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共生が当たり前の時代に…『東京サラダボウル』ドラマ化の背景、日本で働く外国人の葛藤を描く
バディものの刑事ドラマはこれまで多く放送されてきたが、1月から放送されている『東京サラダボウル-国際捜査事件簿-』(NHK総合)は一味変わった雰囲気を醸し出している。黒丸氏の同名漫画が原作の本作。警視庁の国際捜査係の鴻田麻里(奈緒)と警察通訳人の有木野了(松田龍平)が、外国人が関与する事件を解決していく刑事ドラマとなっている。
ドラマの1エピソードとして“在日外国人”にスポットライトが当たるケースは多い。しかし、本作では在日外国人がメインの内容で、外国人が日本で暮らすことの葛藤や難しさが描かれており、刑事ドラマでありながらもドキュメンタリーとしても楽しめる。在日外国人のリアルに触れることができる一風変わった刑事ドラマがどのように制作されているのか、本作のプロデューサーを務める家富未央氏に話を聞いた。
まず漫画『東京サラダボウル-国際捜査事件簿-』をドラマ化した経緯として「私のパートナーが外国人だったことが背景にあります」と説明を始める。
「不動産契約を結ぶにしても在留資格によってはローンが組めなかったりと、在日外国人が直面するハードルを経験することが珍しくなく、在日外国人に興味を持つようになりました。漫画原作に出会う数年前から週末を利用して、在日南米人が多く住む滋賀県のエリアに足を運んで取材するようになったんです。
その中で日本で暮らすことの困難があまりに多いことを知り、こうした現状を自分ごととして考えてもらうために『エンタメとして体感してもらおう』と思いました。オリジナルストーリーの連ドラの企画を出したのですが、丁寧に扱わなければいけないテーマのため、社内の人間を説得することは容易ではありませんでした。そんな折、漫画『東京サラダボウル-国際捜査事件簿-』の存在を知り、ドラマ化しようと考えました」
とはいえ、ドラマ化していくうえでクリアしなければいけない課題もかなり多かったようだ。
「問題意識は自分の中にあるものの私は外国人ではありません。原作に登場する外国人やセクシュアルマイノリティの人などをドラマで描くうえで、できるだけ傷つけないように、なにより視聴者に誤解を与えないように描くにはどうすれば良いのかはとても悩みました。警察やLGBTQ、在日外国人など、それぞれの分野に精通している監修者の方に自分の考えを伝えてアドバイスもいただいているのですが、必ずしも答えが見つかったり方向が一つに形作られていくわけではありません。また、事実としては正しいものの、『そのシーンが誰かの感情を傷つけてしまわないか』という不安もありました」
ただ、台本考証で参加した、自身もミックスである社会学者の下地・ローレンス・吉孝氏から重要なアドバイスを受ける中で、「自分の軸を持てるようになった」と制作における不安は徐々に解消されていったという。
印象的な台詞がある。5話でベトナム語の通訳人・今井もみじ(武田玲奈)が言う「外国人を働かせてやってるんじゃないです。私達が彼らに働いてもらってるんです」というセリフだ。家富氏も「先生や、監督と一言一句まで議論したうえでやろうか悩みました」と口にしており、特にこだわりがあったシーンようだ。
「本作は放送時間は45分ほどと限られており、ニュース番組でもドキュメンタリー映画でもないため、結局は“在日外国人が抱える現状や葛藤”を十分には伝えられません。だから『何かを感じてもらう』 ということを一番に目指して制作しています。
ただ、在日外国人への取材をする中で、自分の意見を日本語で伝えることが困難な人、立場的に言いたいことが言えない人は珍しくなく、もみじのような通訳人の立場だから感じている外国人への理解に癒しや勇気をもらう人も多くいることを知りました。1回くらいは勇気を出して言いたいことを伝えるのが、ドラマ『東京サラダボウル-国際捜査事件簿-』の使命であると考え、最終的には『やろう』となりました」
