

Breaking Down参戦、千代大龍「相撲界に対する恩返しなんてない、ただ初めて他人のために」
大相撲の元小結・千代大龍(本名:明月院秀政=めいげついん・ひでまさ、35歳)が、1分間最強を決める格闘技大会「Breaking Down 11」(2月18日、東京・プリズムホール)に出場する。現役時代の最高位は小結で、幕内には58場所、約10年にわたり在位。横綱と大関にもそれぞれ10回以上勝利を収めた、まごうことなき強豪だ。試合を目前に控えた本人に、Breaking Down参戦の理由を聞いた。(前後編の後編)
アマチュアで敵なし状態となった彼の元には、当然のように各部屋のスカウトが訪れた。「当時は45個くらい部屋があったんだけど、30以上の部屋からスカウトされたんじゃないかな」とのことなので、期待値の高さが伺える。そんな中で先代の九重親方(元横綱・千代の富士)から「どうしても入ってほしい」とお願いされたことで、名門・九重部屋の門を叩くことになった。
「ところが、千代の富士の親方とはソリが合わなくてね。部屋に入ってからは毎日のようにボロカスに言われていました(苦笑)。もっともそれも当然の話で、自分はまったく稽古をしなかったんですよ。『稽古しろ』って怒られても、『身体のここが痛い』とか適当なことを言って、朝からパチンコしたりしていたし。『真面目にやれば、お前なら大関くらいに上がれるぞ』って親方からは言われたんですけれども」
無頼派の異色力士は、保守的な各界の中で徐々に浮いた存在となっていく。入門当初は「相撲界で実績を残し、やがては年寄株を取得して自分の部屋を持つ」という将来像を描いていた千代大龍だったが、20代も後半に差し掛かると「お前は絶対(相撲)協会に残さないからな」と関係者から非難される機会が増えた。未練なく大相撲の世界から離れたのは、こうした折り合いの悪さも影響したようだ。
「でも、後悔は一切ないです。部屋に入ると、自分で決めた目標が3つあったんですよ。それは『三役に上がる』『結びの一番で相撲を取る』『金星を取る』というもの。この3つを速攻でクリアした時点で、別にもういいかという気分になってしまったのかもしれません」
さて今回のBreaking Down参戦だが、勝機は本当にあるのだろうか? なにしろ相手はパンクラス元ライト級1位の猛者・金田一孝介。千代大龍が唱える“相撲最強論”に対しても、「俺は違うと思う。一番強いのはMMA」と真っ向から反論した。ただ一方でBreaking Downは1分間限定ルールの立ち技ルールであるため、これまで相撲出身者たちが挑戦してきた格闘技戦よりは有利に働くという見方も存在する。
「そのへんの細かいことは何も考えていないです。逃げ回ってガードを固めるなんて真似をするつもりもないし、正面からぶつかって、1分間おもいっきりブン殴るだけ。そもそも今回は試合に勝つことよりも大事なことがありますから……」
ここまで一気に語ると、今度はBreaking Down参戦を決めた“真意”を説明し始めた。「今の自分は焼き肉店のオーナー。SNSのフォロワーを増やそうとも思っていないし、有名になんてなりたくもない。ましてや相撲界に対する恩返しなんて1ミリたりとも考えていません。じゃあ、なんで闘う必要があるのか? それは白血病で苦しんでいる仲間のためです。
相撲の現役時代から熱心に応援してくれている弟分がいて、俺の闘志溢れる姿に勇気をもらっていたらしいんですね。その彼から『もう一度、闘っている姿を見せてくれないか?』と頼まれまして。これはもう男としてやるしかないと立ち上がることにしたんです」
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