いよいよ3月29日に迫ってきた両国国技館決戦。なお、この日よりチャンピオンベルトが新調され、勝者がまっさらなベルトを腰に巻くこととなる

渡辺未詩vs荒井優希 “プロレス×アイドル”は「令和の女子プロレス」のクライマックスだ

2026.03.28 08:03
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元・週刊プロレスの女子プロレス担当記者として活動してきた小島和宏氏は、いまでも東京女子プロレスやマリーゴールドをメインに最前線で取材を続けている。それと同時にアイドルの取材も継続しており、いまではプロレスよりもアイドルの印象のほうが強いぐらいだ。そんな小島氏だけに「プロレスとアイドル」の二つの要素を兼ね備えている選手に対する想いは強い。そのクライマックスともいえるのが3月29日に両国国技館でおこなわれる渡辺未詩vs荒井優希のプリンセス・オブ・プリンセス王座戦。現役のアップアップガールズ(プロレス)のメンバーがチャンピオンとして、元SKE48の選抜メンバーを迎えうつ頂上決戦。プロレスファン以外にも刺さるこの一戦の、さらなる注目ポイントとは?

プロレスは大河ドラマだ。長く見続ければ見続けるほど、深くて濃密な人間関係を味わえる。

ちょっと前までは、女子プロレスはその範疇に入らないジャンルだった。選手生活が短いので、ドラマは大河まで発展しないからだ。それが近年、大きく変わってきた。選手生命が伸びただけでなく、タレントなど表に顔を出す仕事をしてきた女性がセカンドキャリアとしてプロレスを選ぶケースが増えたため、その前歴での活躍やエピソードこみで長いドラマを堪能できるようになった。そういう意味では令和の女子プロレスを観戦するというのは、このご時世でかなり贅沢な嗜みだと思える。

いまから2年前、東京女子プロレスを題材としたドキュメンタリー本『プロレスとアイドル』(太田出版・刊)を書いた。主役となるのは“元アイドル”だった瑞希と伊藤麻希、そして、その時点ではプロレスとアイドルの二刀流で活躍していた渡辺未詩と荒井優希。まさに前歴での物語もこみで、それぞれの大河ドラマをまとめた一冊だった。

もともと週刊プロレスで女子プロレス担当記者をやってきて、のちにアイドルの取材を最前線でおこなうようになった筆者にとって、彼女たちの物語をプロレスファン以外にも届けるために、こういう本を書くのはもう必然だった。そして、現在進行形で東京女子プロレスを追い続けることで、彼女たちの物語を綴りつづけることも、勝手に宿命だと思ってきた。

特に48グループを取材してきた身としては、SKE48の荒井優希がプロレスラーとして活動する姿を追うのは至極、当然のこと。試合を取材するだけでなくSKE48のコンサートや劇場公演にも足を運んで、プロレスラーとアイドル、両面から取材してきた。プロレスのプの字も出てこない、純然たるアイドルとしてのインタビューをしたこともあった。取材対象としては最高に面白い存在だった。 

その一方で渡辺未詩のプロレスラーとしてのポテンシャルにも惹かれていた。これほどのプロレスラーが“知る人ぞ知る”存在で終わっていいはずがない。プロレスを専門に扱う媒体以外で試合レポートやインタビューをどんどん書いて、少しでも一般の方々の目に触れるように注力した。

これは痛し痒しなのだが、アイドルとして知名度がある子がプロレスをやることで世間の注目を集めることができる一方で「二刀流なんて中途半端なことしやがって」と批判するプロレスファンも増える。面倒くさいのは、そういう批判をする人たちは彼女たちに価値がないと思っているから、まず試合を観ようともしない。それでいて批判だけはする。渡辺未詩のシングルマッチを一度でも観たら、とてもじゃないがそんな批判なんてできなくなるのになぁ……と苛立ってきたが、今なら胸を張って言える。3月29日、両国国技館での渡辺未詩と荒井優希の一騎打ちをリアルタイムで観戦してくれ、と。

2年前に本を書いた時点で『プロレスとアイドル』というテーマの究極の到達点は大舞台での渡辺未詩vs荒井優希の頂上対決だ、と確信していた。ちょうど本が世に出るタイミングで荒井優希がインターナショナル・プリンセス王座を獲得し、その2か月後には渡辺未詩が団体最高峰のプリンセス・オブ・プリンセス王座に輝いた。この2本のベルトを賭けての頂上対決を夢想したが、正直、まだ機は熟していなかった。

渡辺未詩は着々と最強ロードを歩んでいたが、はじめてシングルのベルトを巻いた荒井優希はチャンピオンでいつづけることでいっぱいいっぱいのように見えた。インターナショナル王座という特性上、海外の選手との対戦も多く、その日、はじめてリングで顔を合わせる相手と、いきなりメインイベントでタイトルマッチ、という試練のような防衛戦も。その一方で同世代の選手たちとは幾多の名勝負を生み出すなど、1年間に渡る戴冠期間でプロレスラーとして着実に成長を遂げてきた。

もし、この時期に渡辺未詩とのシングルマッチが実現していたとしたら、そんな成長譚の1ページにしかならなかったと思う。1年間、ベルト守り抜いて、転落後にSKE48を卒業してプロレス一本に専念して、そこから1年間、目立った活躍ができずに悪戦苦闘する日々を経て、ようやく機は熟した。いや「熟成」された、と言ったほうがいいのかもしれない。

世の中のイメージとしては、国民的アイドルグループからの転身だから、特別扱いされてエリート街道を歩んできた、となってしまうのかもしれないが、両国国技館のメインイベントに到達するまで、約5年もの月日が経っている。昨年のようになかなか成果が出せないときはチャンス自体が回ってきていない。たしかに華やかなプロレスラー人生であることは否定しないが、十二分に苦労も、苦闘も経験し、それを乗り越えてのタイトル挑戦であることだけは妙な誤解や偏見を外して、認識していただきたい。

チャンピオンの渡辺未詩は昨年1月に王座転落したものの、9月に返り咲き。2度目のチャンピオンロードとあって、前回の反省点を踏まえて、より強固な『女王道』を突き進んできた。しかし、荒井優希が挑戦者に決まると様子が変わる。荒井優希の秘めたる力と想いを引き出そうとしてか、前哨戦では鬼気迫る攻撃を見せまくった。お互いに肉体と心を削りまくるような激しすぎる前哨戦が2カ月も続き「これ、本番のタイトルマッチまでたどりつけるのか?」と不安になるほど。

実際、タッグマッチながら荒井優希のサソリ固めで敗れてしまったとき、渡辺未詩はまだ前哨戦だというのにリングの上で「悔しい、もう二度と負けない!」と大号泣するなど、もう感情がどうかしてしまっている。プロレス一本に専念している荒井優希に対して、渡辺未詩は現在もアイドル活動を並行しておこなっている二刀流ファイター。そういったバックボーンも含めて、今、ふたりが真正面からぶつかりあうことに、もう興味しか沸いてこない。

純然たるプロレスの試合として楽しめるのはもちろんのこと、アイドル時代からの物語や、現在の立ち位置まで考えると、3.29両国国技館での渡辺未詩vs荒井優希は、ある意味『令和の女子プロレス』のひとつのクライマックスともいえる。普段、あまり女子プロレスを観ない方も、かつてアイドルブームに熱狂した方も、この一戦から“なにか”を感じとっていただきたい。

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