【2.5次元の舞台裏】どこまでも緻密に再現性高く ゼロから積み重ねた“リアル”を表現する、ウィッグデザイナー・西村裕司(前編)
舞台「文豪とアルケミスト」シリーズやミュージカル「ヘタリア」シリーズ、「ツキステ。」シリーズなど、数々の舞台やTV・雑誌でヘアメイクを手掛ける西村裕司さん。
「ウィッグデザイナー」として活躍する彼の生み出す舞台ヘアメイクは、原作に忠実でいてどこまでもリアルだと、多くの原作ファンを唸(うな)らせている。
2.5ジゲン!!では、西村裕司さん、そして彼が代表を務めるearchのヘアメイク・太田夢子さんにインタビューを実施。この前編では、舞台ヘアメイクとの出会いから、2.5次元作品におけるヘアメイクのこだわりなどについて話を聞いた。
――まずは美容師を目指したきっかけを教えてください。
西村:高校生の頃、仲間内で進路の話になったときに、それぞれ美大進学、服飾系、理容師になりたいと、ちょっと芸術肌な友人の多いグループだったんですね。そこでみんなとは被らないものを考えたときに、「じゃあ俺は美容師をやろう」と。そんな単純な発想からでしたね。
――そこから約10年の美容師キャリアを経て、舞台ヘアメイクを担当するに至った経緯はなんだったのでしょうか。
西村:演出家の吉谷晃太朗さんがきっかけですね。独立後に、美容師の社員として入ってくれた杉田智子と、太田夢子に、将来的な事も考えてやりたいことを聞いたんです。そうしたら「ヘアメイクをやりたい」と。そこからいろんな人に「ヘアメイクやらせて!」と言いまくっていたら、色々な方の中で吉谷さんが興味を持ってくれました。
吉谷さんから「舞台なんだけどやったことある? できる?」と聞かれて、経験はなかったのですが「できます!」と答えました。そこからが舞台ヘアメイクの始まりですね。
こんな舞台初心者でも、チャンスを与え続けてくださった吉谷さんの演出する作品は、必ず担当させてもらい続けるつもりでいます。
――思い切って飛び込まれたんですね。それまでの仕事と舞台ヘアメイクとで、違いはありましたか。
西村:まったく違う世界でしたね。舞台ヘアメイクの作業の流れもよくわからないまま、最初はとにかく「髪をかっこよく作ればいいんだ」ということだけを考えてやっていました。幸いにもそれが案外好評で、次の仕事につながっていった感じですね。
――手探りの部分もあったかと思いますが、そのなかでどうやって自分たちのやり方を確立していったのでしょうか。
西村:そこはもういろんな作品のヘアメイクを見て学びましたし、他の舞台メイクさんにも聞いてまわりました。とにかくいろんな人に聞きにいきましたね。僕たちの場合は、師匠もいない状態で始めているし、もともとのツテもゼロだし、とにかく自分たちから動くというやり方でした。
――師匠につく方も多いんですね。
西村:そうですね。話を聞いていると、最初は師匠のところについて、アシスタントとして技術を身につけて、独立してという方が多い世界だと思います。
太田:私たちはそれがなかったので、周りを見て学ぶと同時に、トライアンドエラーを繰り返しながら自分たちの表現したいものに近づけていきました。
西村:毎回作品に向き合う度に、僕たちなりの“挑戦”を入れているんです。そのチャレンジを繰り返すことで、よりいいものに近づけていくという作業をしています。
――2次元のキャラクターをリアルにしていく過程の難しさやおもしろさはどんなところにありますか。
西村:ウィッグのカット中に感じることなのですが、切っている途中に、ウィッグが“モノ”から“髪の毛”に変わる瞬間があるんです。この「あ、髪になった」という感覚を感じる瞬間は、キャラが自分の中でリアルになる瞬間でもあって、すごく楽しいですね。
――2.5次元作品において、ヘアメイクをする上でキャストとキャラクターのバランスはどう捉えていらっしゃいますか。
西村:実際に目で見てみないと似合っているかどうか分からない部分があるので、ウィッグを作っておしまいではなく、キャストにかぶせてから似合わせていくというのを大切にしていますね。身体とのバランスや衣装とのシルエットのバランスもありますし。
