映画『フォールガイ』で再注目、女性スタントマンの活躍を追った名作ドキュメンタリー
アクション映画にはかかせない存在、スタントマン。CGの進化やコンプライアンスでスタントマンの仕事が減ってきているという今、映画評論家の有村昆がおすすめするのが、女性のスタントウーマンの活躍を追ったドキュメンタリー。ハリウッドを支えた知られざるヒーローの姿とは…。
いまも進化を続けるアクション映画。その裏側で活躍しているのがスタントマンです。
公開中の『フォールガイ』という作品は、この裏方のスタントマンにスポットを当てた物語で、自身もスタントマン出身のデビッド・リーチが監督しています。
主演のコルト・シーバース役は『バービー』のケン役でも鍛えた肉体美を披露していたライアン・ゴズリング。彼の元恋人で映画監督のジョディ役をエミリー・ブラントが演じていて、この訳ありカップルのラブコメ的な要素も入ってますが、内容はアクション満載で、もはやスタントの見本市。ガン・アクションあり、カーチェイスあり、ボートやヘリコプターも大爆破、タイトル通りにすごい高さから落ちるスタントも出てきます。
監督やスタッフがやりたいアクションをすべて詰め込んだような内容で、その散りばめ方も非常に上手い。設定としては、映画業界の内幕モノでもあるので、そのあたりの掘り下げ方も興味深いです。
タランティーノの『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』では、ブラッド・ピットがスタントマン役でしたが、主演スターを引き立たせるためには、スタントマンなんて使い捨てみたいな存在だというのは、本作にも出てくるテーマです。
それに最近のアクション映画はCGでなんでもできてしまうので、 生身のスタントマンの仕事がだんだん減ってきているという現実もあります。コンプライアンス的な意味でも、無茶して体を張るようなことが難しくなってきている。
ジャッキー・チェンの近作『ライド・オン』でも、時代と共に必要とされなくなっていくスタントマンの生き様が描かれてましたね。
影の存在であるスタントマンも、いろいろ大変なんだということが『フォールガイ』を観ると伝わってきますが、そこでスタント業界に興味を持った方におすすめしたい作品が『スタントウーマン ハリウッドの知られざるヒーローたち』というドキュメンタリー映画です。
ハリウッドを支えてきたスタントマンについての映画はたくさんありますが、本作は女性のスタントウーマンにフォーカスしたドキュメンタリーなんですね。『ワイルド・スピード』シリーズなどで、激しいアクションを披露しているミシェル・ロドリゲス姉さんが案内役として登場して、さまざまな作品で実際に活躍しているスタントウーマンたちに話を聞いていくという構成です。
興味深かったのは、偉大な先輩スタントウーマンたちのエピソードですね。
1970年代に放送していたテレビシリーズ『ワンダーウーマン』や『チャーリーズ・エンジェル』などで大活躍していた、いまやおばあちゃんとなったスタントウーマンが、当時の映像を振り返りつつ、貴重な証言をたくさんしてくれるんです。
また、ハリウッド映画のスタントウーマンは、アメリカが戦争をしていたときに需要が多かったというのも目からウロコでした。男たちは、みんな戦争に行ってしまったから、そのぶん活躍できる場が広がったということなんですね。
だけど、男たちが戦争から帰ってきたら、急に仕事がなくなった。その頃のハリウッドは男社会で、男性の仕事が最優先。女性が階段落ちをするようなシーンはスタントウーマンがやっていたのに、 男のスタントマンがカツラをつけてやることが増えていったそうです。
スタントのシーンを考えたり、監督を務める「スタント・コーディネーター」という仕事も、その地位までいけるのはほとんどが男性。最近になってようやく女性のアクションコーディネーターも出てきてますが、まだまだ少数というのが実態のようです。
それと強烈なのは、スタントを失敗したときのエピソードですね。『フォールガイ』や『ライド・オン』でも触れられてますけど、スタント中の事故やアクシデントで亡くなったり、下半身不随になって動けなくなってしまった仲間もたくさんいたそうです。
そのなかで、あるスタントウーマンの方が言っていた「3つのプラン」というのが印象的でした。
スタントをやるときに、私たちには常に3つのプランがある。1つは監督が求める理想的なスタント。 2つめはスタントする側が、こうやりたいと思うスタント。そして3つめが、誰も成功のイメージがつかめていないスタント。
この3つめのプランを無理に実行すると、ケガしたり、失敗してしまうことが多いそうです。
実際にやる人間が明確にビジョンとして描けてないのであれば、勇気を出して「降ります」と言った方がいい。それができずに消えていった人たちがたくさんいると言ってました。
逆に、とんでもないスタントでも「出来る」というイメージが明確だったら、それはチャレンジしたほうがいいのかもしれない。
これはスタントだけでなく、どんな仕事でも通じる話なんじゃないかなと思いますね。
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