朝から売り切れ続出! あの名店から独立した25歳パン職人のベーカリー『下田流』に早くもすごい行列

朝から売り切れ続出! あの名店から独立した25歳パン職人のベーカリー『下田流』に早くもすごい行列

2021.11.05 18:00
都営三田線の「高島平駅」から徒歩7分。広い「市場通り」に面しているとはいえ、店舗の少ない寂しい通り。だが店に近づくと、パンが焼きあがる芳ばしい香りがはっきりとただよってくる。その先にあるのが、2021年9月11日にオープンしたばかりの『下田流』だ。

もとはコンビニエンスストアだったというお店は、大きなガラス窓からパンを成型している工房の様子がうかがえる。

ほとんど飾り気のない、シンプルな店内(写真上)。開店時間の7時半前から続々とパンが焼きあがるが、開店と同時に次々に売れていく。

「仕込みのついでに作った」パンが大人気になり、ポップアップショップから独立へ

シェフの下田鴻(こう)さん(写真上)は弱冠25歳! 料理人を目指して専門学校を模索していた時、ふと子供の頃にパン屋に入った瞬間のワクワク感を思い出し、オープンキャンパスで製パンの専門学校を見学。その時に、「自分の進む道はここだ」と運命的なものを感じたという。専門学校卒業前に、板橋・下赤塚の超人気店『BOULANGERIE KEN(ブランジェリー ケン)』にインターンシップで働かせてもらい、そのまま就職した。

「インターンシップ先に選んだのはたまたま通っていた高校の通学路にあり、自分が知る中で一番おいしいパン屋だと感じていたからです」(下田さん)。だがその選択が、下田さんの運命を変える。『BOULANGERIE KEN』で店長の田崎健一郎さんに教わったのは、「パン作りは、常識にとらわれなくていい」ということ。

「田崎店長のパンの作り方って、作りたいパンのイメージが最初にあって、そこから逆算して作っていくやり方なんです。どんなに自由な発想で作ってもいいんだ、ということが驚きでした」(下田さん)

『BOULANGERIE KEN』は火曜が定休日だったが、下田さんは次の日の仕込みのためにいつも店に出ていた。そんな下田さんに田崎さんが「ついでに、自分の好きなパンを作っていいよ」と言ったため、1~2個作ってみたのが始まり。定休日に作るオリジナルのパンはどんどん増え続け、やがて50種類以上ものラインナップに。熱烈なファンも大勢つき、店内に『下田流』というポップアップショップができるまでになった。

「24時間パンのことを考え、成長するために、店を出した」

働き始めた頃から、夢や目標ではなく「自分はいつか店を持つことになる」と確信していたという下田さん。一般的には、自分が作りたい理想のパンが確立できたところで、その価値を世に問うために店を出すことが多い。だが下田さんはそうではなかった。

「僕は自分の店を開いて、ずっとパンのことを考え続けられるようになってからが、大きく伸びると思っています。いわば、成長するために店を出したのであって、僕のパンはまだ完成していません。『成長する過程を見てほしい』というのが、『下田流』のコンセプトです」(下田さん)。

後ろに見えるのは、ドイツのバーテル社のオーブン。「石窯みたいに、パンの内側から火が入ります。だから、加水を増やしてもいい感じに焼きあがるんです」(下田さん)。

一番人気は、自らの名を冠した最初のパン「下田流生食パン」

最も人気が高いのは、粉に対して135%の水分を入れた超加水のパン「下田流生食パン」(写真上)。生で食べても美味しくなるように、発酵バターや生クリーム、ヨーグルトなど副材料もたくさん使っている。

下田さんは、焼かないで食べる「生食パン」をよく見かけたが、あまりおいしいと思うものに出会えなかった。そこで自分でもいろいろと試してみたが、形にはなるがやわらかすぎて水分が多く重いパンを支えられず、真ん中がへこんで断面がM字型になってしまう。「食パンとはこういうもの」という概念を捨て、さまざまな型を試した結果、外はやわらかく中はモチモチしている理想の新食感を実現できる今の形になった。

トングでつかんだ瞬間のずっしりとした重さに驚いたが、カットした時、断面の気泡の大きさにも驚いた。まるでカヌレのような断面だが、生のまま食べた食感もまた、カヌレのようなもちもち感としっとり感。しかし意外に歯切れもよく、噛むたびにほどよい甘さとミルク感が口の中に広がる。甘すぎないので食べ飽きず、やわらかいので食べやすい。毎日でも食べたいパンだ。

「ホロホロくずれる岩のような食感」をイメージしたパン「岩」

「岩みたいに、ホロホロくずれる感じをパンで表現したかった」という「岩」(写真上)。石臼で挽いたたんぱく質の少ない小麦粉をメインに使用して天然酵母で発酵させ、チョコチップを多めに入れて焼きこんでいる。

カットすると、中から濃厚なガナシュが溶け出す。外側はかためでしっかりした食感だが、口に入れた瞬間にホロホロと崩れる。その対比が面白い。甘みと苦みのバランスも絶妙で、心地よいほろ苦さと甘さ、噛み心地に癒される。

