「うちの彼、年収低くて」と友人に笑った私→彼の印刷所のカウンターで見た、大手企業からの封筒の中身
笑い話のつもりで
付き合って3年になる彼は、町の小さな印刷所で働いています。仕事は丁寧で、休みの日には嫌な顔1つせず、私の買い物にも付き合ってくれる人です。
それでも友人の話を聞いていると、つい比べてしまいました。
「うちの彼、年収低くて」
笑いながらそう言うと、友人は「でも優しいんでしょ」と返してくれました。その場は笑い話で終わったものの、自分の言葉の軽さが、少しだけ引っかかっていたのです。
財布を届けに
数日後、彼が私の部屋に財布を忘れていきました。印刷所は私の職場から歩いて10分ほどなので、昼休みに届けることにしました。
古いガラス戸を開けると、インクのにおいがします。入り口の横には、彼が刷ったという町のお祭りのポスターが貼ってありました。カウンターには誰もいません。奥から、電話で話す彼の声が聞こえてきました。
「ありがたいお話ですが、お受けできません」
私の前では聞いたことのない、硬い声です。
カウンターの上には、私でも名前を知っている大手企業の封筒が置かれていました。中から半分ほどはみ出した書類の、一番上の文字が目に入ります。
書類に書かれていた数字
「条件のご提示」
その下に並んだ年収の欄には、彼から聞いていた金額の、倍近い数字が書かれていました。友人に笑いながら言った言葉が、そのまま頭によみがえります。見てはいけないものだと分かっていても、目をそらせませんでした。
奥から足音が近づいてきて、電話を終えた彼が出てきたのは、そのすぐあとです。彼は私の顔とカウンターの書類を、交互に見ました。
「見た?」
「断ったの?」
彼は書類を封筒に戻しながら、小さくうなずきました。
そして...
どうして、と聞きたい気持ちを、カウンター越しにぶつけそうになったのです。倍の年収を断る理由が、どうしても思いつきません。
「帰ったら話す」
彼はそう言って、財布を受け取りました。封筒はカウンターの下の引き出しにしまわれ、もう見えません。
職場に戻る道すがら、友人に笑った自分の声と、電話口の彼の硬い声が、交互に思い出されました。倍の年収と引き換えにしてまで、彼が守ろうとしたものは何だったのでしょうか。
(20代女性・会社員)
本記事は、ハウコレ読者への独自アンケートに寄せられた実体験をもとに制作していますが、個人が特定されないよう、一部設定を変更しています。
(ハウコレ編集部)
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