映画『爽子の衝動』監督・戸田彬弘、園田爽子役・古澤メイ、出演の木寺響、「ポーラスター東京アカデミー」総合監修・野島伸司(C)Deview

映画『市子』の戸田彬弘監督オリジナル最新作『爽子の衝動』公開 絶望的な環境のヤングケアラーに焦点をあてた作品を若き俳優たちと作り上げる

2024.12.18 19:00
提供:Deview

 杉咲花主演の映画『市子』が日本アカデミー賞優秀主演女優賞や釜山国際映画祭コンペティション部門に選出されるなど高く評価され、映画監督、脚本家、演出家として日本映画界を牽引する戸田彬弘が、「本物俳優主義」を掲げる俳優養成スクール「ポーラスター東京アカデミー(以下:ポーラスター)」とのタッグを組み、新人俳優をメインキャストに抜擢して、制作する映画プロジェクト『B.A.P(Boost Actor Project)』第一弾作品として新作映画『爽子の衝動(そよこのしょうどう)』を制作。「ヤングケアラー」「生活保護問題」をテーマに、平和の仮面の下に隠された絶望的な環境での生活を強いられる若者たちに焦点を当てた作品で、積極的に若手俳優を起用し、俳優の芝居と向き合う撮影方法でリアルな表現を浮かび上がらせた。今回、オーディション情報サイト「デビュー」は、監督の戸田彬弘、主人公の園田爽子役を演じたチーズfilm所属の古澤メイ、「ポーラスター東京アカデミー」の学生から抜擢された木寺響に、作品にかける想いを聞いた。

――映画監督のほか、芸能プロダクション「チーズfilm」代表取締役、劇団チーズ theater主宰を務める戸田さんが、俳優養成を行うポーラスターとタッグを組んで映画を制作するという企画に大きな期待を感じました。

【戸田】「チーズfilmの所属俳優の営業委託をしている方とポーラスターの代表とのつながりで、2024年の春から映画制作の話がスタートしました。自社の所属メンバーのプロモーションやチャンスになる企画をやりたいと思っていたときに、ポーラスターさんが自社で映画制作をするという企画を進めていたので、双方一致して動き出しました」

――映画『市子』のプロデューサーである深澤知氏とも組み、2025年の公開と映画祭出品を見据えた本格的な作品の制作となりました。

【戸田】「最初は短編の予定が45分の中編ぐらいになっているんですが、どうせやるならちゃんと出口として劇場公開される作品で、一本の作品として成立するクオリティを目指さないと意味ないかなと思ったので。スタッフや脇を固める俳優さんにも、一流の方々に呼びかけていきました」

――メインキャストにはこれからの若手俳優を抜擢しています。キャスティングにあたってオーディションを行われたんですか?

【戸田】「ポーラスターからは選抜メンバーを出していただいた10人の中から、僕が実際にオーディションをして4人を選ばせてもらいました。チーズfilmの所属者に関しては既にみんな知っているので、僕のほうでピックアップしました」

――キャスティングにおいて重視したポイントは?

【戸田】「こういう企画なので、お芝居を見た中で将来性を感じる人たちを選びたいと思いました。この作品にチャレンジしてもらって、俳優さんのことも知ってもらいたいと。その中で木寺さんが一番キャリアがあったかと思います」

――木寺さんはこの作品のオーディションの話を聞いてどう思いましたか?

【木寺】「モデルを始めてからは長いんですが、俳優の仕事を求めてポーラスターに入ったのは今年の春なんです。なのでこんなに短い期間でまさか戸田監督に見ていただけるなんて思いませんでした。オーディションはいつもレッスンしている場所で行われたんですが、普段と違う緊張感がありました。ダイレクトに作品につながるオーディションなので、みんな緊張して口数が少なくなっていました…」

――実際に撮影に参加していかがでしたか?

【戸田】「干物工場で働いている子の設定だったんですが、干物を作る工程を当日現場で職業体験のような感覚で教えていただきながら撮影しました。演じた役柄の子が働いている環境に実際に身を置いたことで、一から役を取り込んでいくことができたと思います」

――古澤さんはチーズfilmの所属ですが、これまで戸田監督の作品への出演はありましたか?

【古澤】「初めてです。去年の11月ぐらいに戸田さんと二人でお話をする機会があって。その時に今自分が思っていること聞いていただきました。その時すごく焦っていたんです。自分が何をしたくて、何歳までにどうなっていたいかというビジョンはあるんですけど、今はそれに追いついてないというお話をしたときに。“プロモーションになるような映像作品を作れたらいいね”と言ってくださって。あの時話したことで、まさかこんな素敵な形で表に出せるところまで動いてくださったことが本当に嬉しかったですし、1年前の自分から考えたらびっくりするぐらいの状況なので、嬉しいです」

――今回監督が、今の日本で絶望的な環境に置かれた若者に焦点を当てた作品を企画したのは何故ですか?

