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映画『箱の中の羊』大悟だから成立したリアリティ…故人をAIで再現することは“冒涜”なのか

2026.06.06 17:26
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大切な人の死と折り合いをつけ、前へ進む――。それは誰もが人生のどこかで向き合う試練だろう。近年も『君が最後に遺した歌』や『ほどなく、お別れです』、綾瀬はるか主演の『人はなぜラブレターを書くのか』(いずれも2026年)など、喪失をテーマにした作品が相次いでいる。

しかし本作は少し異なる。大切な人を失った悲しみを、AIヒューマノイドが埋めてくれるとしたら、人はそれに救いを求めるのだろうか――。本作は“死を受け入れる物語”にとどまらず、テクノロジーによって死の概念そのものが変わりつつある現代へ踏み込んでいる。

実際、2024年には中国で故人をAIで再現し対話できるサービスが話題となった。賛否は巻き起こったものの、同様の技術開発は世界各地で進められている。日本でも故人を再現したAIと対話できる「コハコ」のようなサービスが登場しており、かつては結びつきにくかった“弔い”と“デジタル技術”は、少しずつ距離を縮めている。そんな過渡期だからこそ、このテーマを真正面から描いた本作は興味深い。

是枝裕和監督はこれまでも『ベイビー・ブローカー』(2022)や『怪物』(2023)で、白黒では割り切れない領域にこそ人間の本音があることを描いてきた。本作でも同様だ。愛する人の死を受け入れられず、ヒューマノイドに救いを求める行為は“不自然”なのだろうか。あるいは“冒涜”なのだろうか。

だが、その価値判断自体が時代によって変化する。私たちが常識だと思っているモラルや倫理観は決して普遍ではない。死者を弔う方法も時代とともに変わり続けてきた。現在当たり前とされる価値観も、数十年後には大きく変化しているかもしれない。

本作の主人公一家は幼い子どもを亡くしている。突然の死を受け入れられないことは想像に難くない。もし亡くなった子どもと同じ姿を持ち、会話までできるヒューマノイドが現れたらどうだろう。それは機械だと理解していても、感覚的には単なる機械として扱えなくなるはずだ。そこには創造された生命に近い存在感が宿る。

興味深いのは、本作が人間側だけではなくヒューマノイド側の視点も描いていることだ。人間は悲しみを癒やすために彼らを利用する。しかしヒューマノイドがその事実を理解していたとしたらどうなるのか。自分が喪失を埋めるための代替品として存在していると認識したとき、彼らは何を思い、どう行動するのか。気づけば観客は、人間ではなくヒューマノイド側に感情移入している。

このテーマは過去のSF作品とも重なる。たとえば『アイランド』(2005)は臓器提供のために生み出されたクローンたちが自由を求める物語だった。『わたしを離さないで』(2010)もまた、創られた命の尊厳を問いかける作品である。

ただ、本作が扱うのはクローンではなくヒューマノイドだ。だからこそ境界線はさらに曖昧になる。生命とは何か。死とは何か。私たちはどこまでを人間と呼ぶのか。本作はその感覚を静かに揺さぶってくる。

そして、その問いを現実のものとして観客に突きつけるのが千鳥・大悟の存在だろう。演技をしているというより、普段テレビで見る彼自身がそこにいるような自然さがある。そのリアリティによって、この物語を遠い未来のSFではなく、“すぐそこにある現実”として感じさせている。

【ストーリー】息子を亡くして2年、建築家の音々(おとね)と工務店の二代目社長を務める健介の甲本夫婦は、息子・翔(かける)の姿をしたヒューマノイドを迎え入れることになる。彼が到着した日、「おかえり」と駆け寄り喜びを隠さない音々と、戸惑いを隠せない硬い表情の健介。「パパだよね」と問いかけられた健介は、「おじさんでええよ」と答えるのだった。少しずつ動き始める家族の時間。静かに広がっていく波紋。ほどなく予期せぬ事態が起こり、夫婦がそれぞれに抱く息子の死への想いが露わになっていくのだった。夫婦とは?家族とは?彼らは大きな決断に迫られる。そんな中、ヒューマノイド翔は密かにヒューマノイドの仲間たちとつながり始め……。

【作品情報】監督・脚本・編集:是枝裕和 出演:綾瀬はるか、大悟(千鳥)、桒木里夢、清野菜名、寛一郎、柊木陽太、角田晃広、野呂佳代、星野真里、中島歩、余貴美子、田中泯ほか音楽:坂東祐大製作:フジテレビジョン、ギャガ、東宝、AOI Pro.製作プロダクション:AOI Pro.配給:東宝 ギャガ公式サイト:gaga.ne.jp/hakononakanohitsuji5 月 29 日(金)TOHO シネマズ 日比谷ほか全国ロードショー

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