THE W 8代目女王となった、にぼしいわし「致死量の愛をくれた人たち、ほんまにありがとう!」

にぼしいわし・いわしが「THE W」優勝の瞬間抱いた“劣等感”「『心底かわいくないスター』が優勝した夜」【連載:しょぼくれおかたづけ 第1夜】

2025.04.09 17:00
THE W 8代目女王となった、にぼしいわし「致死量の愛をくれた人たち、ほんまにありがとう!」

にぼしいわし・伽説(ときどき)いわしによる〝書き仕事〟がスタート。初回は「THE W 2024」(日本テレビ系)、激動の夜の、ひとり言。THE W 8代目女王の座を経て、「売れる」の道に一歩足を踏み出したいわし。芸人として煮詰めてきた執念は、今年で13年目。たくさんのくやしさとやるせなさ、どうしようもなさ、たまに絶望、時々地獄が散らかった日々を乗りこなし、それでも「芸事」を続けたいのは、そこに見える一筋の美しさ……ゆえなのか。

いわしが拾い集めた日々の「しょぼくれ」をしたためながら、気持ちの「おかたづけ」をして、明日を迎えるためのエンジンをかけるエッセイ。読後にはきっと、誰にだってある「どうにもならない」日々の悶々、その取り扱い方が見えてくるはず。

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第1夜 「ざまあみろやね」

そんなことより私の頭の変な場所に紙吹雪がついてないか気になっていた。前髪のど真ん中や、ショートケーキのいちごのように脳天にちょこんとのってないか気になった。歌手や俳優や芸人が賞を取ったあと、紙吹雪の下で口をあんぐり開けながら衝撃を受け止めたり、目を潤ませありがとうを絞り出したりする場面をテレビで幾度となく見ていて、もしも、私がこんな場面を経験できたならば、私みたいな人間は絶対に、頭の滑稽な場所に紙吹雪がついて、それに気も付かず、一世一代の写真が大層残念に仕上がるのだろうと思っていた。

私なんて人間はいつも何かを取りこぼす。決めなはれや!のところで決めきれない。そんな奴だ。

でも出来上がった写真はそんな私があたかも、もともと残念さを持ち合わせてない部類の人間かのような素晴らしい出来で、まぎれもなく優勝を勝ち取ったスターになっていた。

ただ、このスターは心底かわいくなかった。優勝を手放しに、鼻息荒く喜べるほど私は決してかわいくなかった。

優勝中から、紙吹雪が変な位置についていないかどうかを気にし始め、世間に叩かれるような喜び方をしていないか、一緒に戦った人たちに不快な思いをさせるような言動をしていないか、そして、これから始まる未知で不明瞭で物騒で、そして千載一遇の戦いを掴めるのかで頭がいっぱいだった。

もちろん優勝を目指してきたし、もちろん嬉しい。もちろん少し泣いた。

でも、優勝を手放しに鼻息荒く喜ぶには、私は自分を裏切りすぎている。

4月で芸歴は13年目となる。私は自分からたくさん裏切られて、ツンとする異臭を漂わせながら腐っていた。

高校生の大会でいい結果が出たからとお笑いの養成所に入った。現実は残酷でバケモンがたくさんいて、絵に描いたように自信を失ってお笑いを一度辞めてしまう。勉強代はしめて40万円となった。ツン。

社会人となり働いていたが、それでもまだ自分に期待してM-1だけは出続けた。もしかしたらM-1が振り向いてくれるかもと思った。振り向いてはくれなかったけど立ち止まってはくれた。

それを真に受けてもう一度お笑いを始めてしまった。仕事を辞めてしまった。自分を信じてしまった。結果、うだつの上がらない毎日が続き下積みがサクサク捗った。社会人時代の貯金が底をついた。ツンツン。

それでもまだ自分を信じた。大阪が好きで、誰もやってないことを成し遂げたかったから、大阪で事務所に入らず売れることを目指した。上京して事務所に入るという売れるための最速のルートを選ばなかった。無謀な挑戦だったけど、私にはそれしかなかった。でもどうにかなる、どうにかすると自分を奮い立たせた。もはや意地だった。でも、私には自分を売り込む神がかったパワーはなく、だからといって環境を変えることもできず、いろんなチャンスを逃しに逃しまくった。私はまた、できなかった。ツンツンツンツン。

このままではいけない、何か変えないといけないと、一つの頑固をとんかちでかち割った。でかい音を鳴らし粉々に割れてしまった「大阪で売れたい。」破片を直視することはできなかった。

「大阪で売れるから応援してね」の言葉を信じてくれていたファンを裏切り、東海道を上った。なのに、賞レースの成績は大阪時代よりも落ちた。ツン∞。

頑固なだけで結果を出せない自分に辟易していった。

わざわざ大阪に呼びつけてライブに出てくれた先輩・同期・後輩たちに何も恩返しが出来ていない。東京で仲良くしてくれている人に借りっぱなし。大阪のファンの希望を奪った。東京のファンの期待も裏切った。

でも私だって、ファンをワクワクさせたかった。スタッフを食わせたかった。家族を安心させたかった。周りの芸人を元気づけたかった。自分ってすごいなと思いたかった。私の人生の中で、一番裏切ってきた敵は、私だ。本当に嫌い。大っ嫌い。どっかいってくれ。

金吹雪が床にかっちょよく散乱している。たくさんの大人がカメラを向けている。

「漫才2本での優勝はすごいですよね。」と自信満々ぶって答えながら、どうせお前らが優勝したって売れねえよって思われてるんだろうな〜が頭をよぎる。

私もそう思う。私は決めなはれや!のところで決められないから。明日からのスケジュールに、テレビで見るスターとの共演に、心が踊っていない自分は、偽物の芸人だ。

少しだけ自分がかわいいと思えた日

「さあ! どう売れる?」

時間に見合わない元気はつらつとした声が丑三つ時の居酒屋に張り巡らされる。興奮して陸で溺れながら「いや〜ほんまうれしいっすわ〜」と話してくれる。料理がずいずいとテーブルに並ぶ。ジョッキがビルのように聳え立つ。小皿が小気味良く配られる。おしぼりがあったかくて毛細血管が弛緩していく。

「今日こいつら優勝したんですよ!」と知らない居酒屋の知らない大将に意気揚々と勝手に報告されている。私たちのことなんて知らないんだから、そんなの困るだけじゃないかと思ったが、大将は「今日見てました! 面白かったです!」と満面の笑みを浮かべてくれた。

「明日は何出んの!?」「こいつ泣いてましたよ。」「僕は逆に泣かなかったです。」

スマホには致死量の愛が届いていた。私の尊敬する人たちが、大切な仲間たちが我を忘れてこんなに喜んでいる。もしかして、私、今日、決めれた? 決めきれた? 臭くない? 臭いのは臭いか。なるほど、でも今は一旦、自分がかわいくないことは置いておいて、今日だけは、鼻息荒く日本一の女芸人になったと思ってしまおうではないか。

「ほんま、ざまあみろですね〜。」

帰り道、疲れた足音と共に、右から歓喜の憎まれ口が聞こえた。それはポーンと浮いていき、汐留の透けた空に映った。

そうやね。ざまあみろやね。色んなことにざまあみろやね。でも、どうせ私みたいな人間は優勝できない、大切なところで取りこぼす、決めきれない、偽物の芸人だと思っていた自分自身に一番ざまあみろやね。

そして、めげずに頑張ってくれてありがとう。

これからも何があっても頑張っていこうな。

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