三浦瑠麗 撮影/松山勇樹

国際政治学者・三浦瑠麗が語る“フェミニストと不倫”の今後「あらゆるものを排除していいのか?」

2022.05.14 16:03
提供:ENTAME next

国際政治学者の三浦瑠麗と、脳科学者の中野信子による共著『不倫と正義』(新潮新書)が話題を呼んでいる。著名人の不倫騒動が日々世間を騒がせる現代日本、「愛なら許されるのか。理が勝つべきなのか」と問いかける本書。異分野の学者2人がなぜ今「不倫」に向き合ったのか?なぜ人は不倫をするのか…?『めざまし8』(フジテレビ系)などでコメンテーターとしても活躍する三浦瑠麗に、改めて話を聞いた。(前後編の後編)

──三浦さんは『不倫と正義』で、権力欲が関わる不倫があるということをおっしゃられていますが、それについてお話いただけますか。

三浦 人間は社会的動物です。子どもが自然にそうするように、社会集団のなかでは常に序列がつくられ、各自が自分の程よい位置を確保することに汲々となりますね。つまり、人間は他者との関係性のなかにおいて生きるのみならず、常に権力関係を持ち込んでしまう動物だということです。それは恋愛や結婚においても例外ではありません。むしろ親子と同様、最も近しい存在だからこそ力関係から無縁ではいられないのです。私は、つれあいとの関係ではほどよく互いに酬いる対等な関係にしておくことが、円満の秘訣だと思っています。

人間は、仕事でも家庭でも尊厳が満たされないと感じているときに、その尊厳を満たす行動に走ることがある。その典型例が不倫です。分かりやすく承認欲求が満たされますからね。全く異なる形ですが、不倫自体にむき出しの権力関係が生じている場合もありますね。社会的地位の高い男性がお金に飽かせて、若い女性の時間を得るというパターン。人間とは常に権力関係から無縁ではいられない。だからこそ、自制心が重要なんだというのは、政治を見ていてもよく分かりますよね。

──最近、「パパ活」が話題になることも多いですが、それが不倫に発展するケースもあるのでしょうか。

三浦 そりゃあるでしょう。不倫の定義にもよりますけれども。パパ活というのはお手軽になった売春。つまり、素人同士がその場限りの契約を結んでいる状態です。社会が貧しくなればなるほど、組織化され本当の売春になっていくこともある。買う側が金持ちとは限りません。貧しいやり取りの中で性が売られていくという実態は存在します。若い女性は性的な価値に若い男性よりも高い値付けがされますから、お金を稼ごうとすればその道が常に目の前に開かれてしまいますね。

──徐々にではありますが女性の社会的地位も変化しつつあります。それによって女性の不倫も増えているような流れはあるのでしょうか。

三浦 実証できるデータはないので、はっきりとしたことは言えません。不倫については特に、人々は正直に答えないので。ただ一つ言えるのは、仮に婚姻が破綻しても、生きていけるぐらいまで女性も地位が向上してきたってことですね。昔は子供を産んで初めて妻としての座が安定したり、そもそも働ける場が限られていたりしました。そうすると自分がこの結婚を壊してしまったら、どこまででも貧困に陥ってしまうかもしれないという不安があった。今は、わりと自由な選択がしやすくなっています。

男女に生物学的な違いがあるかといえば、もちろんあるけども、いままでの行動の違いは社会的環境によるところが大きい。だから女性の地位向上によって、男女の違いは狭まっていく可能性が高いでしょうね。

──『不倫と正義』でフェミニストと不倫の今後の関係について、三浦さんは「女性は性的魅力をしたたかに武器に変えて、奪いたいものは奪うし、ステップアップにも使うし」となるのか、「とにかく性的にふしだらなものは許さん」という方向に行くのか分からないとおっしゃられています。現状、SNSを見る限りは後者の傾向が強いように感じます。

三浦 かつてはフェミニズムの中にも社会的規範から解き放たれて自由に性を謳歌するという考え方が強くありました。結婚に縛られない、誰としてもいいと。一方、当時の左派的な社会運動には女性差別が色濃く残っていました。日本で女性の権利を守ろうとするとき、自由なだけではなかなか生きていけない。結婚をすれば不当な扱いを受ける。そのため、専業主婦の地位を守ることが重要でした。現に、遺産相続や離婚をめぐっては、日本は専業主婦の地位が保全されています。

ただ、これはあくまでも男女が対等でないことを前提にした、過去からの「進歩」ですよね。性的自由も、夫からの自由である場合が少なくなかった。次の次の世代ぐらいになったら、性的自由が高まって男女ともに魅力を武器にというのが肯定されるのかな。でも現状、フェミニズムがどういう方向にいっているかというと、キャンセルカルチャーの方が強くなっていますね。先日も日経新聞(日本経済新聞)の広告がバッシングされましたでしょう?

──今年4月4日、日経新聞朝刊に『月曜日のたわわ』というマンガの全面広告が掲載されたことが炎上した件ですね。

三浦 はい。確かに、上等な広告ではないし、日経っぽくもないけれど、ありとあらゆるものを排除していっていいのだろうかというのはあります。若い女性を性的対象としてみるな、消費するなという一方で、女性が若い男性に性的な喜びを求めたり、露出の高い服を着るのは自由だという主張を両立させるのは微妙なところがあります。まあ、人間の生きづらさは女も男もあるものなので、なかなかみんながハッピーな合意できる解にはたどり着けないでしょうね。

──最後に改めて、『不倫と正義』で中野さんと対談してみて新たに発見したことなどがあったら教えてください。

三浦 私は、人間の感情や理性、社会的動物としての行動に着目して考えてきたんですけど、それを制御する脳内物質の働きなどを中野さんに教えていただき、非常に勉強になりました。あと、そこまで遠慮しすぎることなく対等に、だけどお互いに踏み込みすぎることもなく、率直に話ができる女性同士の対談は稀です。こういう社会的な話題を女性二人で、骨太に論じられるというのは良い時代が来たなと思いました。

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