【戸田】「生活保護の問題やヤングケアラーの問題は、自分の中でずっと引っかかっていて、それをテーマに一本ちゃんとオリジナル作品を作ろうという気持ちがありました。その取っ掛かりとしてショートフィルムを作れば、将来的に作品を企画するときにパイロットフィルムの役割が果たせるなと。一方で、俳優のチャンスとなる映画を撮る企画だったので、監督の映像センスで作っていくというより、俳優自身が役を捉えていくような映画にしないと俳優がピックアップされないと思いました。俳優にチャレンジしてほしいという意味で、非常に難しい背景を持った役を真ん中に置こうと思ったんです」

――撮影の方法も特殊だったようですね。

【戸田】「基本は俳優を撮り続けていて、引きの絵はあまりなくて、音楽も一切使わずに、本当に俳優の芝居だけを撮っていくという。それを前提にやらないといけない企画でした」

――今回お二人は、物語の中心となる若者と世代的に近いと思います。今回はどのように役に臨んだんですか?

【木寺】「私は爽子と同じバイト先の子の役で、バイト仲間は基本仲がいいけど、爽子には急に無断欠勤されたりということもあって、ちょっと距離があるという関係性でした。でも休まなきゃいけない事情も知っているから、あまり冷たくもできない感じなど、会話の中でどう表現するか、現場にいる役者同士で距離感を作っていきました」

【古澤】「爽子は父親が四肢麻痺で介護が必要で、自分自身もADHDを持っていて、上手く生きられない子なんです。最初に台本を見た時、すごく暗い部分があったんですが、自分の知らない問題や、こうした現状で生きている人がいるということを改めて気付かされました。その役を演じるからには、爽子という一人の女の子をとにかく見てもらいたい、こういう子がこの街で息をして暮らしているということを知ってもらいたいということだけを願って作品に臨みました。だからこそ、俳優の芝居を追うドキュメンタリーのような撮り方によって、よりそのテーマが伝わるんじゃないかなと思いました」

――これまでの撮影とは演じるうえで感覚の違いはありましたか?

【古澤】「ワンシーンの会話をずっと長回しで撮ったりして、シーンの途中から芝居に入ったりとかカット割りもなかったので、本当にそこで生活しているような感覚で演じられました。湯河原で撮影をしたんですが、その土地で生活している空気を感じながら、特に何も背負うことなく居ることができた気がします」

【木寺】「普通なら一度カットして別方向から撮るようなシーンも、一つのカメラでカメラマンさんが導線を考えて動いて撮影していて、そこにすごく時間をかけていました。今、お話を聞いていて答え合わせが出来た感じがします。そんな意図でドキュメンタリーっぽい撮り方をしてたのか、と」

――平和な日常の陰に隠れてしまいがちな、苦境に置かれた若者のリアルが伝わる作品になりそうですが、この作品を観た方にどんなことを感じてほしいですか?

【戸田】「今になってようやく社会全体が、ヤングケアラーの問題や発達障害などの問題を理解しましょうというムードになってきていて、その方向性はいいと思うんです。でも、自分ができることをできない人がいると、 “何故できないんだ”じゃなくて“何故やらないんだ”と言っちゃう人ってまだたくさんいると思っていて。でも“やらないんじゃなくてできないんですよ”という現実が確かに存在することを知っていかなきゃいけないと思うんです。そういう意味でこの映画はすごく重たいですし、悲劇的な展開を迎えてしまうんですけど、そうなってしまう前に誰かが手を差し伸べなきゃいけない。この映画を観た人がそういうことを考えるきっかけになれば。自分とは違う世界ではなく、今身近にそういう現実がたくさんあるということが伝わればと思っています」

【木寺】「私自身、ヤングケアラーについてあまり知らなかったんですが、20代にはそういう人も多いと思うんです。本当に困っている人がいても、ちょっと距離を置いたり、大変そうだなって思うぐらいで。でもこの映画を観てもらって、自分には関係ない世界だと思わないで、少しでも考えるきっかけになって、手を差し伸べたり、話を聞くことができるきっかけになればいいなと思います」

【古澤】「まず“知ること”が大事で、知った後にどうするかという問題だと思います。私たちの世代は、いろんなことを受け入れようという心持ちの人はたくさんいるんですけど、情報が多すぎて、本来見ないといけないものが隠れてしまっている気がします。私が演じた爽子は19歳で、私は今24歳。高校を卒業してから自分の足で今ある社会に一歩を踏み出して、そこには知らなかった様々な制度があって飲み込まれていく。だからこそ、この作品は“知る”ということの入り口として、大事な作品になっていくんじゃないかと思うんです。全員に観てほしいんですけど、やっぱり同世代に観てほしい作品です」

――この作品に参加して、俳優としての自分に変化はありましたか?