葛藤の末に実現したシーンだけあっていろいろな工夫がなされているようだ。
「今井は原作では比較的ベテランの通訳人なのですが、映像化するにあたって『今井というキャラをどう造形する』と考えた時、直感で『まだ通訳人として道半ばのほうが良いのでは?』と浮かびました。鴻田達と一緒に仕事をする中で、在日外国人が置かれている状況に今現在悩んでいるからこそ、このセリフを発することの説得力が生まれると思い、黒丸さんに相談して若干年齢を下げることにしました」
今井がベテラン通訳人の場合、『外国人を働かせてやってるんじゃないです』というセリフはどこか説教くさくなってしまう。武田のような若い人が演じることで”おしかり感”はなく、セリフがスーッと耳に入ってきた。家富氏の見事な采配だったと言えそうだ。
裏話はまだまだあり、「この5話というのは一見単発のエピソードに見えますが自分の中では“へそ”だと捉えています」と続ける。
「5話は技能実習生がメインのエピソードですが、私の同期にまさに技能実習生の問題を何年も取材している人もおり、簡単に扱って良いテーマではないと感じました。なにより、シュプレヒコールにもしたくはない。ただ、技能実習生が置かれている現状を伝えたい気持ちもあります。そこで、1~4話でいろいろな事情があって罪を犯してしまう在日外国人への理解がある程度高まった5話なら、ティエン(Nguyen Truong Khang)の背景を想像したうえで、技能実習生の問題についても考えてもらえるのかなと思い、5話にこのエピソードを持ってきました」
次にメインの2人、鴻田麻里(奈緒)と有木野了(松田龍平)について聞いた。警察にバディものは多い。しかし、鴻田と有木野は熱さがありながらも緩さも持ち合わせているが、その独特の空気感はどのようにして引き出されたのだろうか。家富氏は「いつの間にか気が合っていたように思います」と答えてくれた。
「奈緒さんはフランクな性格の方なので、外国人含めたキャストの皆さんとごはんに行かれていたのですが、それに松田さんも一緒に行ったりして仲を深めていました。もともと2人はお互いに役者として興味を持っていたのかなと」
自然と仲を深めることにより、2人ならではの空気感が生まれたようだ。その“弊害”もあったようで「中盤から距離感が生まれる展開があり、2人の仲が良さを差し引きして“溝”を描く必要があったため、演出家は頭を悩ませていました」と語った。
現場の苦闘で言えば、外国人の出演者が多いこともネックになりそうだ。ただ、「私自身は大河ドラマ『いだてん』など外国人の方が参加する作品のプロデュースにいくつか参加したため、日本中から外国人のキャストをかき集めた経験があり、それほど苦労はなかったです」と答え、「スタッフも『キャストを招へいするためにどうすれば良いのか』『オーディションをどう開くのか』など、最大限の知恵を出して一生懸命集めてくれました」と微笑む。
「本作では『フィリピン人の役はフィリピン人の人が担うべき』みたいに、外国人のアイデンティティを大切にしようと考えていました。制作スタッフから『とある国の役者が見つからないため別の国の人に演じてもらうことも考えられるか』と相談がありましたが、もしも自分が別の国の人として出るならどう思うかを考えて、スタッフは『頑張ります』と返してくれました。」
それでも、外国人キャストの確保は容易ではなく「外国人のエキストラが足りなかったので、出演のための条件を確認する書類などを皆で作って実際に日本に観光に来た方にご登場していただいたケースもありました」とまさにいろいろな人がそこにいる“東京サラダボウル”だからこその秘策を講じたことを話す。
最後に「何か自分が今まで感じたことのないものを感じてもらえると嬉しいです」と締めくくった家富氏。
文化や価値観の違いに向き合い、共に生きるとはどういうことなのか。本作はその問いを静かに投げかける。ドラマを通じて新たな視点を持つキッカケにしていきたい。
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