太田:メイクも同様に、その役者の持つ魅力や素材感をすべてつぶしてしまうと、「その方である意味」がなくなってしまうと考えているので、キャラクターに寄せつつも、その人らしさを残すように意識していますね。
――とくに2.5次元作品においては、キャラクタービジュアルへの注目度が高いですよね。そこをヘアメイクとして担うというのはいかがですか。
西村:“最前線で戦っている戦士の気分”というくらい、そこは本当にプレッシャーを感じています。ビジュアル撮影時も、本来はいい雰囲気でやれたら理想なのですが、気が狂うんじゃないかっていうくらい集中して周りが見えなくなっちゃうことも多々ありますね。やっぱり、それくらい重要なものだと思うんです、ビジュアルって。
少し乱暴な言い方をしてしまうと、ビジュアルがイケていなくても僕らは別に損はしないんです。でも、キャストや作品、原作、お客さまももちろん関わるすべての人が損をしてしまうじゃないですか。それだけ最初に目に飛び込んでくるビジュアルって重要で、作品に興味を持ってもらえるかどうかのポイントを担っているとも思うので、大きな覚悟を持って毎作品挑んでいます。
ただ、それは原作なしの舞台や雑誌の仕事にしても「見て喜んでもらう」ための“魅せる”仕事には変わりないので、2.5次元作品に限らず、どの仕事においても共通しているのかなと思います。
2.5次元作品はそこに「原作の再現性」というものが加わってくるので、すごく特殊だなとは感じています。
――独創性や創作性が求められるヘアメイクというお仕事ですが、そのなかで再現性を求められるというのは、すごく難しそうです。
西村:ここまで再現性を追究する仕事ってあまりないと思うんですよ。例えばモノマネとかパロディものの作品とかは、笑ってもらうために再現性を追い求めますが、僕たちのやっている再現性は真剣に観てもらうためのもの。
だから、ビジュアルに対して笑いの要素は不要だし、むしろスッと世界観に入ってもらわなきゃいけないじゃないですか。なんの違和感も疑問も感じずに観てもらえるように、緻密(ちみつ)に計算して積み重ねて作っていくのが僕たちの仕事なんだと思ってます。
――この先ヘアメイクとしてやってみたいことはありますか。
西村:2.5次元作品がもっと世界に広まってほしいなと。それだけのすごいクオリティのものをみんなで作り上げてきたので、国内だけで終わってしまうのはもったいないという気持ちがあるんです。
例えばコスプレイヤーさんを見ていて思うのが、日本のコスプレイヤーの方々のクオリティってずば抜けて高いんですよ。2.5次元作品とコスプレはもちろん違いますが、再現性を追究するという部分は共通していると思うので、僕たちプロの仕事を世界の人にも見てもらえたらやっぱり嬉しいですよね。実際に「西村さんのウィッグを参考にしています」という声を原作ファンの方にいただくこともありますが、すごくパワーをもらえますし。
2.5次元作品って、すでに“文化”になっていると思うんですが、文化は誰かがつなげていかないと続いていかないので。どうせだったら世界に根付くくらいの文化になったらおもしろいと思うんです。
美容師的にも、人って頭が1つしかないじゃないですか。でもウィッグを被せれば頭を何個にも増やせるんです。そうしたら美容師の仕事も増えるし、みなさんも普段できない髪型にウィッグで挑戦できるし。舞台を通じて、ウィッグ文化自体が広がっていくといいなって思っていますね。
***
「緊張する」と茶目っ気たっぷりにスタッフと談笑していた西村さん。毛先という細部にまでキャラクターのリアルを宿し、キャストの伝えたい感情を大切にしている西村さんならではの、表現へのこだわりがつまったインタビューとなった。
実際のウィッグ制作過程や思い描く理想のウィッグ、舞台ヘアメイクを目指したい人へのアドバイスなどが読めるインタビュー後編もお楽しみに。
取材・文:双海しお/撮影:井上ユリ
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