『地獄に堕ちるわよ』戸田恵梨香の怪演に賛否真っ二つ…それでも誰もが最後まで観てしまう“魔力”
最近、取材現場へ行くと必ず話題に上がってくるのが、映画『プラダを着た悪魔2』。業界の「『国宝』か!」と突っ込みたくなるほど、男女問わず皆観ている。そして次に挙がる話題といえばNetflixシリーズ『地獄に堕ちるわよ』。平成に世間を騒がせた占術家・細木数子の生涯をモチーフにしたドラマだ。配信から1カ月以上経過しようとしているがいまだにパワーは衰えず、配信元のランキングトップ10入りを継続している。
◆話題はプラダか、細木数子か
本作に関する話題を聞いていると、面白い特徴がある。男女比や年齢層の偏りはほとんどないものの、視聴を終えた人は「面白かった」「私はあんまり」「(主演の)戸田恵梨香がすごかった」「ああいうのはちょっとなあ」など支持派と批判派で、真っ二つに分かれている。とはいえ、その場でケンカになるわけでもなく、それぞれの意見を話す。興味深いのは批判派も一度は作品を観ている。全9話、各話約40〜60分の配信時間。なかなかの時間を費やすのに、それでも最終話まで見届けているのは作品そのものの、大きな魅力と吸引力だ。
主役の戸田恵梨香が演じているのは細木数子で、彼女の数奇な生涯を一冊の小説にしようとしているのが、伊藤沙莉演じる売れない作家の魚澄美乃里。数子は焼け野原になった日本で、極貧生活を送っていた。食べるものに困れば大人も騙す、盗む、ミミズだって口にする。この生活から脱却するためには金を稼ぐしかないと、10代から水商売に手を出して、そのまま「銀座の女王」と呼ばれる存在にまで上り詰めている。その背後には反社会的な勢力とのつながりもあった。人生の最終的な仕事に選んだのは、占い師。とにかく魔女のような女の人生が『地獄に堕ちるわよ』には詰まっている。
私は全編を観て、単純に面白かった。生前の細木数子も知っていたし、神楽坂にあった個人事務所も見た。2006年、週刊誌による彼女の過去を暴露した連載が火種となって、メディアから姿を消し、その後も信者たちを相手にビジネスを繰り広げていた事実も聞いた。ただ見聞と映像では、体感温度が違った。映像のほうが演出によって、より生々しく伝わってきた。現代風に表すのなら「エグい」なのか。
◆最強のビジネスウーマン、クズ男にハマる
映像での数子は最強のビジネスウーマンだった。占術家に辿り着くまでの人生は紆余曲折だったけれど、世の中に対して先見の明があったのは間違いない。儲かると思えば失敗を恐れずにすぐに手を出す。昨今のビジネス啓発本には定型句のように書かれている「とにかく行動!」の女だった。ただ行動に出るだけではなく、勝負をかけてくるのが特徴だ。
さらに数子は婚姻制度も金にする。結婚をしたのは資産家のおとなしそうな息子。結局、嫁業に辟易してすぐに離婚するのも彼女らしい。占いを仕事にしてから、さらにステップアップを睨んだのか、著名人とも結婚を試みていた。つまり彼女にとって、結婚も仕事だったのだ。
ただ結婚と恋愛は違っていて、心底惚れ込んだ相手とは一度も真っ当に結ばれず、財産を根こそぎ取られたり、浮気されたりの繰り返し。つまり仕事では辣腕ぶりを発揮して、強欲に生きていたのにダメ男が好き。このアンバランスさが良かった。実際に数子のように「めちゃくちゃ仕事はできるのに、つき合う男は治安の悪い男ばかり」と、数々の伝説を残している女性編集者を知っている。もう65歳くらいだけど、会うたびに「この間、ロマンス詐欺に引っかかりそうになって」と、自虐ネタを披露してくれる。数子を見ていてふと、その編集者を思い出した。自分が65歳を過ぎて、二人の女性のように楽しいおばさんでいられる自信は毛頭ない。だから私にとって本作は最高のエンタメだったのだ。
今、もし恋愛、仕事に悩む人たちがいたら、AIに相談するよりも『地獄に堕ちるわよ』でも観て鼓舞された方がいいかもしれない。悩みの度合いや症状によるけれど、本作は悩める人たちに贈る、少し強めの処方箋だ。
(文/コラムニスト・小林久乃)
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