朝ドラ『ばけばけ』が描いた“人生という怪談”、ラストシーンに込められた意味とは
2025年度後期の朝ドラ『ばけばけ』が、半年間の放送に幕を下ろした。トキ(髙石あかり)がフッとロウソクの火を消し、暗闇に浮かび上がる“ばけばけ”の文字と、ヘブン(トミー・バストウ)とトキの笑い声。物語は終わったが、明日からも二人のスバラシな日々が続いていくのだと、想像せずにはいられないラストシーンだった。
第1話にはトキが「耳なし芳一」を話し終えた後、ヘブンがトキのおでこにキスをするシーンが登場している。キスシーンと最終話のラストシーンは、同じ場所・同じ装いで描かれており、時間が地続きであると考えるのが自然だろう。しかし、その場面に至るまでの具体的な時系列は明かされていないままだ。
ヘブンの「ママさん、スバラシ」という言葉から、二人が結婚し子どもを授かっていることは分かる。しかし、トキが幼少期から着物の帯にぶら下げていた、小豆あらいの根付けがない。しかも部屋には、ヘブンの死後に出版された回顧録「思ひ出の記」が並んでいるのである。と、なるとこの場所は、二人が再び出会った“どこか”――天国のような場所なのかもしれない。
トキは第1話で「では、私、トキの話を」と語り始め、最終話では「これが、私トキの話でございます」と締めくくった。つまり私たちはこの半年間、トキの“人生”という名の怪談を見てきたということだろう。続くヘブンの「ママさん、スバラシ」というセリフが、出会う前のトキ、共に過ごしたトキ、そして自分が亡くなってからのトキ……トキの人生すべてを聞き終えたうえでの言葉だと思うと、胸がグッと熱くなる。
『ばけばけ』の制作が発表されたのは、2024年6月。小泉八雲の妻が主人公と聞いて、日本の怪談が、どうイギリスやアメリカで広まっていったのか、なぜ八雲は怪談を書こうと思ったのか――そうした背景が描かれると予想した視聴者も多かっただろう。
だが実際には、『ばけばけ』に登場した怪談シーンは決して多くはなかった。むしろ、ヘブンとトキのどこか慌ただしくも愛おしい日常のほうが、強く印象に残っているくらいではないだろうか。実際、SNSでは「怪談シーンが少ない」という声も見られ、怪談好きの視聴者にとっては、やや物足りなさを感じる部分もあったのかもしれない。
だが『ばけばけ』はそもそも、怪談好きの少女・松野トキの人生の物語である。父の借金によって小学校中退を余儀なくされ、働きに出るも、大好きな傳様(堤真一)を亡くし、職場も倒産。借金取りに追われる日々から逃れるため、銀二郎(寛一郎)と結婚するが、ほどなくして逃げられてしまう。
その後、まともに働いたことのない三之丞(板垣李光人)と、物乞いになってしまったタエ(北川景子)を目の当たりにしたトキは、ラシャメンになる覚悟で、異人の女中になることを決意する。この時点で、トキの人生は“怪談”と呼べるほど、うらめしいものだったに違いない。
トキとヘブンは「気味が悪い」「時代遅れ」と言われがちな怪談に、面白さを見いだしていた。それはすなわち、苦しい人生や社会の状況でさえも「面白い」と捉え、乗り越えていく視点を持てるということでもある。どんなに「うらめしい」と思っている日々にも、その近くにはきっと「スバラシ」が潜んでいる。それに気づけるかどうか、愛せるかどうかが、人生の豊かさを決めるのかもしれない。
うらめしい怪談のような、ありふれた人生。そのすべてを味わいつくした先に、トキとヘブンの「スバラシ」な日々は、これからも続いていくのだろう。
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