ワンマンライブ『adieu First Live 2021 -à plus- 』Zepp DiverCity (TOKYO)より

adieu(上白石萌歌)が初のワンマンライブを開催「みなさんに自分の歌を届けられることが幸せ」

2021.08.26 16:19
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adieu(上白石萌歌)が8月25日(火)、ワンマンライブ『adieu First Live 2021 -à plus- 』をZepp DiverCity (TOKYO)にて開催した。同公演は2019年12月にデビューミニアルバム『adieu 1』リリース記念として行われた、100名限定の完全招待制ショーケース『adieu secret show case [unveiling]』以来のライブであり、有料のワンマンライブとしては初となる。チケットは即完売し、その反響を受け、国内のみならず、アメリカ、台湾、香港、マカオ、シンガポール、タイ、韓国、イギリス、ドイツにも生配信された。

会場は、adieuのこだわりにあふれていた。開演前のBGMのかわりに、モノクロの映画『Voyage to the Planet of Prehistoric Women: Comic』が映し出されている。それも、スクリーンに流すのではなく、ステージの背景にかけられた洒落た紐カーテンを紗幕に見立て、そこに映し出しているのだ。開演前の注意事項を告げる影アナも、どうやらadieu自身の声によるもので、アナウンスが終わると拍手が起きた。

オープニングにも彼女のこだわりが見られた。コラージュ写真や文字を映し出す映像とともに、エミリー・ディキンソンの詩「私から世界へ宛てた手紙(This is my letter to the World)」のadieuの解釈で朗読が流れ、たった一人でステージに登場し「春の羅針」(君島大空作詞作曲)からスタート。スポットライトに照らされ、透明感ある声の魅力ひとつで、一気に会場をadieuの世界に引き込み、徐々にステージ上の光が歌とともにたゆたうように変化していく。すかさず、「花は揺れる」(小袋成彬 & Yaffle作詞作曲)へ。

ステージには『adieu 1』『adieu 2』の多くのアレンジを担うキーボードのYaffleをはじめ、大月文太(G)、竹之内一彌(G)、小林修己(B)、裕木レオン(Dr)、福岡高次(パーカッション)という現在の音楽シーンに存在感を示す布陣が登場し、バンドの音を感じながら歌う姿も印象的だ。「天気」(小袋成彬作詞作曲)では、まどろむような浮遊感で会場の景色をどんどん変えていく。バンドの重層的な音像にも、不思議なくらい負けずにまっすぐに声が届く。

「こんばんはadieuです! 本日は『adieu First Live 2021 -à plus- 』にお越しくださいましてありがとうございます。今こんな大変な毎日が続いて、足を運ぶのもためらいや不安があったと思いますが、それぞれの思いを抱えてここにきてくださったこと、本当にうれしく思っています。ここにいるみんなと心をつなげていけたらいいと思っています。どうかこの時間は日々のいろんなことを忘れて、心をほどいて、いい時間にしていきましょう!」とadieu。

中盤では、アコースティックギターの響きとともに、adieuの歌声が跳ねるフォークロック調の「天使」(カネコアヤノ作詞作曲)、ビートやギターのバンドサウンドで力強くひっぱる「蒼」(いしわたり淳治作詞・澤部渡作曲)、「強がり」(小袋成彬 & Yaffle作詞作曲)、さらに日常に在る愛を綴った「愛って」(古舘佑太郎作詞作曲)と多彩な表情を見せる。

「初めてのワンマンライブです。今日はこんなに多くの方に来ていただいて、本当にうれしく思っています。今日まで不安すぎて、なかなか寝付けなかったし、お客さんが3人くらいの夢を見たりしていました。こうしてたくさんの人が来てくれて、みなさんが私の曲を知ってくれているのを目にすると、それぞれの楽しみ方でのってくれていて、本当に今この時間が幸せだなと噛みしめています。次の曲はアプリュでやるのが一番楽しみだった曲です」と「シンクロナイズ」(塩入冬湖作詞作曲)を披露。

彼女も血がたぎるようなパンチのあるバンドサウンドだと言っていたが、実際、爆音で鳴らされるシューゲイザーの音は重たく分厚い。終盤に向かってより激しさは増していくのだが、adieuの声もまた、透明感はそのままに、どんどん太くなっていくようだった。どんな爆音の中にでも通る声というのがあるのだ。「ありがとー!」と手を広げ、はにかみながら「今、ライブやってるなって思いました」とadieu。会場の景色をガラリと変えた瞬間だった。そして、16歳のころ、adieuとして初めて声を吹き込んだ楽曲「ナラタージュ」への思いを語り始めた。同名映画の主題歌として野田洋次郎が作詞作曲し、adieuとして顔も名前も伏せて歌うことになった彼女は、同曲への出会いとともに衝撃を受けたと当時を思い返した。制服のままレコーディングをしていたというが、プロデューサーのYaffleはその当時から、今に至るまで一緒に音楽を作っている。「adieuのはじまりの曲です」と紹介し、Yaffleによるローズピアノとadieuの声で始まり、バンドの音が重なって行く。はじまりの曲ではあるが、2021年まで丁寧に音楽活動を続けてきた、その道のりと、そこで得た芯の強さを得たようにも感じられた。

本編ラスト「ダリア」(小袋成彬作詞作曲)は、バンドがはけ、adieuとアコースティックギターを持った大月文太のふたりのみという、シンプルな編成で披露した。アコギを爪弾く中、歌がむき出しの状態。歌い上げたり、癖のある節回しなどないストレートな歌唱だが、倍音が響き、繊細さと力強さが同居し、ふわっと、しかしどっしりと身を委ねられるようでもある。

アンコールでは、再びひとりで登場し、スピッツの「楓」のカバーを。そして、最後にロングヒットを記録中であり、彼女自身が大事にしているという曲「よるのあと」(塩入冬湖作詞作曲)をバンドで披露するという。

「今日ここに立って、歌いながらずっと思っていたのは、本当に私は歌が好きで、みなさんに自分の歌をこうして届けられていることが幸せで、噛み締めていました。もともと音楽が心から大好きで、凹んだ心に空気を入れるようなもので、本当にご飯とか栄養と同じものなんです。adieuの音楽を聴いてくださっている方にも、同じように音楽という空気のように欠かせないものとして届けられたらいいなと思いましたし、これからも音楽を届けられたらいいなと思いました。生きていると、うまくいくことばかりじゃないけれど、ジリジリとした残り火のようなものを歌った曲です。祈りを込めて歌います」。

「歌に救われてきた」という彼女は、会場で音楽を共有するオーディエンスを前に、その空間と時間を感じながら、一音一音大事に言葉をのせているようだった。

「本当に幸せでした。まだまだ自信はないけれど、私なりの美しいものを歌にのせて届けていきたいです。また会いましょう。健やかに! 幸せに! アデュ!」と会場の景色を目に焼き付けるように端から端へと大きく手を振り、ステージ袖へと駆けていった。

彼女がステージを降りると、映画のようにエンドロールが流れてきた。バンドメンバーやスタッフなどのクレジットとともに、この日のライブのメイキング映像が流れている。「ダリア」を披露したときに背景に流れていた映像の写真素材は、彼女自身が撮影した花の写真だった。2017年から密かに活動し、2019年11月に本格的に音楽活動をはじめ、4年越しのファーストワンマンライブとなったわけだが、隅々までadieuの愛にあふれていた。

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