復興支援をきっかけに、高級フレンチから「街のビストロ」へ転身。幡ヶ谷の優しい一軒『ビストロ ノブ』
2020.10.06 18:00
商店街の路地に佇む、隠れ家的なフレンチレストラン
京王電鉄京王新線・幡ヶ谷駅北口より徒歩5分。六号通り商店街の路地にあるフランス料理店『ビストロ ノブ』。ひとりでも入りやすく、また子ども連れも歓迎してくれる懐の広さに、普段使いしたいフレンチレストランとして特に地元の人たちから愛されている店だ。
カウンター席があるのは、もともと鮨店だった名残。
こぢんまりとした店だが、そのコンパクトな空間がむしろ心地良くリラックスできる。
秋はぶどう、冬はまつぼっくり…など季節によってどこかしら店内のディスプレイを変えているので、違いを探してみるのも面白い。
訪れた人の癒しになりたい。きっかけは、東日本大震災の復興支援
オーナーシェフの貝原塚 信彦(かいはらづか のぶひこ)さんとワイン担当の奥様、二葉(ふたば)さん。信彦さんはアメリカ留学で経済学を学んだ後、料理の道へ。都内のカジュアルフレンチや三田『コート ドール』といった高級店で経験を積み、自分のお店を持とうと思い始めた時、ある出来事が起こる。
東日本大震災だ。
奥様の二葉さんが人道支援の仕事をしていたこともあり、震災後すぐに夫婦で岩手県にて炊き出しを行うことになる。避難所の調理室で、680人分の食事を作る日々が続いた。
「初めのころは寒さも厳しく、調理機器も足りず、お湯を沸かすだけでも大変な状況でした」と信彦さん。
工夫を重ね、おでんやひっつみ汁(岩手の郷土料理)などが提供できるようになると、信彦さんの中で、料理に対してひとつの確信を得た。
それは「温かいものを食べて、ホッとすることで人は癒やされる」ということ。
そして9カ月後、『ビストロ ノブ』がオープン。
元々、日頃フレンチを食べなれていない層の人たちにも気軽に来てもらえるような店をと考えていたこともあり、東日本大震災の復興支援を通して「普段着で行けるアットホームな店」にしたいという思いが固まった。
「高級食材を使うより、地元で手に入る食材を使った素朴なフレンチにしようと思ったんです。カジュアルな方が性に合ってますし」と信彦さんは笑う。
そんな庶民派に徹底しているにも関わらず、なんと『ミシュランガイド東京』のビブグルマンに2018年から3年連続で選ばれている。コストパフォーマンスがよく、質の良い料理が楽しめるという揺るぎない証拠だ。
魚は天然ものを使用。冷凍ものは使わないので活きが良い!
『ビストロ ノブ』といえば、魚料理の良さが評判。特に鮮度を重視しており、魚は冷凍や養殖物は使わず、その日使うものだけを仕入れるようにしている。見せてもらったのはブイヤベースに使う青森産のヒラメ。もちろん天然。かなり大きいサイズだ。
「この近所にとても良い魚屋さんがあるので、そこで仕入れています。日によってはもっと大きなヒラメが入ることもありますよ。ヒラメはなるべく身が厚いものを使うようにしています」(信彦さん)
その時の仕入れによって素材が変わることもあるが、この日の魚介はホタテ、ムール貝、白イカ、ヒラメ、そして天使のエビを使用。時季によっては白子や牡蠣を使うことも。
フランス人も唸る! 魚介のうまみたっぷりのブイヤベース
そして できあがったのが、『ビストロ ノブ』の人気メニュー「トウキョウブイヤベース」(写真上)。なぜ東京なのかというと、食べにきたフランス人が「本場フランスのブイヤベースとはちょっと趣が違うけれど、すごくおいしい。これはトウキョウのブイヤベースだ!」と絶賛したから。
まずはひと口スープをすすると……
口の中にうまみが一気に押し寄せる。確かに、食にうるさいフランス人も思わず唸る味だ!
