、切断したのかどうか判断はつかなかったので、お医者さんに「切断したんですか?」って聞いたてみたら、お医者さんはびっくりしていましたね。まさか本人から聞かれるとは思っていなかったみたいで。ご両親が揃ってからご説明させてくださいということで、両親が来た時に一緒に説明を受けました。
関根 聞いたときの印象は覚えていますか?
みゅう 今でも両親が言うんですが、説明されたときの私の第一声が「退院はいつできますか?」だったらしくて。本当に驚いたらしいのですが、私はその発言すら覚えていなくて(笑)。ただ、私の中ではモヤモヤしていたことが「知れた」というすっきり感の方が圧倒的に大きくかったんです。
当時の私にとって、一番のモヤモヤは「なぜリハビリが始まらないのか」ということ。退院の目処が決まっていないのと、リハビリが必要ということは知らされていたんですが、そのリハビリがなかなか始まらないんです。いつ始まるかを聞いても分からないと言われて、その曖昧さがすごく嫌だったんです。
私は、当時から足を失ったことで、できなくなったことはなんですかと聞かれたとしてもあまり思いつかなくて。強がっているわけではなく、足は必要だと思うんですが、そこまで私の人生で必要性を感じていたわけではないなと。例えばこれがサッカーや登山が趣味だったら、足と一緒に失ったものもあって落ち込んでいたと思うんです。でも、趣味はお菓子作りとかネイルだったので。手を失っていたら落ち込んでいたのかもしれないですね。
それまで車いすの方と接する機会がなかったので、未知だったというのも大きいかもしれません。知らないからこその不安を抱える人もいるとは思うんですけど、私はどちらかというと知らないからこそ楽観的に考えられるタイプ。嫌だとか大変そうとネガティブに捉えることもなく。普通にいつから車いすに乗れるんだろうとしか思ってなくて。むしろ車いすに乗れるタイミングが来たら退院に一歩近づくという感覚だったので、嬉しかった記憶はすごくありますね。――関根さんの場合はいかがでしたか?
関根 僕は失ったものが大きすぎて、そんなに前向きになれなかったですね。こうなってなかったら今どうなっていたか、未だに考えてしまって。僕は病気がきっかけで3ヶ月意識不明の状態になって、そこから6ヶ月の植物状態、1年のリハビリ後に車いすになったんですが、病気になった時に既に45歳を越えていたんです。
当時IT企業で役員として働きながら、カメラマンもやり始めていて。仕事はとても順風満帆でしたし、カメラマンとしても売れはじめていた頃でした。当時撮っていたアーティストやモデルさんたちが入院中に人気になっていて、嬉しい反面、撮りたかったなとやっぱり悔しくて。
――IT業界という点も大きかったようですね。
関根 この2年間でAIがものすごく発達して、働き方が一気に変わりました。インターネットが出てきたとき以上の変化で。この2年間を失ったことは、IT業界の人間からすると本当にやばくて。だから切り替えをどうやってできるのか、というのが今日一番聞きたかったことなんです。
みゅう 失ったものはあるかもしれないですけど、得たものって逆にないんですか。
関根 得たもの……。あまり人望がないと思っていたんですけど(苦笑)、入院中に思った以上にたくさんの人が面会に来てくれたんですよ。2年近く入院していたのに、とんでもないくらい来てくれて。カメラマンをやっていたのでモデルや芸能人の方も来てくれて、病院がざわつくくらいで(笑)。この人たちのためにも頑張って回復して、もう一回仕事しなきゃと思いました。
みゅう 私はどちらかというと、未来への楽しみをすごく抱いていた子だったんです。でもこの体になってから、「今が大事だな」とめちゃくちゃ思うようになって。今、突然何かが変わってしまったら、その未来も奪われる可能性があるから、今にもっとフォーカスして生きるようになったのは、この体になってからかなと思っています。
関根 それは僕も同じかもしれない。今を生きるという意識はすごく強くなりました。
――車いす生活での日常の困りごとについて、お二人にお伺いしたいのですが。
関根 まずトイレですね。障がい者用トイレがないと詰んでしまう。どこか出かけるときは必ずトイレがあるかどうかを探さないといけないし、会社も専用の設備を用意してもらってなんとかなっています。
みゅう トイレ、めちゃくちゃ分かります。ただ私は事前にぜんぜん調べないんですよ。行きたいお店はインスタで調べるんですけど、段差があるかとかトイレがあるかは調べなくて。当日行ってみてどうにかする、という感じで。段差があれば一緒にいる人や店員さんに手伝ってもらったり、車いすから降りておんぶしてもらったりと、臨機応変に対応します。
関根 僕はめっちゃ調べます(笑)。――お風呂はどうですか。
関根 自分一人でシャワーは浴びられるんですけど、足が麻痺しているから湯船には一人で入れなくて。週に2回ヘルパーさんを頼んでいます。車いすから降りて足を畳んで動かしてシャワーを浴びてと、一人でやると本当に重労働で。言い方は悪いかもしれませんが、動かない足が邪魔だなと思うこともあって。
みゅう 私は一人暮らしなので、自分の家では湯船に入らないようにしています。何かあったときには事故になっちゃうので。ホテルや温泉では入りますけど、それは最悪チェックアウトのときに気づいてもらえるから(笑)。
関根 賃貸マンションを探すときも苦労しました。車いすを使っていると伝えたら、床が傷つくからという理由でほぼ全て断られました。日本人のオーナーはみんなダメで、貸してくれたのは外国人のオーナーの方でした。ただ、それでも吹っかけられて家賃は高くなりましたけど(笑)。
みゅう それは困りますね。ただでさえ車いすで物件を探すとなると、限られてしまうので。エレベーターがない物件は無理だし、エントランスに行く前に2段階段があるだけでダメ。内覧も大変で、間取りは良くても玄関が狭すぎて車いすが入らないとか、扉の開き方でトイレが使いづらいとか、実際に行かないと分からないことが多くて。
――不動産屋の物件資料にエレベーターの有り無しは書いてあっても、エントランスの段差の有り無しなど、バリアフリーに適しているかどうかは書いてないですもんね。
みゅう そうですね。ちなみに、私の場合、車いすになったときは実家に住んでいたんですが、まったくリフォームしなかったんですね。バリアフリー改装の補助金が出るのは一つの家に対して一回だけなんです。私の時に改装してしまったら、何十年か後に両親の体が悪くなって適したものが欲しいとなったとき、全額自己負担になってしまう。なので、私のときにしなくてもいいかなと思って。
▽葦原 海(あしはら みゅう)1997年11月14日生まれ、愛知県出身。16歳のときに事故により両足を失い、車いす利用者となる。「エンタメの力で健常者と障がい者の壁を壊す」と決意し、モデル、タレントとして活動をはじめ、東京オリンピック・パラリンピック2020では公式文化プログラムの出演者にも選ばれる。2023年には書籍『私はないものを数えない。』を発売。YouTube「みゅう♡足は姫にあげた」(@myu_ashihara)
▽関根いおん(せきね いおん)IT企業で働きながら、独学でカメラを学び、カメラマンとしてもデビュー。45歳を越えたときに、原因不明の病気になり自宅で意識を失う。3ヶ月後、病院で意識が戻るも植物状態に。その後、1年のリハビリを経て退院。ポートレートは「車椅子でも全然問題なく撮れます!というか前より上手くなってる気がします」X(@Nessie44)
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