『続・続・最後から二番目の恋』(フジテレビ公式サイトより)

今年いちばん泣いて笑ったーー2025年ドラマ界を沸かせた“大人の心に刺さる”名作5選

2025.12.29 17:03
提供:ENTAME next

2025年もステキなドラマが数多く放送された。今年のベスト作品は観る人それぞれの胸にあると思うが、今回は筆者の心に強く残った5作を厳選した。視聴率10%超えの話題作から静かに心に染みた隠れた名作までを紹介する。

◆小泉今日子主演『続・続・最後から二番目の恋』(フジテレビ系)今年の春、シリーズ第3期となる『最後から二番目の恋』(フジテレビ系)が月9枠で放送された。吉野千明(小泉今日子)と長倉和平(中井貴一)の軽妙なやりとりに多くの視聴者が笑顔になり、心を癒された。

千明のセリフに「いつか穏やかで心に余裕があるような素敵な大人になりたいと思ってた。でも歳はとっくに大人になっているはずなのに、思っていたのとは全然違っていて、大人になれば寂しく思ったりすることなんてなくなると思ってたのに、全くそんなことはなかった」というものがある。

多くの人が、かつては大人というものは途轍もなく大きく、強く、何でもこなせる存在だと思っていたはずだ。けれども実際大人になってみると、“こんなはずじゃなかった”と感じる日は少なくないし、寂しさも覚える。

今シーズンでは、新型コロナウイルスの感染拡大や還暦など、さまざまな出来事が描かれたが、千明と和平の関係は変わらなかった。和平は「大事に思っているからこそ、恋愛だとうまくいかなくなることもあるから、一緒にいられなくなるのが嫌」と千晶への思いを語っている。また千明も「(和平とは)息の合った老夫婦みたいになってる」と胸の内を明かしていた。

大人になると、本当に大切な存在が見えてくる一方で、何事にも億劫になる。だからこそ、千明と和平が選んだのは籍を入れずに共に生きることであった。

◆妻夫木聡主演『ザ・ロイヤルファミリー』(TBS系)今秋放送された『ザ・ロイヤルファミリー』(TBS系)は妻夫木聡を中心に、佐藤浩市、黒木瞳、松本若菜、目黒蓮といった主役級の俳優が集結。さらに、NHK大河ドラマや朝ドラで素晴らしい演技を見せた津田健次郎や高杉真宙が出演している。

本作は競走馬を中心に物語が展開するが、家族の絆、父と子、そして「継承」の物語でもある。耕造(佐藤浩市)が叶えられなかった有馬記念優勝を息子・耕一(目黒連)が成し遂げ、ホープとハピネスの子であるファミリーもまた、親ができなかった偉業を成し遂げる。

有馬記念で優勝したのは耕一とファミリーだが、父の偉大さも改めて浮き彫りになった。ファミリーが初めて出場した有馬記念では、“若い力(息子たち)の壁”となるために、ライバル関係にあった馬主の椎名善弘(沢村一樹)と耕造が協力し合い、ホープの種で最強の馬・ビッグホープを誕生させていた。

また、競馬場で耕一が山王家に迎え入れられるシーンも印象的だった。レースが終わった後、耕造の長男・優太郎(小泉孝太郎)は耕一の肩を優しく叩きながら、「正月ゆっくり話そう」と声をかけた。耕一を強く拒んでいた耕造の妻・京子(黒木瞳)も照れくさそうな表情で「お好きなものは何?」と尋ねていた。耕造の死により、身寄りが一時はなくなった耕一だが、父が残してくれた家族が新たにできたのだ。

人生において期待はよく裏切られるし、あと一歩のところで思うような結果が出ないことばかりだ。それでも本作は「キセキは起きるんだ」と静かに教えてくれる。◆今田美桜主演『あんぱん』(NHK総合)『あんぱん』(NHK総合)は「アンパンマン」の生みの親・やなせたかしと妻の暢をモデルにした作品だ。

