母国である日本で異物と扱われ…笑顔で受け流す“ハーフ”の人々の葛藤が「胸に刺さる」と話題【漫画】

コミックの映像化や、ドラマのコミカライズなどが多い今、エンタメ好きとしてチェックしておきたいホットなマンガ情報をお届けする「ザテレビジョン マンガ部」。今回は、トーチWebで連載されている作品「半分姉弟」をピックアップ。

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作者の藤見よいこさんが3月28日にXで同作を投稿。そのツイートには3.4万以上のいいねと共に、多くの反響コメントが寄せられた。この記事では、藤見よいこさんにインタビューを行い、創作のきっかけやこだわりについてを語ってもらった。

※この記事には、作中で描写される人種や民族に基づく偏見や差別の表現について言及しています。ご自身のお気持ちと相談してお読みいただけますと幸いです。

アイデンティティに揺れる全ての人へ。希望に溢れる物語

「姉ちゃん、俺、改名したけん。俺、『米山優太』になりました」

フランス人の父と日本人の母を持つ米山和美マンダンダ(以下、マンダ)は、ある日突然、久しぶりに会った弟からの告白を受け愕然とする。

生まれ育ったはずの日本で生きづらさを感じ、耐えきれなくなった弟は、名前の後ろに付けられた父親の苗字であるミドルネームを正式に消してしまったのである。

このことをきっかけにマンダは、これまで蓋をしてきた自分自身の感情に向き合うことになる。

幼少期、「米山の手ぇ、茶色で汚いけん繋ぎたくねぇ！」とクラスメイトに振り払われたこと。初対面の人に会えば、その見た目から「ガイジンさん、日本語上手だねぇ！」と問答無用で異物として扱われること。そのたびに、わざと”お調子者の自分”を装ってヘラヘラと笑ってやり過ごす…マンダには、そんな癖がついていた。

何よりマンダは、一番の友達で仕事仲間でもあるシバタに対しても、完全に心を開いていなかった。「どうせ分かってもらえない」という諦めと、「ひとりになりたくない」という恐怖心から、自分の感情のぶつけ方が分からなくなっていた。

ある日、シバタと訪れたコンビニで見知らぬ老人から差別的な言葉をかけられたマンダは、ひどく動揺する。さらにその状況を知らなかったシバタの安易な共感が、押し込めていたマンダの怒りや悲しみを爆発させることになるが――。

実際に作品を読んだ読者からは、「思った以上にグッときた」「知らずにやっちゃってなかったかどうか、ドキッとさせられました」「ミックスルーツの日本人の若者たちの痛みがありありと描かれていて胸に刺さる」といった声が上がっていた。

「私が漫画で今伝えられることがあるとすれば――」作者が語る創作の背景

――『半分姉弟』を創作したきっかけや理由があればお教えください。

今まで光が当たっていなかった人たちの物語を描く潮流が世界的に訪れていると感じました。

また、個人的にも当時は自分のアイデンティティや立場性について考えることが多かった時期でした。

その中で、私に描けるなら自分ごとでもある「ハーフ」という題材だ、と思ったことがひとつのきっかけです。

――本作を描くうえでこだわった点や、「ここを見てほしい」というポイントがあればお教えください。

重く捉えられるテーマを扱った作品なので、なるべく気を抜けるようなシーンを意識的に入れています。

細かい書き文字のギャグは「読み飛ばされるだろうな」と思いながらもネチネチ書いているので、感想で言及していただくとなんだか照れると共に有り難いなあと思います。

「分かり合えなさ」が一つのテーマでもあるのですが、それはやはり「分かる」というフリによってオチとして成立することだと思うので、日常のコミカルな描写で一旦は共感してほしいという狙いもあります。

食事と会話のシーンなど、なるべくキャラクターに親しみを感じてもらえるようこだわって描いています。

漫画というジャンルで表現するならやっぱり「面白い」と感じてほしいので、社会的なテーマを扱う上でのバランス感にはいつも悩んでいます。

共感できるような部分は共感して、同じ地続きの社会に生きる人たちの物語として楽しんでもらえたらとても嬉しいです。

――本作の中で特に気に入っているシーンやセリフがあれば、理由と共にお教えください。

3話は「ハーフ」の親しい人にうっかり差別的なことを言ってしまった非当事者の人が、そのことにモンモンと悩むお話です。

この回のネームはとても苦労しましたが、読者さんから感想をいただくことが一番多く、挑戦して良かったと思っています。

カメックス(ハンドルネーム)こと亀渕さんは、こういうキャラクターを主人公として描くと嫌われるかも…とすごく悩んだのですが、想像以上に良い反響をいただいて、嬉しい驚きがありました。

気に入っているというか、描きたかった台詞は4話に登場する以下のものです。

「だって私 移民のガキじゃん

そんなん人の100倍図々しくハッピーにならねえとじゃん」

ちょうど移民やそのルーツがある人への風当たりがとても強くなるようなニュースが多い時期でした。

また、その悪意への反論ですら「移民の労働力は社会に欠かせないから」と、あたかも生産性のある「よい移民」だけを峻別するかのような声も根強く、日々怒りと悲しみがぐるぐると駆け巡っていました。

その中で、私が漫画で今伝えられることがあるとすれば、と浮かんだ台詞です。

漫画の中では主語を「私」としていますが、込めたのは「うちら」という思いです。

この時の気持ちは、作品を描く上でずっと忘れないでいようと思っています。

今後ともなるべく可愛げのない移民のガキたちを描いていきたいですね！

――本作では、これまで漫画として描かれることの少なかった「ハーフ」と呼ばれる人々の葛藤や心情にスポットが当てられていますが、作品テーマやキャラクター構築については、どのようなところから着想を得ているのでしょうか。

キャラクター構築については、取材をさせていただいた方々のエピソードを多く参考にさせてもらっています。

直接的な体験談ももちろんですが、その中でふと垣間見える人生哲学のような部分に刺激を受けることも大きいです。

取材の中では、「あなた、さらっと言ってるけど今すごく本質に触れてるよ！！」とたびたび思わされます。

いまだ多くは語られていない感情と物語がたくさんあることに、いつも胸が熱くなってしまいます。

取材協力をいただいている方々にはつらい体験も多く語ってもらっていて、それ自体とても勇気がいることだと思います。いつも心から感謝しています。

作品テーマは色々ありますが、やっぱり最後には希望を描きたいです。

現実で起こっている酷いことを安易に「良い話」にしていいのだろうか、という葛藤ももちろんあります。

苦しみのすべてが解決するようなことを描くと、それは嘘にもなってしまう。

ただ、少し踏み出すことで見られるかもしれない景色を描くのは、やはりフィクションの一つの役割なんじゃないかと思います。

――藤見よいこさんの今後の展望や目標をお教えください。

ひとまずあまり間をあけずに早めに2巻を出したいところです！！

――最後に、作品を楽しみにしている読者へメッセージをお願いします。

『半分姉弟』は単行本を出すまでに随分時間がかかってしまいましたが、想像以上に多くの方に読んでいただいて、日々感謝で胸がいっぱいです。

いまだに悩んだり迷ったりすることばかりですが、その過程も含めて今描けることを精一杯描いていきたいので、今後ともお付き合いいただけたら嬉しいです。