“弱者目線”がカギ?オードリー若林とパンサー向井が「次世代MC芸人」である理由
オードリーがMCを務めるテレビ東京系バラエティ番組「あちこちオードリー」が、ギャラクシー賞テレビ部門の2021年6月度月間賞を受賞した。
受賞したのは、6月2日・9日・16日の放送回で、ロンドンブーツ1号2号の田村淳がMCについて語った回と、パンサー向井慧らが自身の反省を明かした「反省ノートSP」だった。
「反省ノート」とは、向井が収録での反省や許さない人などを日頃からつづったノートであり、昨年行われた同番組のオンラインライブ「祝!あちこちオードリー開店1周年パーティー~春日の店、今夜は完全予約制ですよ!~」でも、向井の書いたノートの内容が大きな反響を呼び、アーカイブも含めると4万2千人の視聴者数を記録した。
そんな向井であるが、「あちこちオードリー」を含め現在数多くの番組でMCを務めるオードリーの若林正恭と多くの共通点がある。
パンサーは2013年に大ブレイクした際、「出待ち率ナンバーワン」と言われるほどのアイドル的な人気で、先月に向井と対談した兼近大樹(EXIT)も、「噂は後輩には伝説として語られてる。一晩かかっても出待ちが終わらないぐらい」と明かしたほどだ。
そして向井自身もかなりの人気で、「よしもと男前芸人グランプリ」では、2013年度に3位、2014年度に2位、2015年度には1位に輝いている。
だがその一方で、向井はイケメンキャラで売れたことに葛藤があった。兼近との対談でも当時を振り返り、「俺は『きついなあ』って思ってたの。“イケメントリオ”って呼ばれたときに、正解をまったく俺は見いだせなくて。『いやいやいや』も面白くないし、『いや男前なんすよ』もしっくりこないし」と話していた。
オードリー若林「10年前の俺、めちゃくちゃかわいかった」
そしてオードリーも同様に、2008年の「M-1グランプリ」準優勝で一気にブレイクし、爆発的な人気を誇った。
しかし若林も、当時のアイドル的人気について葛藤があったようで、以下のように話している。
「10年前の俺、めちゃくちゃかわいかったからね。かわいいって言われてた。ネタをやってて、春日と揉み合ったり近づくとなると、キャーってなっちゃう。そのときには腹わた煮えくり返って、ラジオで斜に構えて『そういう人いらない』みたいにとんがっても、言えば言うほど『キャー』ってなって“無敵”なのよ」(「あちこちオードリー」2020年5月26日深夜放送)
しかしそんな両者にとって、ラジオの存在は大きな転機となった。テレビや一般的なイメージとは異なる姿を見せることで、新たなファン層の獲得につながったのだ。
向井は、2018年から愛知県のCBCラジオで「#むかいの喋り方」のパーソナリティを務めているが、同ラジオで向井は度々、収録での失敗や私生活や人間関係でうまくいかない様子について語る。
たとえば7月6日放送回では、見取り図の盛山晋太郎に劇場で話した際に、連絡先交換を切り出すべきところ切り出すことができずに、結局その後にTwitterのDMで教えたことを明かした。また、サウナを訪れたがたまたま月1の館内清掃にあたってしまったなどという日常の不運について、「“向井”だなあ」と自虐し、多くのリスナーから共感を集めている。
若林にしても、2009年から「オードリーのオールナイトニッポン」がレギュラー番組でスタートしたことが、芸人生活における大きな転換点となった。
「オールナイトニッポン」開始当時は特に、ある雑誌の撮影時に「虎の被り物」をすることを求められたが被らなかったことなど、「M-1」準優勝後のブレイクによる多くの新たな仕事への戸惑いや悩みについて吐露していた。
「オードリーのオールナイトニッポン」はその後も現在まで続く人気長寿番組になり、その過程で若林も“おじさん”になることなど、変化する悩みに都度向き合い、ラジオで伝えてきた。
そういった若林の姿が垣間見える「オードリーのオールナイトニッポン」に対して、“リトルトゥース”(「オードリーのオールナイトニッポン」の呼称)として知られるCreepy NutsのDJ松永は、「生き様が見える。ドキュメントだなって思います」と表現する。
向井は「若林ロス」に……お互いにシンパシーを感じる両者
また、向井と若林は、お互いにシンパシーを感じているようだ。向井はヘビーなリトルトゥースとしても知られ、若林の結婚発表時には“若林ロス”になったことをラジオで打ち明けていた。
一方の若林は、向井に対して「なんとなく自分と似てる」と評し、相方を際立たせるために個性を消していたという話の流れから「大槻ケンヂさんみたいなメイクでデビューすればよかった。俺と、ティモンディ前田くんとパンサー向井くんは“顔に線入れた方がよい芸人”」ともラジオで述べていた。
できないことや生きづらさ、弱さと向き合う
向井と若林は、仕事や私生活での悩みや弱み、葛藤についてラジオで語り、できないことや生きづらさ、弱さとつねに向き合っている。
さらに向井にいたっては、弱さを番組で見せること(=武器にすること)についても、「“弱さ”を武器にしてきちゃった自分ってどうなの?ってなってくるんですよ。みんな弱い部分を出さずに戦っているなか、“弱さ”というものを武器にして、いつのまにかそれを振りかざしていないかなっていう目線で自分を見ちゃう」(TOKYO FM「TOKYO SPEAKEASY」2021年3月11日放送)と葛藤している。
両者に共通するのは、“強者”としての立場ではなく、“弱者目線”でものごとを考え、発信しているという点だ。特に若林が「芸能人って“勝ち癖”がついてる人ばかり」と過去に述べたように、弱肉強食の芸能界を生き抜いてきた人間としては珍しいといえるだろう。
現在、多様性が求められる世の中であるが、その一方でSNSなどを中心に物事に対して「白黒つけがち」という側面もある。そういった世の中だからこそ、若林や向井は次世代MCとしての需要が高まるのではないか。
事実、若林は「激レアさんを連れてきた」(テレビ朝日系)、「オードリーさん、ぜひ会ってほしい人がいるんです。」(日本テレビ系)のように、変わった経歴や変わった特技を持つ人たちが出演する番組のMCも務めている。
向井も、かつてスタジオレギュラーだった「王様のブランチ」に、4月からスタジオメンバー(隔週レギュラー出演)として“復帰”するなど活動の幅を広げているが、今後さらにMCとして求められる機会が増えることだろう。
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