崎山つばさ「自分の玉と色を探しに劇場に来てほしい」 新解釈で作り上げる「玉蜻 ~新説・八犬伝」座談会レポート
2月10日(金)、東京・EXシアター六本木にて舞台「玉蜻 ~新説・八犬伝」が開幕する。本作は、西田大輔が作・演出・プロデュースを担う「DisGOONie」の新作公演で、小説「南総里見八犬伝」を新たな解釈で舞台化。
開幕にあたって、西田と出演者3名(崎山つばさ、糸川耀士郎、北村諒)による座談会がおこなわれた。2.5ジゲン!!では、座談会&質疑応答の一部始終をレポートする。
西田大輔(作・演出・プロデュース):今日は「玉蜻 (たまかぎる)~新説・八犬伝」の主要人物である3人に集まってもらいました。まず、座長の崎山くん。一緒にやるのは、舞台「煉獄に笑う」(2017年/崎山つばさ・鈴木拡樹のW主演)以来で久しぶりだけれど、今の率直な気持ちは?
崎山つばさ(犬塚信乃役):初日の稽古で殺陣をしたときに「あ、これこれ!」と感じました。(本作用の)新しい殺陣ではあるのですが、懐かしさを感じて。西田さんが作る世界観には、殺陣だけではなく刀にもセリフがあるように思います。それを役者がどう表現するのか…。この先どんどん殺陣がたくさんついていくのを楽しみにしていますし、演じる犬塚信乃と一緒に歩んでいけたらと思っています。
西田:以前一緒にお芝居をやったとき、つばさはすでに人気があったけれど、そこに甘んじていなかったよね。ハングリーでストイックで。胸の中に持っている志の高さも感じられて、僕はそれが印象的だった。そこからもう何年も経つけれど、今のつばさが俳優として大事にしているものは何なのか聞きたいな。
崎山:初めて西田さんとお会いしたころは、自分の武器やアピールポイントを探しているときでした。でも今は、“続けること”が武器になると思っているんです。続けていくには「これだ」と思うものがあった方がいいとは思うのですが、僕はそうではなくて。与えられた役が「崎山つばさじゃなきゃできない」と感じてもらえることを大切にするようになりました。
西田:自然体になっていっているのかな? 稽古場でも、自然に凛(りん)として立っている印象があるね。
崎山:そうですね、あまり色々と考えなくなりました。とにかく、作品が良くなればいいなと。この前のワールドカップに例えれば、誰かが点を入れてチームとして勝てればいい。その中で「この人の芝居がいいな」と見てくれている人がいれば。お芝居をつなげていって1つの作品としてできあがったものを観てくださった方が「いいものを観たな」と感じてもらえるのが一番いいんだな、と思うようになりました。
西田:(糸川)耀士郎とは、最近よく一緒にお芝居をしているけれど、「DisGOONie」としては初めてだね。感想や意気込みを聞かせてもらえるかな。
糸川耀士郎(犬江親兵衛役):「DisGOONie」は、西田さんが作品を一緒に作りたいと思った精鋭たちしか乗れない船だと思っていたんです。乗るためには選ばれるしかない。だからこそ、選ばれた時は本当に嬉しかったです。西田さんと、このスタッフさんたちで作られる本作、「俺が犬江親兵衛をやりたかった!」と思う方は絶対にいると思いますから、その方たちに恥じないように演じていきたいです。
西田:耀士郎はよく舞台を観に来てくれるんだけど、「どんな役をやりたい?」と聞くと、僕が言葉の最後を口にする前に、前のめりに「こういう役をやりたいんです!」って言ってくれるんだよね。僕は、その“のめり込む力強さ”が耀士郎の武器だと思っているんだけど、耀士郎自身にその自覚はある?
