「通称:『雨口』と呼ばれるライブ。コンセプトもフライヤーも、すごくかっこいい」

女芸人たちの静かな連帯「私たちは、飲みもケンカも愚痴大会もしないけれど」【連載:しょぼくれおかたづけ 第5夜】

2025.06.11 17:00
「通称:『雨口』と呼ばれるライブ。コンセプトもフライヤーも、すごくかっこいい」

にぼしいわし・伽説(ときどき)いわしによる、日々の「しょぼくれ」をしたためながら、気持ちの「おかたづけ」をするエッセイ「しょぼくれおかたづけ」。 

まじめに、ひたむきに頑張ることがいちばんえらいと思っていたのに。評価されたい人の目に留まるのは、決まってそんな人間じゃなくて。

お笑いの世界は、真っすぐさだけの自分が越えられない壁が次々に立ちはだかる。そんなものを何度も見せつけられては、どうにもダサさを隠しきれなくなる。

それでも私がまだ勝負できる理由、それはきっと私と同じ壁を感じながらも、私がすなおに「かっこいい」と思う方法で、淡々と乗り越えていく同世代の女芸人たちがいるから。彼女たちの真っすぐさは、ずるい、ムカつく、そんな気持ちなんて持てないほどに、すがすがしい。

彼女たちが戦い続ける限り、私がくじけている暇なんてない。

第5夜「みんなもお願いやで」

ずるいなと思っていた。

まじめな奴が毎日遅刻せずに通学できていても褒められないのに、ヤンキーがたまに遅刻しなかったら褒められる現象に。

中学の部活で、バレーボールはすこぶるうまいけれど、生活態度が悪い奴がいた。先生はその子のことをずっと気にしていたし、私も気にしていた。根はいいやつってわかっているし、何よりバレーボールが大好きなことも知っている。でも、遅刻をしたり悪さをしたりして、先生に怒られることが多かった。

ある日、コテンパンに怒られたその子は、拗ねに拗ねて、家に引きこもって、部活に来なかった。

部活に来ないなんて、その当時は大事件だった。私たちは心配でその子の家に行った。「一緒に先生に謝ろう」と「一緒に部活がしたいから辞めないで」とインターホン越しに声をかけた。

その子は「ありがとう、ごめんなさい」と泣きながら出てきて、一緒に先生に謝って、先生も許した。「お前は素質があるんだから、期待してるぞ」と優しい顔でその子に伝えた。大団円だった。

こんなにも大団円なのに、私の大好きなチームメンバーと部活ができるというのに、私はほんの少し心がごわついていた。

その子と先生の間には、私と先生の間にはない、確固たる絆があった。

それは目に見えるものじゃない、浅はかに語られるものじゃない、苦難を乗り越えてやっとの思いで辿り着けるようなもの。

今後の人間活動の要所要所に出てきてピンチを助けてくれそうな経験から基づく絆があった。

私はメンバーの中でバレーボールが一番へただった。だからみんなに必死に追いつこうと部活とは別に練習に明け暮れた。もちろん、生活態度もよかったし、遅刻をしたことなんてなかった。一度、ジャンプして着地するときに、ボールを踏ん付けて捻挫したけど、テーピングでぐるぐる巻きに固定して部活に出ていたし、寒い時期には誰もやりたがらない雑巾を洗うのを率先してやった。

それでも先生は私に対して、褒めることも叱ることもしなかった。

ある試合で、私がサーブミスをした。これはだいぶ怒られると思った。他の子がこんなミスをしたら絶対に怒られるところを見ている。これよりマシなミスをしても怒られるし。これはやばいなと身構えていたのに、全然怒られなかった。

心のごわつきがどんどん大きくなった。

私はこんなに部活が大好きで、どうにか貢献したいと思っていて、その思いには到底及んでいないような実力で、もっともっと怒られていいのに怒られない。気にかけてもらえてない。

ねぇ、先生。私が、毎日自主練していること、腫れてる右足を隠していること、寒い時期の雑巾洗いを率先してやっていること、気付いていますか。先生が褒めた、その子の掃除、箒で掃いてるだけですよ。冬の雑巾って、冷たいんですよ。でね、トスするときに冬は爪と皮膚の間が割れるでしょ。一応テーピング巻いてるけど、これが染みて痛いのなんの。実は、こないだ捻挫したんです。まだ痛いんです。いてててて。靭帯も損傷してるかも。歩くのも精一杯なんですが、今日の練習メニューは全部こなしましたよ。先生、先生。