アナゴやカサゴのアラからだしをとり、そこにタマネギ、セロリ、ニンジンを加えて、ハーブで味を整えたスープは、それぞれの素材のおいしさがぎゅっと濃縮されているかのような、まさにうまみの宝庫。
添えられたアイオリソースを加えると、今度はガーリックの香りが立ち込めてより風味豊かでクセになるおいしさに。
具材を食べたところで声を掛けると、今度は残ったスープでリゾットにしてくれる。うまみをたっぷり吸い込んだご飯が本当においしく、幸せな気持ちになる。
やわらかく、脂身のおいしさが際立つ「亜麻豚のロースト」
続いては「亜麻豚のロースト」(写真上)。亜麻豚とは亜麻仁油を配合した飼料を与え、放牧に近い環境で育てられている岩手県遠野市のブランド豚だ。
復興支援で岩手県にいた時、地元にお金が落ちないという現実にジレンマを感じた信彦さん。「食材を通して地元の生産者を応援したい」という想いから、ご縁のあった岩手の亜麻豚を取り寄せて使っている。
シェリービネガー、フォンドボー、マスタードを合わせたソースにアクセントとしてアンチョビを効かせた亜麻豚のローストは、噛みしめるとほんのり甘い肉汁が口の中に広がり、とってもジューシー。
「亜麻豚はさっぱりした脂身が特徴なんですよ。強調しすぎない味なので、ソースとのバランスが良いんです」と信彦さん。
見かけはボリューミーだが、あっさりとした味わいにぺろりと平らげてしまう。
本格フレンチを楽しめる「お子様プレート」も!(要予約)
子どもと一緒にフランス料理を楽しめるところも『ビストロ ノブ』の魅力。こちらは、キッズ限定メニュー「お子様プレート」(写真上)。お子様プレートを始めたきっかけは、幼い子どもを連れていけるレストランが少ないという実体験から。
「気軽に楽しめるチェーン店があふれている世の中、(個人店ならではの)一つひとつ手をかけ、心を込めて作った食事を家族と食べたという思い出や味の記憶を大切にしてもらいたいという食育的観点、そして長い目で見た個人店の未来につなげたいという思いもあり、考案しました」(信彦さん)
栄養バランスも考えられた手づくりメニューなので前日までの要予約だが、苦手なものやアレルギー対応もしてくれるので安心。
グラタンはベシャメルソースから手作り。マッシュルーム、ブロッコリー、タマネギなど野菜をたっぷり使う。エビフライは揚げたてでサクサクだ。
ハンバーグは国産牛+国産豚の合い挽き。歯ごたえがあり、噛みしめるほどうまみを感じる。デミグラスソースも野菜のだしが効いていて、とても手が込んでいるのがわかる。
ひき肉は、注文した分だけをその場でミンチにするこだわりの肉屋から仕入れている。
「魚もそうですが、お肉も野菜もお酒もすぐ近所の商店で仕入れているんです。ありがたいことに、どのお店も上質なものを揃えてくれているので」(信彦さん)
「復興支援の経験を通じて、地元のつながりを大切にすることを学びました。だからなるべく食材は地元で買うようにしています。そうすると今度はお店の方がお客さんとして食べに来てくれて、さらに交流が生まれたり…。まだ子どもが小さかった頃、近所の八百屋さんが深夜まで子どもを預かってくれたこともありました」(信彦さん&二葉さん)
渋谷区という都会でありながら、心温まる交流ができるのは地元を大切にしているからに他ならない。
ワイン好きの奥様が、これは!と思ったワインをセレクト
ワインは、二葉さんおすすめの銘柄をセレクト。大のワイン好きということもあり、すべて自分で飲んで、「これはおいしい!」と納得したものだけを揃えている。フランス産を中心に、クロアチア、スペインのワインもラインナップ。
「トウキョウブイヤベースにはスッキリ系の白、またはロゼがおすすめです」とのこと。
シェフ、奥様ともに海外経験があるので英語での対応も可能。『ミシュランガイド東京』も認める味でありながら日常的でホッとする、心まであたたまるフランス料理を堪能してみては?
また現在、テイクアウトメニューとして、ランチ(ディナー)ボックスを販売中。
肉or魚料理を選べて、サラダとスープ、バゲットがついて1,500円(税込み)なので、自宅でも『ビストロ ノブ』の味を楽しみたい人はぜひ。
【メニュー】
<ランチ>
・ランチコース 1,450円
(本日のスープ、肉料理or魚料理、パン、ミニサラダ、食後のコーヒーor紅茶)
<ディナー>
・シェフのおまかせコース 3,600円
(アミューズ、前菜、スープ、肉料理、デザート)
・シェフのおまかせコース 5,200円
(アミューズ、前菜、魚料理、肉料理、デザート)
※2020年9月現在、コロナウイルス感染拡大防止対策に伴い、アラカルトは休止中。通常5,200円のコースを4,500円(税別)で提供しています(コースは1種類のみ)
※コロナ対策として扉を開けて常に換気をし、店内には消毒液を設置。テーブルはひとつ置きに使い、ソーシャルディスタンスに対応しています
※本記事に掲載された情報は、取材日時点のものです。また、価格はすべて税別、パン代(サービス料)として300円をいただきます
撮影:佐々木雅久
ビストロ ノブ
東京都渋谷区幡ヶ谷2-9-12 1F050-3312-8210(お問合わせの際はぐるなびを見たというとスムーズです。)
月~土
11:30~14:30
(L.O.13:30)
18:00~22:00
(L.O.20:00、ドリンクL.O.20:30)
コロナウイルス感染拡大防止対策のため、当面の間は営業時間短縮とさせていただきます。
日曜日
https://r.gnavi.co.jp/mfevgkga0000/
この記事の筆者:岩科蓮花(ライター/書家)
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