糸川:自分は全然まだまだだ…と思うんです。共演する魅力的な俳優さんたちを見て、台本の読み込み方や稽古への取り組み方が甘いと最近も思ったばかりですし、日に日にその思いが強くなっていっているのを感じます。
西田:(北村)諒とは付き合いが長いし、これまで大役も任せてきたね。「DisGOONie」を始めた時(2015年/『From Chester Copperpot』NEW WORLD/コーディ・インク役)は、真ん中をやってもらったし。それからも一緒に多くのお芝居を作ってきたけれど、「DisGOONie」は久しぶりになるね。
北村諒(犬坂毛野役):またここに帰ってこれたな、と。「DisGOONie」をスタートしたときは、出航することに精いっぱいだったように思います。それがここまで続いてこれたのは、ひとえに、舵を取っている西田さんの人望や人を惹きつける魅力ゆえですよね。
外から見ていて、回を重ねるごとに色々なものを巻き込みながらどんどんコンテンツが大きくなっている、と感じていました。外でそれぞれに旅をしてきた人たちがまたここに集えるのは幸せなことですし、本作の顔合わせのとき「みんな勝負しに来ている」と思いました。
西田:諒は30代に入って、俳優として花が咲いているね。「こういう俳優でありたい」と今感じているものはある?
北村:賢志さん(谷口賢志/犬飼現八役)みたいな俳優になりたい、とずっと思っているんです。生き方や勝負の仕方がかっこいいですし、憧れています。
西田:次に、今回の「玉蜻 (たまかぎる)」でやってみたいことや刻みたいことを3人に聞きたいんだけど、どうかな?
糸川:いろんな人格を演じたいですし、いろんな面を見せたいです。僕の演じる親兵衛がどうなるかはまだ分からないんですけれど、もしそういう芝居ができたら嬉しいなって。
北村:一騎打ちをやりたいんですよね。1対多数の殺陣はあると思うんですけれど、例えば信乃と俺(毛野)とか。そういう真剣勝負なシーンをやってみたいし、あったらいいなと。
崎山:これまで演じられてきている犬塚信乃とは逆を行きたいと思っているんです。観てくださった方が「こんなのは犬塚信乃じゃない」と思っても「この作品の中での犬塚信乃はこれだ!」と言えるくらいのものを見せたい。
今作は新説の八犬伝ですし、こういう解釈もあるんだ…と新しい扉を開くことができたら。八犬伝という物語の深みがさらに出たらいいなと思っています。
西田:本作のテーマは「命より重いものはあるのか?」「命より重いものとは?」で、それを信乃に託して物語が進んでいくんだけれど、同時にタイトルの「玉蜻 (たまかぎる)」についても話したい。「玉かぎる」は万葉集の中にある言葉で、美しく光るさまを表しているんだけれど、美しさの限りを人間の感情とリンクさせたい思いもあるんだよね。
それから“色”。色って、人それぞれに感じ方が違うじゃない。だから「あなたはこの色ですよ」と人に言われたらそうじゃないと感じるかもしれないし、「そこにはおさまらない」と思っている人たちの物語にしたいのね。この作品に呼んでいるのは腕のある俳優ばかりなので、相手のお芝居を受けてどんどん変わっていく新たな感情を見たいですね。
崎山:“色”で言うと、僕は役者として透明でありたいと思っているんです。例えば舞台の公演期間が1カ月くらいであっても、その人が生きた何十年もの時間を表現しなければいけないこともあります。自分がどれだけその役の人物について考えたか、どれだけ時間を割いたかが大事ですよね。
それから、役を1人ですべて作り上げるのは難しいんです。今作で言えば、犬塚信乃について自分で紐解いたりさまざまなことを調べたりはできるのですが、稽古の中でも新しい発見がたくさんあります。実際に昨日も、良子さん(田中良子/玉梓役)が発した言葉で新しい解釈ができた瞬間がありました。
これから稽古が進んで本番が始まってからも、そういう変化は続いていくんだろうなと思っていて。だから、演じる人物の色というものはあるかもしれないけれど、役者としては透明でいなければいけない、と稽古をしていて思いました。
北村:僕も、「君はこの色ね」と言われたら反発してしまうタイプですね(笑)。最近は特に「きたむーに似合うのはこういう役」というものを全部裏切っていきたいと感じています。今回は新説の八犬伝ですし、西田さんが僕に対して持っているイメージがあるかもしれませんけれど、演じるのは自由ですしね(笑)。