【古澤】「気力と強さをもらいました。一人の人間を演じることで、グッと立っている強さを爽子からもらえた気がしています。そして監督を含め、スタッフの方々が本当に作品に対して貪欲で誠実で、嘘がないものを撮ろうとしていると感じた時に、とにかく負けたくないと思ったので、撮影の時は戸田さんがライバルでした(笑)。戸田さんの近くにいて、見る角度の多さに気付かされたので、今後自分が演じる上ですごく栄養になったと思います」

【木寺】「今回現場を経験して、もっといろいろな作品に出て、もっと自分を磨いていかなければと改めてギアが入りました。撮影自体は1日だったんですけど、本当に濃い1日だったので、気合が入りました」

――戸田監督はポーラスターで講師を務めたこともあるそうですが、ご自身もワークショップなどを開催し俳優養成を行っている目線から、ポーラスターに対してどんな印象をお持ちですか?

【戸田】「レッスン場など環境がしっかりあることへの羨ましさはまず感じますし、スタッフもたくさんいらっしゃって、学校法人でもないのにここまで大きい規模でスクールをやっているところはあまりないんじゃないかと思います。通っている人はその環境を最大限に活かしてほしいですし、野島伸司さんが監修を務められているので、様々なコメントなどを野島さんから直々にもらえる環境があるのならば、すごく大きな財産だろうなと思います」

――今後も新進俳優とのコラボで新しいものが生まれそうですね。

【戸田】「ポーラスター制作の映画は僕の作品で5弾目と聞いているので、今後も毎年俳優にチャンスを与えられるような企画を継続していけたらいいなと話をしています。そこにはやはり出口があって、プロモーションになり得るものでないといけない。作品を作って俳優に役を与えて、作品ができる限り様々な業界の人の目に触れるような、出口を考えながらやっていきたいと思っています」

――今回、俳優お二人について知ってもらうためにも経歴についてお聞きしたいのですが。

【木寺】「私は元々事務所に入っていたんですが、モデルの仕事が中心で、演技の仕事はあまりなかったんです。だからちゃんとお芝居を勉強したいと思って、今年の春からポーラスターで学んでいます。レッスンは週一回なんですが、レッスンで学んだことを復習して、次の週にそれを発揮できるように練習することを続けていて、ずっとお芝居のことを考える頭になったので、自分のなかでは大きく変化しました」

――古澤さんは去年の夏からチーズfilmに所属されたそうですね。

【古澤】「高校を卒業してから養成所に入って、4年ぐらいお芝居をしていたんですが、チーズfilmに自分から応募して、ワークショップに通い始めて、その後所属になりました。その時期、人前でお芝居をして評価されることが怖くなってしまっていたので、環境を変えたかったんです。チーズfilmのワークショップに通ってから、演技に対する向き合い方も変わり、いい意味で楽になりました。戸田さんも一人一人を見てくださるので、お芝居する楽しさをまた思い出しました」

――最後に、映画『爽子の衝動』に興味を持たれた方に向けてのメッセージをお願いします。

【戸田】「今、様々な情報は入ってくるんですけど、逆に深いところまでは入ってこないと思うんです。ドラマや映画も膨大にあふれていて、1.5倍の速度で観るのが主流だとか、TikTokのように2、3分のショート動画がいいとか。一つの作品に向き合う作業が時代とともに変わってきている。今回の作品はしんどい話ですけど、複雑な物語ではなくズバンとまっすぐに捉えた作品なので、しっかりと女の子の境遇、人生をスクリーンを通して向き合ってもらいたい。自分の周りにいる、何かあるんだろうけど深入りしていない人たちに対して、想像力を使うきっかけになったり、コミュニケーションを取るきっかけになったらいいなと思っています。だからやっぱり主人公たちと同世代の若い人に観てほしいと思っています」

■『爽子の衝動』(2025年公開)

“MOOSIC LAB 2025”MOOSIC EYE特別招待部門にてプレミア上映
12月23日(ともに21時)新宿K’s cinema

生活保護の受給を断念させる「水際作戦」や若者が介護を余儀なくされる「ヤングケアラー」をテーマに、絶望的な環境での生活を強いられる女性の姿を描いた物語。四肢麻痺の父と2人暮らしの爽子は、生活保護の申請をしているが、なかなか審査が通らない。福祉サービスも充分でない中、新人訪問介護士・桐谷さとがやってきたことで、事態は一変する。

監督・脚本・編集:戸田彬弘
出演:古澤メイ
間瀬英正/小川黎
菊池豪/遠藤隆太/木寺響/木村恒介/中川朱巳
黒沢あすか/梅田誠弘

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