吐き気がするほどダサい考えが頭に浮かぶ。雑巾を絞りながら、脳も絞る。汚い毒汁がビチビチ出てそれを排水口に流す。さすが私の毒汁、特に抵抗なく流れる。こういう時に抵抗したら、もしかしたら先生から何か言ってもらえるのかな。いやいやいや、あほか。私は目的を履き違えている。チームの勝利を目指すのだ。私の努力や我慢を褒めてほしいから部活をしているのではない。情けない。わかってほしいという気持ち、本当に情けない。こんな気持ち消えてくれ。でも、あの子は箒で掃いてるだけで、遅刻をしないだけで、ちょっと大きい声を出すだけで褒められる。そんなこと私は1億年前からやっている。ずるい。いや、ずるいなんて思っちゃだめ。何を自分を悲劇のヒロインみたいに。何よりその子にそんなことを思いたくないのに。気持ち悪い、自分。

私はどんどん、なりたい自分と距離が空いていく。私は今、まじめにやることが結果に繋がるとは限らない世界にいる。私のごわつきは大きくなる一方だ。手のかかってる人の方が評価されて、おもしろおかしくなる。まじめにやれないこと、失敗したこと、どんどん笑いのタネになる。すごい世界だ。本当にすばらしい世界だ。

本当にすばらしい世界だと思っているか?

お前は、頑張ってる奴がダブルピースしているところを見たいんじゃないのか?

ひたむきに、まじめに頑張る女たち

「雨に打たれたら口紅」というライブがある。親友の作家の「女性芸人だけのネタライブってないよな」いう、と深夜3時の居酒屋でのおぼろげなつぶやきから始まった。そのおぼろげは確実に芯を持っていて、なぜか必ず実現するべきだと感じていた。

女性芸人がネタだけを研ぎ澄ますライブ。メンバーは解散したり、追加したりと変遷はあるものの、続けてもう5年になる。

今日も黙々とみんなが壁に向かってネタ合わせしている。世間話もそこそこに、自分たちのネタを磨いている。同年代の女子がこんなに集まっているのにも関わらず、化粧の話も、最近見たエンタメの話も、腹の立つスタッフの話もしない。黙々とネタを研いでいる。明らかに頑張っている。もう背中を見たらわかる。彼女たちは、ただおもしろいネタをするためだけに頑張っている。

飲み会もあんまりしない。全員で飲みに行ったのは数えられる程度だ。ケンカもしない。涙の相談会もしない。怒りもしないし、怒られもしない。私と違ってみんな文句ひとつ言わず淡々と頑張っている。

女性芸人は難しい。芸人界という圧倒的に男性が多い界隈で、ネタを見てもらうことそのものにハードルがあることもある。自分のやりたいことが「性差」によってはばまれることもある。

でもそんなこと関係なく、自分のやりたい道に突き進む。みんながそれぞれの持ち場で、いろんなものと戦いながら、渋い顔して飲み込みながら、時には吐き出しながら、頑張っているところを感じられるのが私の心の支えだ。

誰も楽屋で最近こんな仕事をしたなんてあんまり言わないから、ライブのエンディングで話を聞く。みんなすごい仕事をたくさんやっている。頑張っているから報われている。多分勝手に、私と同じような経験をした人たちがたまたま集まっているんじゃないかなと、そう思う。

ライバルではない、謎の仲間たち。いろんなことを抱え込んでる背中を見せて、ひとりじゃないって励ましてくれる。大切なことは淡々とやり切ることだと横顔で教えてくれる。心がごわついて揺らいで諦めかけた時、頑張る大切さを教えてくれる。

自分よりいい仕事をしていたら、ちょっと悔しい。でも大きな仕事をしていたらとってもうれしい。コンテストで結果を出していると、ずっとうれしい。そんな仲間たち。

私はみんなに何もできてない。ちゃんと「姉さん」出来てないし、ご飯も奢れてない。ちょっとした異変や、落ち込んでる顔を見て、励ますこともできてない。すぐに拗ねてダサいことばっかり言う。

でも、毎月ネタ合わせする背中越しに、みんなから壮大なパワーをもらっている。だから私も、まじめに頑張ってたらダブルピースできるって伝えられるように、頑張ろうと思う。

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