マイケル・ジャクソンに友達はいたのか 『Michael/マイケル』が描いたスターの孤独
“キング・オブ・ポップ”ことマイケル・ジャクソンの人生を描いた映画『Michael』が公開された。世界中のアーティストに影響を与え続ける稀代のスターの半生を描く作品として注目を集めているが、本作は一般的な伝記映画というよりも、むしろ“音楽映画”として捉えたほうがしっくりくる。
もともとはマイケルの人生を包括的に描く伝記映画として企画されていたとされるが、完成した作品は彼の音楽的才能やパフォーマーとしての軌跡に重点が置かれている。そのため、晩年のイメージを大きく左右した児童性加害疑惑については触れられておらず、物語自体もその騒動が表面化する以前の時代で幕を閉じる。
この点については、一部から「光の部分だけを描いている」との批判も出ている。しかし、本作が描いているのはあくまでもそれ以前の時代であり、後年の出来事を無理に組み込むほうが時系列として不自然だろう。そもそも疑惑に関しては長年にわたり大きな議論を呼んだものの、司法の場では無罪判決が下されている。映画が描こうとしている範囲を考えれば、そこを中心に批判するのは少々的外れにも思える。
むしろ気になったのは、音楽映画としての構成面だ。本作では父親との確執は比較的しっかり描かれている一方で、家族との関係性についてはやや掘り下げ不足に感じられる。特に兄弟たちとの絆や葛藤、虐待を止められなかった母親の苦悩などは、マイケルという人物を理解するうえで欠かせない要素のはずだが、断片的な描写にとどまっている。
物語はジャクソン5からの独立を象徴する「ヴィクトリー・ツアー」までを中心に展開する。その構造を考えれば、家族の物語をより濃密に描いてもよかったのではないだろうか。特に姉のラトーヤや妹のジャネットの存在感が希薄だったことには違和感が残った。
一方で、父ジョセフ役のコールマン・ドミンゴ、母キャサリン役のニア・ロングが作品に厚みを与えていたのは間違いない。また、マイケルを早くから見出し、後押ししたダイアナ・ロスの存在がほとんど描かれなかった点も少々惜しい。撮影はされていたものの、最終的にカットされたという話もあり、そのあたりはファンとして複雑な思いが残る。
映画全体を見て感じるのは、「マイケル・ジャクソンという存在は2時間程度では収まりきらない」ということだ。
『ボヘミアン・ラプソディ』(2018)のように、ヒット曲を織り交ぜながら人生を追う構成も悪くはない。しかし、マイケルほどのスーパースターであれば、もっと大胆にエンターテインメントへ振り切ってもよかったのではないか。上映時間が3時間を超えていたとしても、多くのファンは歓迎しただろう。
それでも、本作には確かな見どころがある。何より素晴らしいのは、マイケルの音楽への執念と創作への向き合い方を短い尺の中で的確に表現している点だ。そして甥のジェニファー・ジャクソンが演じるマイケルは圧巻の一言。ダンスや表情、立ち姿に至るまで驚くほど本人を彷彿とさせ、スクリーン上では“再現”を超えて“憑依”と呼びたくなる瞬間すらあった。
また、少年時代のマイケルを演じたジュリアーノ・クルー・ヴァルディの起用も興味深い。SNSでマイケルのダンス動画を発信していた実力派キッズダンサーだけに、その説得力は抜群だ。
本作で特に印象的だったのは、マイケルの孤独を描く視点である。
世界中に熱狂的なファンがいながら、本当の意味で友人と呼べる存在はほとんどいなかった。だからこそ彼は動物たちやファンタジーの世界に安らぎを求めていった。そんな孤独な内面を、ボディガードであり親友ともいわれたビル・ブレイの視点から描いた手法は興味深く、単なるスター礼賛では終わらない深みを作品にもたらしている。
もし本作が三部作の第1章だと考えれば、その完成度は十分に高い。むしろ気になるのは、この先の続編が本当に実現するのかということだ。個人的には、『Bad』以降の時代や、90年代に見せた精神世界への傾倒、さらにはインド文化への関心なども映像化してほしい。マイケルの人生は、今回描かれた範囲だけでは到底語り尽くせないのだから。
【ストーリー】圧倒的な歌唱力と革新的なダンスパフォーマンスで、アーティストの枠を超え、全世界的なアイコンとなった“キング・オブ・ポップ”=マイケル・ジャクソン。野心家の父のもと厳しいレッスンを経て、兄弟グループ、ジャクソン5で幼少の頃から大成功を収めた彼は、やがて青年となり、ソロアーティストとして歴史的名曲の数々を生み出し、全世界の寵児となっていく。しかし、その栄光の裏には、早熟の天才ゆえの孤独感、強権的な父親の呪縛、家族への愛と自分の中に溢れるビジョンとの間で葛藤する一人の人間の姿があった……。
【作品データ】『Michael/マイケル』監督:アントワーン・フークア(『イコライザー』シリーズ、『トレーニング デイ』)脚本:ジョン・ローガン(『アビエイター』『グラディエーター』)製作:グレアム・キング(『ボヘミアン・ラプソディ』)、ジョン・ブランカ、ジョン・マクレイン出演:ジャファー・ジャクソン、ジュリアーノ・クルー・ヴァルディ、コールマン・ドミンゴ、ニア・ロング、ケンドリック・サンプソン、マイルズ・テラー、ローラ・ハリアー、ケイリン・ダレル・ジョーンズ他配給:キノフィルムズ公式HP=https://www.michael-movie.jp
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