「一番安いので」と店員に言った俺。値札の前で頭にあったのは、自分のことだけだった
値札の前で分かったこと
仮の指輪でプロポーズして、本物は2人で選ぶ。ネットで見たその形が格好よく思えて、深く考えずに決めました。
「本物は、一緒に選びに行こう」
そう言った時、彼女は本当にうれしそうでした。ただ、本物の指輪がいくらするのか、俺はちゃんと調べたことが一度もありませんでした。
売り場で値札を見て、ようやく分かったのです。今の貯金では、並んでいる指輪のほとんどに届かない。この1年、カメラのレンズや飲み会に使った分を、きちんと数えたこともありませんでした。
彼女の「これがいいな」に返した言葉
「これがいいな」
彼女が左手を見せてきたのは、細い線がねじれた指輪でした。値札は、さっきから目で追っていた中でも高いほう。とても届く額ではありません。
お金が足りないと、彼女と店員さんの前で言うのは格好悪い。そう思った瞬間、彼女の手元から目をそらし、ショーケースのほうを向いたまま口にしていました。
「一番安いので」
「でしたら、こちらになります」
店員さんが出してきた細い指輪を見て、これなら払えると思い、彼女に聞きました。
「これでいいよね」
指輪なんて、どれも似たようなもの。どこかでそう思っていたのも本当です。
「今日は、決めなくてもいい?」
彼女の声を聞いても、疲れたのかな、くらいにしか考えていませんでした。
コンビニの角で聞いた彼女の気持ち
帰りの電車で、彼女は一言も話しません。窓の外を眺めながら、俺が考えていたのは来月の支払いのことでした。
駅からの道を、彼女は俺の半歩うしろで歩いていました。コンビニの角の手前で、俺は振り返りました。
「怒ってる?」
「一緒に選ぼうって言ったの、そっちだよ」
何か言いかけた俺を待たずに、彼女は続けました。
「一生の記念になる指輪だから、予算のことも含めて、一緒に選べると思ってた」
彼女の声は、少しずつ大きくなっていきました。
「なのに、私の顔も見ないで決めたよね」
彼女の左手に目を落としたまま、あの売り場で自分が何を見ていたのかを思い返しました。彼女の指でも顔でもなく、値札と、自分の財布のこと。頭にあったのは、自分のことだけでした。
そして...
言い訳を探すのをやめて、顔を上げました。
「ごめん。お金、全然足りなかった。言うのが格好悪くて、安いのって言えば済むと思った」
「最初から、そう言ってよ」
彼女はそう言って、少しだけ笑いました。その左手を見て、俺は約束しました。
「ちゃんと貯めるから、あの指輪にしよう。それまで待ってほしい」
新しいレンズは、あの日から買っていません。給料が入るたびに決まった額を別の口座へ移し、彼女が選んだ指輪の名前は、スマホのメモの一番上に残しています。
(20代男性・会社員)
本記事は、読者アンケートに寄せられた実体験をもとにした本人視点の記事を参考に、相手側の心情を想定して制作しています。実際の相手本人への取材ではなく、編集部による解釈を含みます。
(ハウコレ編集部)
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