「元カノのほうが料理上手だったな」と言った俺が、数日後、彼女に隠れて製氷皿で凍らせていたもの
軽い気持ちで口にした一言
きっかけは、彼女の肉じゃがを食べていたときの俺の一言でした。
「元カノのほうが料理上手だったな」
深い意味はありませんでした。元カノの料理は味がはっきりしていて、それをふと思い出して口に出しただけ。
でも彼女は自分の器を持って立ち上がり、流しに置いてから言いました。
「じゃあ明日から、自分のごはんは自分で作ってね」
「え、そこまで言う?」
俺はそう返して笑ってごまかそうとし、彼女の顔を見てやめました。冗談で済む雰囲気ではなかったのです。
何を作っても届かない味
次の日から、彼女は自分の分だけを作るようになりました。
俺は市販のたれで野菜炒めを作りました。元カノがよく作ってくれた味に近く、これで十分なはずでした。ところが2日、3日と続けるうちに、どれも同じ味に感じてきます。
食べたくなるのは、あの日の彼女の肉じゃがのほうでした。見よう見まねで作っても、しょうゆと砂糖の味しかしない。何が違うのか分からないまま冷蔵庫を開けて、奥の瓶に目が留まりました。
彼女が週末に昆布とかつお節でとっている出汁。あの肉じゃがの味の土台は、これだったのです。
製氷皿に貼ったメモ
勝手に使ったと知られたら、あの一言がもっと格好悪くなります。正直に頼む勇気が出ず、彼女がお風呂に入っている間に自分の分を作りながら、少しずつすくって製氷皿でこっそり凍らせました。減ったと気づかれない量だけです。氷は保存袋に移し、製氷皿はラップで何重にも包んでメモを貼りました。
「さわらないで」
それから何日かして、彼女が製氷皿を取り出すのがソファから見えました。俺は慌てて声をかけました。
「それ、まだ開けないで」
振り返った彼女が聞きました。
「何が入ってるの?」
「今度ちゃんと言うから」
俺はそれだけ返しました。ちゃんと作れるようになってから話したい。そう思って、ソファに座り直しました。
そして...
凍らせた出汁を溶かして試すうちに、ようやく近い味になりました。次の休みの日、その肉じゃがを彼女の前に置き、頭を下げました。
「元カノのほうが上手なんて、言える立場じゃなかった」
彼女はひと口食べて、少し笑いました。
出汁を勝手に使ったことを打ち明けたのは、その夜です。製氷皿のラップを外して見せると、彼女はもう一度笑いました。
「次は出汁から自分でとってね」
その次の休み、俺は昆布を買ってきました。彼女は今も、自分の分しか作っていません。製氷皿には、また氷が並んでいます。
(20代男性・営業職)
本記事は、読者アンケートに寄せられた実体験をもとにした本人視点の記事を参考に、相手側の心情を想定して制作しています。実際の相手本人への取材ではなく、編集部による解釈を含みます。
(ハウコレ編集部)
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