

THE SECONDがくれた説教「あの日、私と同じ顔をしていた兄さんたちが」【連載:しょぼくれおかたづけ 第4夜】

にぼしいわし・伽説(ときどき)いわしによる、日々の「しょぼくれ」をしたためながら、気持ちの「おかたづけ」をするエッセイ「しょぼくれおかたづけ」。
あの日の優勝をつかみ取っても、6月の単独はなかなかに渋い。情けない、でも、何が間違っているのかわからない。
そんな中、いわしがひとりぼっちで見た「THE SECOND~漫才トーナメント~2025」。
あの日、あの時お世話になった兄さんたち。不遇とよばれた彼らの漫才が、TVのなかで爆発し、うねりを生んで、世に放たれる。
兄さんたちはきっと、私と同じなんかじゃない、同じだと思うな、でも……いわしが少しの前向きと希望をもらえた、そんな一夜のエピソード。
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第4夜「顔、重ねてもうた」
深夜3時、小さな部屋で、「あぁ!」と大きな声が響いた。一瞬何が起きたかわからなかったが、自分の声だった。布団から起き上がって、壁に背中を預けて座った。目だけはまだ眠たいのか開かなかった。世界を見たくなかったからかもしれない。
先ほどまで単独ライブで舞台に立っていて、目の前の客席はスカスカだった。スタッフさんたちの、気遣った顔だけが近くにあって、打ち上げでは誰ひとり単独の話をしなかった。罪悪感とやるせなさで、叫んでしまったところで目が覚めた。
私は日々頭を抱えていた。単独ライブが売れていないことはまぎれもない事実だった。「このままだとスカスカだ」と嘆いていたら、ついに、夢にまで出てきやがった。
優勝してから思い描いてた生活と、今の生活は大層違うものだった。
優勝したらすべてが報われて、今までの努力や苦悩は優勝のためにあって、その後の生活ではウィニングランを堂々と走れるものだと思っていた。見たことない景色をしっかり見渡せる余裕もなく、「いつのまにかうまくいきました」と、少し痩せて綺麗になってプロにめかし込んでもらった私は、何もかも得たような顔で話すものだと思っていた。今まで相手にされなかった人たちに相手にされ、想像以上のことがオートマチックに起こるものだと思っていた。
まあ、本当のことを言うと、私のような本物でない人間はそんなにうまくいくなんて思っていなかった。でも、それにしても今の状況よりはもうちょっとうまくいくと思っていた。
優勝後に始めてやる単独ライブ、優勝前にやっている単独ライブよりお客さんが入っていない。
情けない、のひと言に尽きる。どこから間違っていたのかわからないが間違っているのは事実っぽい。
この結果を真摯に受け止めないといけない。「THE W、8代目から売れていないな」と思われるんだろうな。SNSでそんな悪口をさらさら書かれるのは嫌だな。でもそんなことすらも書いてもらえなかった。
人気がないことをさらけ出してみるのはどうかと思った。才能がないこと、人気がないことを逆手に取って、もうボロボロになる覚悟で生きていくのはどうかと思った。私たちが売れないことで大会にも迷惑をかけてしまうこと、周りのスタッフさんにも芸人にも矛先が向くことが怖すぎるから。ファンの方の期待を現在進行形で裏切り続けていることが怖すぎるから。
だから、売れるならなんでもやりたい。どうにかこの現状を打破したい。
でも、私はそのスキルを持ち合わせていないようだった。やってみたって痛々しさが残る。
もしかしたら、多分私の中の何かがそれを許してないからできないのかもしれない。全くめんどくさい人間だ。失敗したら言い訳ばっかりで、行動に移せない。自分の大切な枠の中かからははみ出ることができない、勇気がないだけの愚か者だ。
潮時なのかな、そう思った。
「ザセカ」の兄さんたちの、あの日の顔
「THE SECOND一緒に見ましょうよ!」
芸人仲間から誘われたけど、そんな気分になれなかった。この大会を見れば、私は私を諦められると思う。でもそんな姿を他の芸人に見せることはできなかった。気を遣わせることは極力避けたかった。
芸歴16年目以上の漫才の大会。この芸歴で続けていることは奇跡に近い。ちゃんとお笑いを続けようと思い続けられていることは、さまざまな奇跡が重なり合った偶然なのだ。「好き」だけではどうにもならない領域の、言葉にできない、奇跡の塊だ。
仕事の後、帰り道でピザを注文してひとりで帰った。せめて、楽しく見たい一心だった。お笑いの大会ではピザを取って食べている人たちがたくさんSNSにいる。元来、お笑いは楽しいものだから、私も「正規」の方法でお笑いを見たかった。楽しく見られないのは、私のせいなだけだったから。
ピザとコーラを準備して、お世話になった兄さんたちの姿を見た。
おもしろかった。人生をかけてお笑いをしていく兄さんたちの声に、汗に、唾に、全てに感動した。芯から震える、痺れる感覚を真正面から受け取ろうとしたのか、気がついたら正座をして見ていた。
その反面、この人たちはどれくらいの「潮時」を迎えてきたのだろうと思った。どれだけ、解散しかけて、交差点で数時間も話し合ったのだろう。どれだけのライブで集客に頭を抱えたのだろう。もう、俺らは才能がないと泣いたのだろう。それでもなお、センターマイクの前に立てる理由は何なのだろう。ピザはどんどん冷めて、コーラの結露が水溜まりになり、私のキモい顔がうつる。
私は見たことがある、「お笑いをすることが楽しくって仕方ない」とは思っていない兄さんたちの顔を。
私は見たことがある、「ここで決めないと後がない」と思っている兄さんたちの顔を。
今の私と同じキモい顔をしている兄さんたちを、私は、見たことがある。
それでも、それでもなお、私はこの人たちと違うということを思いたかった。この人たちはもともと才能があって、不遇な結果、ここまで見つからなかった人だ。
私は、とある大会で見つかった。なのに、結果を出せずにいるだけ。根本的に私とは違う。
不遇な兄さんたちと、優遇をつかみ取れなかった私。絶対に重ねるな。私と兄さんたちを、絶対に重ねるな。
だめだ、それでも重ねてしまう。私もこうなれたらと思ってしまう。
思い出した。「自分に自信を持てるまで19年かかった。」と困った顔で話してくれた時のことを。
思い出した。ネタ終わり神妙な面持ちでいつまでも話し合っている兄さんたちを。
思い出した。「優勝してなあ〜」と遠くを見る2人を。
目の前で説教されているくらいには、真っすぐなお笑いたちだった。
「俺らもこんなんやった。なんとかなるかはわからんけど、続けろ。」と言われている気がした。
将来的に何とかなるのかはわからん。本当にわからんけど、不遇な兄さんたちが目の前の人たちを笑かしているのを見ると、今、私を求めてくれている人たちの今をちょっとだけ明るくできる、気はする。そんな気にさせてくれる。
終演後、お客さんが高円寺の駅に向かって歩きながら「おもしろかったね」と話している将来を想像してみる。うれしい。よかった。大丈夫、この未来は絶対来る。来させてみせる。
私は冷めたピザを温め直しに、力を入れて立ち上がった。
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