「先に寝てて」が続く夫を疑った私→書斎の引き出しで見つけた物の正体
書斎へ入っていく夫の背中
結婚して5年、夫とはソファで同じドラマを見てから寝室へ向かうのが習慣でした。それが半月ほど前から、夫は食器を片づけると「先に寝てて」と言い、スマホを持って書斎に入るようになりました。
夫が寝室に来るのは、決まって私が眠ったあとでした。目を覚ますと、隣のシーツだけがひんやりしたままの日もありました。
理由を聞けば済む話です。それでも、聞いた瞬間に何かが決まってしまう気がして、理由を尋ねる一言を食器棚の前で何度も飲み込みました。代わりに、夫のスマホに届く知らない女性の名前を、勝手に思い浮かべていたのです。
「ちょっと調べもの」と言った夫の机
ある夜、ほうじ茶を入れた湯のみを持って、書斎のドアを開けました。ノックをしなかったのは、わざとだったのかもしれません。
夫は机の上の白いものを引き出しに滑り込ませ、すぐに閉めました。
「ノックくらいしてよ」
「何してたの?」
「ちょっと調べもの」
夫はそう言いましたが、机のパソコンは画面が暗いまま。私は湯のみを机の端に置き、それ以上は聞かずにドアを閉めました。廊下に出たあとも、引き出しが閉まった音が耳から消えずにいたのです。
夫が美容院に出かけた休日、玄関の鍵が閉まる音を聞いてから書斎の前に立つまで、しばらくかかりました。勝手に開けていいはずがないと分かっていながら、引き出しの取っ手に指をかけたのです。中には便箋が1冊と、その上にボールペンが入っていて、一番上の1枚には夫の字が並んでいました。
便箋の1行目にあった宛名
1行目に書かれていたのは、女性の名前ではありませんでした。
「お義母さんへ」
夫が自分の母親を呼ぶときは「母さん」です。「義」の字がついているということは、宛先は私の母でした。その下の数行は、ペンで黒く塗りつぶされていて読めません。
知らない名前を探していたはずが、出てきたのは夫がいつも口にする母の呼び名でした。疑っていた自分が恥ずかしくなり、同時にわけが分からなくなりました。半月前に実家へ寄ったときも母は変わりなく、夫が手紙を書くような用事は思い当たりません。
どけたボールペンが元はどこにあったのか思い出せないまま、便箋の横に置いて引き出しを閉めました。帰ってきた夫は、短くなった襟足を手で触りながら、いつもと変わらない顔でソファに座りました。こちらから切り出すきっかけは、どこにも見当たらないまま。
そして...
その夜も、夫は食器を片づけると「先に寝てて」と言いました。
「うん」
返事はそれだけにして、寝室の明かりを消しました。少し開けたドアの向こう、廊下の先で、書斎のドアの下から細い明かりが漏れていました。
知らない女性の影は、もう頭の中にありません。代わりに残ったのは、塗りつぶされた数行のことでした。夫は私の母に、何を書こうとしているのでしょうか。
(30代女性・事務職)
本記事は、ハウコレ読者への独自アンケートに寄せられた実体験をもとに制作していますが、個人が特定されないよう、一部設定を変更しています。
(ハウコレ編集部)
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