『10歳で性被害にあいました 誰にも相談できない』(ちくま サラ・著)KADOKAWA

漫画『10歳で性被害にあいました 誰にも相談できない』作者・ちくまサラが明かす“声を奪われた子ども”の現実

2025.12.28 07:03
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小学4年生のなるみが、放送委員会で出会った6年生のゲンシから性被害を受けるが、なかなか先生にも親にも、友達にも相談できない……。大人になっても少女時代のトラウマを抱えていた主人公が、親となって過去と向き合う姿を描いた衝撃のコミック『10歳で性被害にあいました 誰にも相談できない』。自身の経験を基に本作を描いたという著者のちくまサラ氏に、執筆のきっかけや、現在の性教育について思うことなどを聞いた。(前後編の前編)

――『10歳で性被害にあいました 誰にも相談できない』は、どのように生まれたのでしょうか。

ちくま もともとは自身のブログで「10歳で性被害に遭った話」という実録漫画を描いたことがきっかけです。まだまだ子どもの性教育や性犯罪に対する世間の理解が低いと感じることが多くて、自分自身の実体験を描くことで性被害の現実と性教育の大切さを発信しようと考えました。その漫画を読んでくださった編集部の方にお声がけいただき、フィクションを加えて書籍という形で出させていただくことになりました。

――過去の性被害を振り返る苦しさはなかったでしょうか。

ちくま 私にとっては「振り返る」というよりも、常に記憶に新鮮に残っている状態ですので、改めて記憶を呼び覚まして苦しくなる、ということはありませんでした。

――ブログで「10歳で性被害に遭った話」を発信した時、読者の反応はどのようなものだったのでしょうか。

ちくま 思った以上に反響があり驚きました。似たような体験をした方からの共感コメントもいただきましたが、「どうしてこうなったの? ああすればいいじゃん、こうすればいいじゃん」みたいなご意見も多くて、ここまで細かく描いても性被害を理解してもらうのは難しいのか……と感じました。

――本作の主人公・なるみは小学4年生。学校の放送委員会で出会った6年生のゲンシに、スカートをめくられたり、下品な言葉をかけられたりといった、非常識な行動に苦しめられますが、抵抗する術を知りません。

ちくま なるみは「こんなことはされたくない」「抵抗したら何をされるか分からない」「誰に何と言って相談したらいいか分からない」「相談すること自体が恥ずかしい」といった不安や恐怖感を抱きますが、分からないことだらけ。「嫌だ」という感覚はしっかりとあるものの、そこから先に進む知識がないんです。

――なるみの異変に気付いた母親が、泣きながら性被害を訴えたことで、学校側にも事件が知られることになります。しかし、ゲンシの担任・保波先生はどうすることもできずに煩悶します。

ちくま ゲンシについてはなんとかしないといけないし、深い事情を知らずに自分の意見を言ってくる男性教員たちの態度にもやきもきしているものの、自身の経験や知識不足から、どうしたらいいのか分からない状態。また「ゲンシくんは女性のいうことを聞かないから」と諦めている部分もあります。

――なるみの母・みどりも娘を守るために行動しますが、無意識になるみの気持ちをないがしろにしてしまいます。

ちくま 私自身、二児の母ですが、子のためを思ってしたことが、その子にとってはNG行動だったという経験は、子どもに関わっていると大なり小なり経験します。この作品では「繊細な子と大雑把な親」というパターンで描きましたが、全ての親子関係で起こりうることだと思っています。子と向き合う時は、自分の感覚やものさしだけで子を見ていないか? 子の気持ちを十分に理解できているか? と立ち止まることが大切だと自戒をこめて描きました。また、「子ども視点で見た親」と「親視点で見た親」の違いは、私自身が親になっていなかったら絶対に描けないエピソードでした。なるみが母親に対して思っていたこと、執着していたことを、最後に手放せたのは、私の中ではとても大切なシーンです。

――加害者のゲンシも、家庭環境のせいで大人から悪影響を受けてしまった被害者の側面も浮かび上がります。

ちくま 被害者目線で見た時に、加害者はどんな事情があろうが加害者でしかなく、私自身も加害者のことは大嫌いでひたすら憎かったです。しかし性加害について調べていくと、幼い子どもが起こす性加害は周りの大人の環境に影響されていたり、加害者自身が性被害者であることが多いことを知り、ある意味ではゲンシも被害者であると思いながら描きました。だからといって性加害は絶対に許されることではありませんが、加害者を叩くだけではなく、加害者を生まないためにはどうすればいいか? という視点を社会全体で持つことが大切だと思っています。

――現在、小学生・未就学児等を対象にした、プライベートゾーン等の啓発キャンペーンなど、国を挙げて、子どもたちに自分を守るための知識を持ってもらう活動が行われはじめました。こうした取り組みを、どのように受け止めていますか。

ちくま 様々な活動やキャンペーンが広がっているのはとても良いことだと思う一方で、長い目で見たらまだまだスタートラインでしかありません。まだまだ興味のある人だけが情報を収集している状態なので、興味のない大人は昔の価値観のまま、「なんだか知らないけど最近はエロ規制が厳しい」とか「自分自身もちゃんと大人になったし、わざわざ性教育を変える必要はないだろう」という認識であることが問題だと感じています。これを変えていくには、一人でも多くの人が価値観をアップデートして、周りに広めていくしかないと思います。私も、自分の作品を読んでいただくことで少しでも多くの人に性教育を教えることの大切さが伝わればいいなと思っています。

――『10歳で性被害にあいました 誰にも相談できない』で描きたかったことや今作に込めた想いを教えてください。

ちくま ブログに元漫画を発信した際に、「煽りではなく純粋に疑問なんですけど、なぜ誰にも相談できなかったのですか?」というコメントを複数いただきました。なので今回はそれをサブタイトルにして、性被害に悩んでいる子どもがなぜ大人に相談できないのか? という部分を特に丁寧に描きました。また、性被害に遭ったり、性被害を目撃した時に、どう行動すべきかの正解を一発で出すことがいかに難しいかという部分も伝えたいことです。

『10歳で性被害にあいました 誰にも相談できない』好評発売中

著者:ちくまサラ出版社:KADOKAWA (2024/12/5)

公式ホームページ:https://www.kadokawa.co.jp/series/500784/X:https://x.com/chikumababy

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