「誰に会うの?」に「それは、まだ言えない」と答えた俺→ノートに並べた質問の先で会おうとしていた人
言われたくなかった言葉
付き合って2年になります。彼女の実家に挨拶に行きたいと考えはじめたのは、半年ほど前でした。そのために、まず今より安定した職場に移りたかったのです。
画面を彼女に向けて、切り出しました。
「転職しようと思ってる」
「辞めるなら、次を決めてからのほうがいいよ」
彼女の言うことが正しいのは分かっていました。けれど、その口ぶりが、弟を心配する姉のように聞こえたのです。結婚を考えている相手に、子ども扱いされたくありませんでした。
「年上ぶるな」
言った直後に後悔して、ノートパソコンを閉じてキッチンへ逃げました。
頼れるのは彼女だけ
気まずさから、そのあとは返事が短くなりました。そのくせ、彼女の両親に会う準備だけは進めていたのです。新しい職場も、なんとか決まりました。
困ったのは、挨拶の作法でした。スーツの色も、最初に何を言えばいいかも、俺には分かりません。彼女の両親のことを一番知っているのは、彼女です。
「次の休み、少し時間ちょうだい」
「いいよ」と届いて、すぐに「ありがとう」と返しました。
当日着ていったのは、練習のつもりで選んだ紺のジャケットです。彼女の部屋で正座してノートを出し、覚悟を決めて言いました。
「今日だけは、年上として聞いてほしい」
言えなかった相手
彼女は1つずつ、ちゃんと答えてくれたのです。
「スーツは紺とグレー、どっちがいい?」
「初めて会う人に、最初に何て言えばいい?」
「目上の人と話すとき、俺の話し方で直したほうがいいところある?」
紺がいいこと、名乗ってからお礼を言うこと、語尾を伸ばす癖のこと。全部ノートに書き込みました。
「誰に会うの?」
「それは、まだ言えない」
あなたの両親です、とは言えませんでした。挨拶に行きたいと伝えるのは、指輪を用意してからと決めていたからです。
そして...
玄関で「助かった」と頭を下げたのは、本心からでした。
年上ぶるなと言ったあの日のことは、まだきちんと謝れていません。指輪を渡すときに、一緒に謝るつもりです。
ノートの最初のページには、彼女の答えを写した「紺」の字があります。年上ぶるなと言った相手の言葉を、俺は誰よりも頼りにしていました。
(20代男性・会社員)
本記事は、読者アンケートに寄せられた実体験をもとにした本人視点の記事を参考に、相手側の心情を想定して制作しています。実際の相手本人への取材ではなく、編集部による解釈を含みます。
(ハウコレ編集部)
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