「今日は3人分なんです」パフェを3つ並べた私に、店員さんが「おかえりなさい」と言った事情
新幹線の中で届いた2通のメッセージ
この店に来るのは、10年以上ぶりでした。大学を出るまでの4年間、私はここでアルバイトをしていたのです。同じ時期に入った同期の2人とは、今もグループチャットでつながっています。
「久しぶりに3人であの店に集まろう」
そう3人で決めたのは半年前のこと。遠くの街に住む私も、新幹線の切符を取っていました。
ところが、新幹線に乗ってしばらくすると、2通のメッセージが届きました。1人は「天候不良で飛行機が欠航になった」、もう1人は「急に仕事が入って、どうしても抜けられない」。2人とも謝ってくれたあと、1人がこう続けました。
「せっかくだから、パフェ3つ頼んで写真送って。次は絶対3人で行こう」
メニューの最後のページ
店に着いてから注文するまで、メニューの最後のページを開いたまま、メッセージを読み返しては窓の外を眺めていました。
当時は閉店作業が終わると、3人でよくこのページを眺めたものです。いちご、チョコ、抹茶。「いつか3つ全部頼んで、3人で分けよう」と言い合いながら、結局一度も頼まないまま、私たちは卒業してそれぞれの街へ散っていきました。
運んできてくれたのは、年配の男性の店員さんでした。グラスを置き終えると、その人は私に声をかけました。
「3つとも、お1人で大丈夫ですか?」
少し迷ってから顔を上げ、答えました。
「今日は3人分なんです」
そのとき、胸元の名札に見覚えのある名前が目に入りました。髪はすっかり白くなっていましたが、当時の店長です。店長は、テーブルの横にしゃがみ込みました。
店長が覚えていたこと
「閉店後にメニューを眺めてた、あの3人の?」
店長の、周りには聞こえないくらいの小さな声でした。
「覚えててくれたんですか」
私がそう聞き返すと、店長は目を細めました。
「いつ頼むのかと思って、ずっと見てたんだよ」
口元に手を当てたまま、私は何度もうなずいていました。やがて店長は立ち上がり、去り際に少しだけ声を大きくしました。
「おかえりなさい」
厨房へ戻っていく足音を聞きながら、しばらく顔を上げられずにいました。少しにじんで見える、テーブルのパフェ。
それから2つのグラスを向かいの空いた席の前へ滑らせ、3つが並ぶように写真を撮りました。「店長、まだいたよ。覚えててくれた」と添えて送ると、すぐに2人から返事が届きました。
「ちゃんと3つある!」
「店長まだいるの?会いたかった」
グラスを自分の前へ戻し、いちご、チョコ、抹茶の順に一口ずつ。2人の分まで、ゆっくりスプーンを運びました。
そして...
しばらくすると、通路を挟んだ隣の席に、いちごのパフェが運ばれていきました。少し照れたようにグラスを見つめる、仕事帰りらしい女性。
思わず笑いかけて会釈をすると、その人も慌てたように頭を下げてくれました。
3人で分けるはずだったパフェを、その日は1人で食べきりました。グループチャットには、次の日程の候補がもう並び始めていたのです。
(30代女性・事務職)
本記事は、読者アンケートに寄せられた実体験をもとにした本人視点の記事を参考に、相手側の心情を想定して制作しています。実際の相手本人への取材ではなく、編集部による解釈を含みます。
(ハウコレ編集部)
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