やなせたかしをモデルにした柳井崇(北村匠海)は幼い頃から内向的でおとなしく、弁当をガキ大将に奪われても怒ることもなかった。戦地でも他の兵士と比べて劣等感を抱く場面が描かれる。それでも崇は「たっすいがー(弱々しい)」存在ではない。むしろ崇のようなタイプこそが、真の意味で一番強いのかもしれないと感じられる。

一方、朝田のぶ(今田美桜)は「ハチキン(男勝り)」と呼ばれ、父・結太郎(加瀬亮)の「女子も大志を抱け」という言葉を胸に秘め、自分の役割を長らく模索し続けていた。戦時中は純粋な性格ゆえに戦争にのめりこみ、戦後は代議士・薪徹子(戸田恵子)を盲信して迷うこともあった。それでも、崇の漫画を誰よりも深く愛し、彼の成功を信じ続ける思いだけは揺るがなかった。のぶが崇を信じていたからこそ、アンパンマンは誕生したのだ。

本作には戦争の恐ろしさも容赦なく描かれていた。崇らが戦地でゆで卵を殻ごとかじるシーンは特に衝撃的だ。また、“ヤムおんちゃん”こと屋村草吉(阿部サダヲ)が原豪(細田佳央太)に伝えた「(戦地では)逃げて逃げて、逃げ回るんだ」という言葉には、当時の常識とは真逆の正義が込められていた。

◆綾瀬はるか主演『ひとりでしにたい』(NHK総合)『ひとりでしにたい』(NHK総合)は30代、40代独身女性が抱える現実をリアルを描いた作品だ。

現代社会にも、山口鳴海(綾瀬はるか)のように真面目に生きているはずなのに、家族から独身であることへの無言の圧を感じ、虚しさを覚えながらも、自分なりの楽しみを見つけて懸命に生きている女性は多い。

鳴海が那須田優弥(佐野勇斗)から聞いた「既婚者も孤独死の可能性はある」「孤独死は生きる意欲を失った人が多い」「金がなくても家族がなくても適切な場所(=地域包括支援センター、地域の福祉事務所など)に『助けて』といえば孤独死は避けられる」といった内容に、“よい情報をもらったぞ!”と共感や安心を覚えた視聴者も多かったはずだ。

また、筆者にも推しがいるが、鳴海が「担当(=推し)に会いに行くのに風呂に入らないなんてありえない」「コンサートに行くためと思えば労働も苦じゃない」と熱弁する姿には、共感のあまり思わず笑ってしまった。

結婚しない生き方も一般化しつつあるが、2020年時点でアラフォー女性の未婚者率は20%にとどまり、“未婚者はかわいそう”という見方がまったくないわけではない。そうした中で、鳴海が自分らしく、楽しく、好きなものに囲まれて生きる姿は、社会にとっても意味があると思う。◆池田エライザ主演『舟を編む〜私、辞書つくります〜』(NHK総合)本作はSNSなどでバズるような作品ではないが、多くの視聴者の心に響いたのは確かだ。

岸辺みどり(池田エライザ)はファッション誌編集部から辞書編集部へ異動になった当初は気を落としていたが、辞書編集を通して言葉に敏感になり、人間関係がうまくいかない原因や、母との間の誤解にも気づくことができた。

たとえば、みどりは「なんて」を何気なく使っていたが、この言葉には軽視の意味が込められている。彼女は無意識のうちに、彼氏を含め身近な人を言葉で傷つけていたのだ。

さらに、母との長年の誤解も解ける。みどりは母に誕生日のサプライズをした際に言われた「あの子、いっつもからかって」という言葉を否定的に捉え、心の傷として残っていた。しかし辞書を通じて、山梨県では「からかう」には「手を尽くす」という意味があることを知り、母の本当の思いに気付いたのだ。

近年、若い世代はメールやLINEなどテキストコミュニケーションを好む一方で、言葉に敏感というわけではなく、辞書も敬遠する傾向もある。例えば、大学の講義で「紙の辞書を毎週持ってきてください」などと言おうものなら、学生から大ブーイングになるだろう。そうした時代だからこそ本作は、言葉が人と人の良好な関係を支え、自分が幸せに生きる上で大切なものであることを改めて教えてくれた。

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