「障がいは個性ではない」車いすユーザー2人が語る違和感「使わざるを得ないから使っているだけ」
2年前に原因不明の病気で自宅で意識不明となり、その後、半年の植物状態、1年のリハビリを経て、車いすで社会復帰したカメラマン・関根いおん氏が車いすの先輩の写真を撮り、話を聞く連載がスタート。
第一回目のゲストは、16歳のときに事故で両足を失い、車いすユーザーとなった葦原海(あしはら・みゅう)さん。東京2020パラリンピック閉会式やミラノファッションウィークへの出演で世界的に注目を集める彼女と、両足を失った当時の心境やバリアフリーの実情、「障がいは個性なのか」という問いまでを語り合ってもらった。当事者同士だからこそ語れた、飾らない“車いすのリアル”――。(前後編の後編)
* * *
――みゅうさんは海外にもよく行かれているそうですが、海外のバリアフリー事情で感じたことはありますか?
みゅう 韓国は不便でした。道がデコボコなのに加えて、路面のお店でも3〜4段下がって入るところがすごく多くて。地下鉄もエレベーターがある場所が限られていて、案内も韓国語だけで分かりにくかったです。
関根 僕も韓国が好きなので気になっていたんですよ。
みゅう ヨーロッパは、石畳やレストランのトイレが地下にあることなど不便なところはあるんですけど、美術館や教会などはちゃんと車いす用のルートが整備されていたり、障がい者は半額だったりと。景観を変えない代わりに、人の手助けで対応しようという意識が進んでいるかもしれないですね。
――関根さんは車いすになってどこかに行かれたんですか?
関根 まだどこにも行ってなくて。こないだ写真の仕事で横浜スタジアムに行ったのが一番の遠出で。
みゅう どこにでも行けますよ。新幹線は車いすのまま行けるし、飛行機も乗り移りさえできれば簡単です。車いすはキャリーケースと一緒に預けて、機内の狭い通路を通るパイプいすみたいなのに乗り移るんですけど。
関根 横浜スタジアムまで行って、これ行けるぞという気になってきたんですが、最初は電車に乗るのもビビってましたからね。
電車で言うと、僕は退院して最初に電車に乗った時に、日本のホスピタリティのすごさに驚いたんです。駅員さんに行き先を伝えると、乗せて降りるまで全部やってくれて。
みゅう 私、この前TikTokで、「車いすになってメリットデメリットありますか?」という質問に答える動画を出したんですけど、「メリットなんてあるわけないじゃん」というコメントをめっちゃ書かれたんです。でも、あるんですよ。
電車で言うと、私は車いすを利用する前は乗り間違えがすごかったんです。ただ、今は案内していただけるので乗り間違えが一切なく、最短ルートで目的地に行けます。あと、私は電車でよく寝ちゃうんですけど、乗り過ごしもなくなりました。降りる駅で待っている駅員さんが必ず起こしてくれるので。恥ずかしいのでちょっと前に起きたいんですけど(笑)。メリットは見つけようとしたら見つけられると思いますね。
――東京2020パラリンピックをきっかけに東京のバリアフリー事情は変わったのでしょうか?
みゅう 昔よりは進んでいると思います。エレベーターが広くなったとか、ホームの安全設備が整ってきたとか。ただ、快適ではない部分もまだまだありますね。東京でも古い路線はいまだに不便ですし。海外ほど土地がないから仕方のない部分もあると思うんです。
あと、ヨーロッパの景観を守るのと一緒で、日本の歴史ある場所をバリアフリーにしてほしいと私は思っていなくて。むしろ車いすの人が来たときに、人の手助けでどう対応できるかを広めてほしいですね。――みゅうさんはインタビューなどで、「車いすモデル」という肩書きではなく名前で呼ばれたいとおっしゃっています。
みゅう メディアの取り上げ方としてキャッチーなワードだから「車いすインフルエンサー」とか「車いすモデル」と書かれることはあるし、それはもちろん了承しているんです。ただ、自分から「車いすモデル」とは言わないようにしています。
私がやっているモデルという活動は、一個一個の仕事が誰かのお手本になればという意味で、本来の「モデル」という言葉を使っていて。私はファッションショーに出たり、講演会を開催したり、グラビアもやったり、いろいろ活動しているんですけど、そういう姿が誰かの目標になれればいいなと思っているんです。車いすでグラビアをやっている人がいなかったから、車いすユーザーの方がグラビアをやってみようとも思わないじゃないですか。憧れる人がいないと夢も抱けないと思うんです。
関根 話していて、みゅうさんって本当に障がい者だという意識がないんだなぁと感心しました。僕はまだまだあって。いろいろ失ったものもあるし、「車いすカメラマン」という肩書を積極的に使っていこうとも思っていたんですが、「あ、俺浅ましいな」と思ってしまいました(苦笑)。
