「三上博史 歌劇 ― 私さえも、私自身がつくり出した一片の物語の主人公にすぎない ―」

“寺山修司が生んだ俳優” 三上博史インタビュー「『草迷宮』がなかったら、僕はこの世界にはいなかった」<寺山修司没後40年記念特集>

2024.06.21 18:00
「三上博史 歌劇 ― 私さえも、私自身がつくり出した一片の物語の主人公にすぎない ―」

寺山修司没後40年を記念して上演された「三上博史 歌劇 ― 私さえも、私自身がつくり出した一片の物語の主人公にすぎない ―」が衛星劇場で放送される。歌や詩の朗読のほか、伝説的舞台「レミング-壁抜け男」の影山影子役を演じるなど、演劇実験室◎万有引力とのアンサンブルで織りなす耽美で、濃厚な1時間半。この作品と合わせて三上主演の映画「草迷宮」、舞台「青ひげ公の城」を含んだ寺山作品が5つ登場する。三上博史にインタビューした。

「三上博史 歌劇」を振り返って、「三上博史を全部出しきった」

――「三上博史 歌劇 ― 私さえも、私自身がつくり出した一片の物語の主人公にすぎない ―」が衛星劇場で放送されることになりました。

三上:なんか思わぬ展開になってきました(笑)。「三上博史 歌劇」はある意味、後先考えずに中身を構成してしまいました。僕も加わって検討したわけですが、舞台に立つ自分の首を絞めることになっちゃった。1カ月の公演だったらそれなりにペース配分も考えるんですけど、今回は6日間と短かったので出し惜しみせず全力疾走、楽日は最後に残ったものを出せるだけ出すといった感じでした。

――客席から拝見していて、寺山さんの表現は、現代演劇の中ではなかなか見られないものだと感じました。

三上:もちろん寺山さんも構想し、制作していく段階ではロジックに考えていらっしゃったでしょうけど、表現にする段階では役者の肉体に委ねる部分が大きいんです。一方で意外と理知的に演じなくても、品良くまとまるのが寺山作品。ただ熱いだけのものだけにはならない保険がかかっている。だから安心して発散しちゃいましたけどね。本当はもう少し理知的にやった方がいいのかもしれないけど、僕の肉体を通すとああなっちゃう(笑)。終わってからしんどくて、1カ月くらいは廃人のようでした。

――いや、わかります。そのぐらい全力投球しているのは伝わってきました。そして「三上博史 歌劇」というタイトルこそが作品をいちばん言いえているようでした。今振り返ると何をやり遂げた、みたいな思いはありますか。

三上:「寺山修司没後40年」というお題目がありましたよね。修司忌と言って青森県三沢市で毎年やっている、寺山さんが中心にいる会があります。「三上博史 歌劇」はそれを伝えたいということで始まったけれど、構成する段階から、じゃあ自分に何ができるかを突き詰めていったんです。そうすると、もちろん寺山さんのテキストの幅がすごく広いこともあるけれど、僕が表現者として出せるもの、出したいものもやっぱり広い。歌や肉体表現、そしてセリフと全部引っ張り出されてしまった。普通はそんなことしないものだろうけど、全部を出さざるを得なかった。しかも生活面もそうでした。今は地方の山に住んでいるので都内で住まう場所を探さなきゃいけない、犬と一緒に暮らせる場所を探すことから始まったんです。ウイークリーマンションにキッチンは付いてるけど、調味料もないから、食べるところを探しました。体調悪くなるし、綱渡りみたいな状況だったけれど、三上博史を全部出しきったとは思います。楽日に打ち上げをやって、次の日に山に帰ったら、体調の悪さもピタリと止まった。もう少し余裕を持ってやれば良かったのか、まだ答えは出ないけれど、とにかく今回のプロジェクトは私生活まで含めて、やっぱりひと月、寺山さんの季節だったのかなと思いますね。

寺山修司との思い出懐古も、「何か違う形でもあのいい匂いに触れたかった」

――この5月の連休はまた三沢でライブを行われたんですよね。

三上:はい。東京で集大成をやった後だったので、空っぽになって(苦笑)。いつもピアノで参加してくれるエミ・エレオノーラさんがルーマニアの演劇祭に参加するために初めて欠席になるということで、「三上博史 歌劇」を一緒にやったギターの近田潔人さんとのんびりやりました。歌劇ではMCも一切ない緊張の中でしたけど、ライブ曲のことなど話しながらのんびりやりました。

――5月のライブを含めて、寺山さんの凄さを改めて感じられたのではないですか。

三上:興味は尽きないという意味では以前からずっと一緒で、結局は僕が惹かれてるというか、あのころの匂いをもう一回味わいたいんだと思うんです。その匂いって今もどこかにあるのかな、探したこともないけれど。だから今回は自分でその匂いをつくり出してみたかったのかもしれない。本当は自分が楽しみたかった。でもその匂いはやっぱり時代と相まったものがあるんですよね。自分も年齢を重ね、変わっている。だから今つくろうとしてもできないのはわかっているんだけど、何か違う形でもあのいい匂いに触れたかった。体の匂い、劇場の匂い、塗りたての書割のペンキの匂い。自分が関わらなくてもいいからそれを嗅いでいたい。それはずっと思ってます。そしてそれを皆さんと共有したかった。

――50周年のときには寺山さんに触れましょうか?

三上:周期は制作側の問題です。でも50年とか40年とか冠が付くと制作費が集まりやすいもんね。やっぱり演劇ってお金かかるから。そして演劇は自分の身体と相談しないといけない。東京のライブハウスで無声映画の弁士をやるんですけど、寺山さんの作品を掘り下げて朗読をしていくのか、まだまだ何か紹介できることはあると思います。

――その「三上博史 歌劇」と、寺山さんと出会いとなった映画「草迷宮」、三上さんが演劇に舵を切った「青ひげ公の城」などが衛星劇場で放送されます。そのことに関して感想をいただけますか。

三上:寺山さんの没後40年という冠があってこそ組まれた企画ですけど、そこに選んでいただいた3本は、寺山さんと僕との関わりと、僕自身の人生が符合しているんですよね。「草迷宮」がなかったら、僕はこの世界にはいなかった。そこでものすごく僕の人生は変わったわけです。それが15歳で、25年経って40歳、寺山さんの没後20年に出演したのが「青ひげ公の城」でした。実は僕は30代で役者を引退しようと思っていたんです。いろんな事情があって、主に映像ですけど、人前で演じることが恐怖でしかなくて、もう無理だと思っていました。そのときにパルコから声がかかって、じゃあこれを最後の作品にしてやめようと思ってやってみたら、ここにも演じる場所があると知って、演劇に出演するようになったわけです。「青ひげ公の城」の後で旅に出て、出会ったのが「ヘドウィグ・アンド・アングリーインチ」。そんなふうに人生の転機にうまくはまっている。今はよくわからないけど、「三上博史 歌劇」ももしかしたら後年には自分について認識する作品になるかもしれないですね。どういう芽が出てくるのか楽しみです。

※「演劇実験室◎万有引力」の「◎」は正しくは白丸の中に黒丸。

取材・文:今井浩一

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