ハード系のパンの作り方を、高加水のベーグルにあてはめてみた

溶岩が噴き出すようにハチミツがあふれる「セレアルレーズンナッツ はちみつクリームチーズベーグル」(写真上)。

『BOULANGERIE KEN』の「セレアルレーズンパン」(雑穀とレーズン入りのパン)が大好きだったので自分でも作りたいと考案したパンだ。「通常は水分を減らして作るハード系のパンを、高加水のベーグルにあてはめたらどうなるだろう」と試してみたところ、歯切れがよくもっちりむっちりした食感になった。

噛めば噛むほどうまみが湧いてくるような生地と、やわらかなレーズン、ほのかな塩味でミルキーなクリームチーズ、とろとろのハチミツが混然一体となり、これもずっと噛んでいたくなるパンだ。

パンチのきいたベーコンエピを求めて、模索

エピ(麦の穂の形をしたフランスパン)が好きだが、普通だと物足りないので、インパクトのあるエピを作りたいと思って考案したのが、「夜のベーコンエピ」(写真上)。塩辛入りなどさまざまなトライをしたが、おいしいガーリックペーストと岩塩、ブラックペッパーを生地に練りこむことで、思いどおりの味になったという。

ニンニクがかなり入っているので日中は控えたほうがいいと思い、「夜のベーコンエピ」と名づけたというが、ワインのお供に夜、じっくり味わいたくなるパンでもある。パンチのきいたガーリックの香りと芳ばしい麦の香りで、どんどんワインが進む。

「たっぷりあんこと笑っちゃうくらいの白玉のパン」(写真上)は、こしあん、白玉団子とともに焼きこんだパンにクリームチーズをトッピングしている。湯種を多く使ったやわらかい生地を、あえてミキシングを抑えてボリュームを出している。「つなぎきらないから、むっちりした面白い食感になるんです」(下田さん)。

パン生地に白玉団子は違和感がありそうだが、生地のむっちり感と白玉団子の歯を押し返す弾力が意外な調和。小麦の甘さ、米の甘さ、こしあんの甘さが響き合い、ほのかな塩味のあるクリームチーズがいいアクセントになっている。こしあんのボリュームから甘いパンをイメージするが、甘みはほんのりあるかなきか。だから素材自体の甘みの個性が感じられるのだ。

「だったら嬉しいですね。僕は甘すぎる味付けのパンが好みではないので、自然にそうなってしまうんです」(下田さん)

実はスコーンが苦手だから作った、自分好みのスコーン

「トラディッショナルなスコーンの、パサパサした食感が苦手」という下田さん。「栗とクルミの全粒粉スコーン」(写真上)はそんな下田さんが、自分が美味しいと思えるスコーンを作りたいと考え出したもの。一般的なスコーンよりも高加水の生地を天然酵母で発酵させ、バターも多く使用している。全粒粉の香ばしさが、栗の野趣のある甘みをより引き立てている。

土曜限定で販売している大人気の「栗とナッツのティラミスナチュレ」(写真上)は、「自然の力を感じられる人為的でない仕上がりのパン」をイメージして作ったおやつパン。天然酵母を使った栗、アーモンド、コーヒー、チョコチップを練りこんだかたい生地にクリームチーズを包餡し、閉じ目を上にして焼いている。仕上げにマスカルポーネとココアと栗の甘露煮をのせて完成。かたい生地だが、歯切れのいい食感と噛みごたえの良さを楽しめる。

「食べた人を圧倒し、感動させ、一発でやっつけたい」

「生花師範の母親にいろいろ言われながら(笑)」(下田さん)、自分の字で揮毫した看板(写真上)。下田流という店名にしようと思ったのは20歳の頃。親友と青春18切符を使って弾丸で関西旅行をした時に、『まりお流』という名の衝撃的なおいしさのラーメン店に出会い、「自分の店を持つ以上、こんな風に誰かの心を揺さぶるようなものを作りたい」と思ったから。

「食べた人を圧倒し、感動させ、一発でやっつけたい」。そんな気持ちでパンを作っている。好きなのは、「作った人の意図が読み取れるパン」という言葉どおり、すべてのパンから下田さんの「こんなパンが食べたい」「食べてもらいたい」という気持ちが伝わってくる。圧倒され、感動し、ノックダウンさせられるようなパンを食べたい人は、この店に急ぐべし!

【メニュー】
下田流生食パン 310円
岩 350円
セレアルレーズンナッツはちみつクリームチーズベーグル 270円
たっぷりあんこと笑っちゃくらいの白玉のパン 330円
栗とクルミの全粒粉スコーン 220円
夜のベーコンエピ 280円
栗とナッツのティラミスナチュレ 350円

下田流

〒175-0082 東京都板橋区高島平7-26-4
非公開
7:30~17:00(売り切れまで)
月曜・水曜・金曜
https://www.instagram.com/shimodaryu/?hl=ja

この記事の筆者:桑原恵美子(ライター)

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