みゅう ぜんぜんいいと思いますよ(笑)。何を見せたいかによって違うと思っていて。例えば知り合いに車いすダンサーがいるんですが、その方は車いすをパフォーマンスの一部として使っているので、「車いすダンサー」という肩書きが正解だなと思うんです。私の場合は、目が悪いから眼鏡をかけるのと同じくらいの感覚で車いすを使っているので、それを個性とは思えなくて。
関根 「障がいは個性」という言い方もよく聞きますが、その点はどう思いますか。
みゅう 私は違うと思いますね。個性って、好きでやっていることだと思っていて。例えば個性的なファッションって、人にダサいと思われても自分がいいと思って貫いている姿勢じゃないですか。私は車いすを「貫いている」わけじゃなくて、使わざるを得ないから使っているだけで。武器にしている側面はあるけれど、個性とは少し違うかなという感覚はあります。
――先ほどの関根さんの「車いすカメラマン」が浅ましい、という話ではないですが、障がいをビジネスに結びつけることへの拒否反応も世の中にはあるような気がします。
みゅう それはすごく思いますね。お金儲けのために福祉事業をやり始める人もいらっしゃるじゃないですか。それが真っ当であれば別にいいと思うんですよ。
私の場合、モデルや講演が本業なので、それに対して真っ当なお金をいただくのは当然だと思っています。NPOのイベントだからボランティア価格でというオファーもあるんですけど、NPOの事業自体はボランティアでやっていても、私はゲスト出演する側の本業の立場なので。安すぎたら交渉もするし、お断りすることもあります。福祉の分野で稼ぐことと、真っ当にやることは矛盾しないと思っています。
関根 みゅうさんは前々から「エンターテインメントの力で障がいの壁を取り除きたい」とおっしゃっていますが、具体的に教えていただけますか。
みゅう 以前にNHKの番組内のファッションショーに出たときに、障がいを広めようとしている番組なのに、主に観ている方が、障がい者当事者やご家族、福祉関係者だと感じたんです。広めようとしているのに思ったほど広まっていない、それを変えたいなと思っています。
例えば私は事故に遭うまで乙武さんのことを知らなかったんです。テレビも新聞も見ないから。スポーツも見ないから、パラスポーツも当時の私には届いていなかった。ただ、私みたいな人って世の中にいっぱいいると思うんです。だったら、私は私ができること、もっとみんなが「かわいい」「おもしろい」「楽しい」と感じるフィールドで発信したいなと思ったんです。
関根 そうなるとSNSの役割も大きくなりそうです。
みゅう コロナをきっかけにTikTokを始めたんですけど、おすすめ機能のおかげで、車いすや障がいに興味のない人にもポンッと届くのが大きくて。街中での声がけも、以前は「何かお手伝いしましょうか」だったのが、SNSが伸びてからは「動画見てます、応援してます」という声に変わったんです。それって、障がい者だから声をかけなきゃではなく、知っている人だから声をかけたいという変化で。そうやって声かけのハードルを別の角度で下げられているのはすごく嬉しいことだなと思っています。――最後に、これから目指していることを聞かせてください。
みゅう 一番やりたいことで言えば、ドラマに脇役で出たいんです。主役だとどうしても車いすを題材にした内容になるけど、学園もののクラスメイトの一人が車いすだとか、オフィスものでOLの一人が車いすだとか、自然に混じっていくほうが大事だと思っていて。車いすユーザーの知り合いがいる人ってなかなか少ないから、日常の中でそういう存在を見かける機会を増やしていきたい。H&Mでもどんなブランドでも、普通の広告に自然と車いすの方が入ってくる、そんな世界を目指しています。
関根 今日は本当に圧倒されました。切り替えのヒントをもらいに来たんですけど、なんかもうそれ以上のものをもらった気がします。
みゅう どこにでも行けますよ、本当に。まず横浜スタジアムに行けたんだから、次はどこにでも(笑)。
▽葦原 海(あしはら みゅう)1997年11月14日生まれ、愛知県出身。16歳のときに事故により両足を失い、車いす利用者となる。「エンタメの力で健常者と障がい者の壁を壊す」と決意し、モデル、タレントとして活動をはじめ、東京オリンピック・パラリンピック2020では公式文化プログラムの出演者にも選ばれる。2023年には書籍『私はないものを数えない。』を発売。YouTube「みゅう♡足は姫にあげた」(@myu_ashihara)
▽関根いおん(せきね いおん)IT企業で働きながら、独学でカメラを学び、カメラマンとしてもデビュー。45歳を越えたときに、原因不明の病気になり自宅で意識を失う。3ヶ月後、病院で意識が戻るも植物状態に。その後、1年のリハビリを経て退院。ポートレートは「車椅子でも全然問題なく撮れます!というか前より上手くなってる気がします」X(@Nessie44)
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