僕自身、自分に対して持っている刷り込みのようなものがありますが、それに縛られずに役と付き合っていきたいです。
糸川:西田さんの書くセリフって、そのままのストレートな意味ではなくて「どういう意味なんだろう?」と考えさせられるものが多いじゃないですか。稽古をしていても数行のセリフにすごく悩まされていますし、紐解く作業がとても楽しいです。お客さまにも、物語を観終わって心に残ったセリフを思い返してみたら「そういうことなのかな?」と感じてもらえるお芝居をしたいですね。
西田:座談会の最後に、一言ずつお客さまへ言ってもらおうかな。
糸川:お客さまにもいろいろなことを考えてもらいたいですし、役者から見ても「この役の味は糸川耀士郎にしか出せない」と思ってもらえるような犬江親兵衛を作り上げるために、この先も悩みに悩んで自分なりの答えを出したいです。ぜひ劇場に遊びに来てください。
北村:西田さんが、誰も観たことのない八犬伝を書いてくださると思っています。僕らも、誰も観たことのない八犬士を演じて物語を紡いでいきたいです。原作をご存知の方、八犬士をお好きな方はもちろん、これから知っていこうと思っていらっしゃる方も。
初めての方は、まず今作を観て原作を読んで違いを発見したりといろいろな楽しみ方ができると思います。ぜひ劇場でこの「玉蜻 (たまかぎる)」を体感していただけたら嬉しいです。
崎山:今作のキーワードのひとつにもなっている“玉”と“色”。自分の玉と色を探しに劇場に来てもらえたら、と思います。
西田:今作には、最強布陣とも言える素晴らしい俳優たちが集まってくれています。彼らの見たことのない表情や、新しい何かをどれだけ作れるかと思っています。
観てくださるずべての方の人生の中に「こんな物語があるんだ」と思ってもらえる作品にできるよう、精いっぱい作っていくので、どうぞよろしくお願いします。
***
この後、質疑応答がおこなわれメディアから質問が寄せられた。
――初共演や初めての絡みが含まれるお三方ですが、稽古をしてみての感想をお聞かせください。
糸川:僕は舞台の上に立つと少し生意気なところがあるので(笑)「崎山つばさという俳優はどんなお芝居を見せてくれるのかな?」なんて気持ちでいたのですが、先にジャブで殴られたような気持ちになりました。
稽古場では芝居でバチバチに殴り合いたいと思っているんですけれども、一言目で稽古場の雰囲気をつかむお芝居を見せつけられて。
北村:崎山くんには、他のお芝居を観て「どっしりしているな」という印象を持っていたんです。まだ殺陣の稽古しかしていないので、早く芝居稽古をしたいですね。
崎山:西田さんが選んで集めた人たちなので、芝居に飢えているイメージがあります。見せつけてやろう、負けないぞという青い炎を感じましたし、僕自身も背筋が伸びる思いになりました。
北村:海賊だからね。出し惜しみしていたらみんなに食われちゃう(笑)。
――先ほどの座談会中に、役者の皆さんから本作でやってみたいことの話が出ましたが、西田さんから皆さんへ出したいと思っているオーダーやチャレンジしてほしいと思っていることを教えてください。
西田:まず耀士郎くん。これまで一緒にお芝居をやってきて、彼のいいところも苦手としているところも分かっています。その上で、彼には「他の俳優がやっていない表現をいくつ出せるか」というテーマを渡しています。
諒くんは、華奢ですが実は太陽のような力強さと男気があります。その強さは彼にとっての武器です。その強さを持ったうえで女性の美しさを演じてもらいたいと思っているので、結構な難題ですね。
つばさに対しては、集めたこの猛者たちを彼がどう引っ張っていくのかが見たいと思っているんです。それから、彼がどんな顔でこの旅の最終地にたどり着いて、どんなひとことでこの旅を終えるのか、と。実は、それはつばさで決めようと思っていて。
最後までやりきったときに、僕らが見たことのない景色につばさが連れて行ってくれるような予感がしています。楽しみですね。
***
“新説”八犬伝がより楽しみになる座談会となった。公演は、2月10日(金)~19日(日)に東京・EXシアター六本木で、2月25日(土)・26日(日)に大阪・COOL JAPAN PARK OSAKA WWホールで行われる。
取材・文・撮影:広瀬有希
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